松葉町中二少女所在不明事件

 

10月9日 午前9時30分 ……

南洋署、大講堂にて捜査本部が設置された。


収容能力300人の講堂には、100人弱の捜査関係者が集まっていた。


事件名「松葉町中二少女所在不明事件」


捜査本部室入口に掲げられた、署長の書いた長ったらしい戒名の字体にも緊張感が漂っている。



「10月2日、午前7時頃から市内松葉中学に通う国仲美摘みつみさん …14歳が通学途中に所在不明になっております。この時間は ………」


渡利管理官が事件の概要の説明を始めていた。

皆、一様に硬い面持ちをひな壇に向けている。


マッサン、綱海、白石と並んで、最後列から眺めるひな壇には、俺が口も利いた事もないような重々しい 面々が、顔を揃えていた。


捜査本部長の巻本刑事部長(警視長)。


副本部長の森尾南洋署長(警視正)。


事件主任官の榊原捜査一課課長(警視正)。


広報担当官の八代総務課長(警視)。


捜査班運営主任官の渡利管理官(警視)。


本部担当検事の暮林が一番右。


何の役割なのか分からないが、何故か皇太子、瀬尾副署長(警視)も一番左に座っていた ……きっと無事事件解決の折りには、何かの功績者として讃えられるのであろう。


そして ……

中央に鎮座する殿様、蓮見県警本部長(警視監)。


おそらく、蓮見本部長と巻本刑事部長が南洋に滞在するのは今日だけだ。

捜査本部の運営は、榊原課長の監視の元、もっぱら渡利管理官が仕切る事になるはずである。



ひな壇のこちら側の最前列には島の席が目立っていた。

島の周りの長机には、数々の機材と大量の捜査資料が積まれてあった。

実は島が鑑識資料分析官として捜査本部に呼ばれる事は、珍しい事ではなかった。


県警鑑識課の係長、島警部補は本庁ではエースと呼ばれる。

鑑識課の島が刑事課を差し置いて、本庁のエースと呼ばれる所以は、その分析力を高く評価されているからだ。


犯罪捜査において、他人に無関心な社会となった昨今、人からの情報を得ることが難しくなっている。

よって「物からの捜査」の重要性が年々高まっている。

犯罪現場等へ遺留した極微細な「物」から、犯人に関連する捜査資料を得る「微物鑑識」の高度な分析力が要求される中、島の資料分析力によって解決に導かれた事件は数知れないと言われていた。


今や事件解決の決め手は、コンピュータ解析と資料分析で9割方占めると言われる。


島は、資料分析だけでなく、コンピュータ分野においても、違法捜査を行う「裏の顔」も持っていた。

島は今や一流のハッカーとしても名を馳せる存在だった。



・・・ ! ?


・・・まただ


巻本本部長が俺を見た ……


気がする。


俺も気になっていた。

何処かで会ったような気がしてならない。


本庁の刑事部長と俺が ……


絡んだ事などないはずだが ……




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