補欠合格

「暴力からは何も生まれない」


 そんな事はわかっているつもりだった。


 俺は高校三年の夏、仲間を誘って千葉洋平を襲った。

 そして、俺の自己満足だけを満たす衝動的な一撃が、後に多くの犠牲者をだす要因にもなった。

 闇討ちをした事、一人でやらずに仲間を巻き込んだ事、衝動的に放った俺の最後のひと蹴り。

 俺はそれらを一生後悔する事になる。


 水野、大沢、西崎らに圧倒され、ヒロに感動を貰い、島や暮林と共に必死にもがき、深町監督に導かれた濃密な日々。

 そして祥華との出合い。


 南洋大で過した俺の四年間は、まさに煌めきと焦心の日々だった。





 大沢とヒロは南洋大学に行こうとしている。

 それを知った北校野球部の何人かは、ならば自分もと考えた。

 勿論俺もそうだったし、その思いは誰よりも強かったと思う。


 “ もう一度、二人と野球がしたい ”


 当時の南洋大学の偏差値は、今と比べようもないほど低かった。


 それでも、その当時、俺の偏差値は南洋大のそれに届いておらず、スポーツ推薦を受けられる内申点にも遠く及ばなかった。

 その十年後、偏差値の跳ね上がった南大に合格している梨木は、意外と秀才だったわけだ。

 


 焦った俺は死にものぐるいで受験勉強に明け暮れた。

 成績優秀だったヒロや暮林にも、かなり助けてもらった。

 そして法学部を受験した。

 今なら考えられないが、何故か法学部の倍率が最も低かったのだ。

 何せ当時の法学部は、今よりも十五も偏差値が低かったのだ。

 それでも俺は合格ラインに届かず、二次募集でギリギリ潜り込む事ができた補欠合格者だった。


 大沢、ヒロ、島、暮林、桜町、そして俺。

 北校から六人が南洋大に進んだ。


 充実と嫉妬と焦り。

 そんな四年間の始まりだった。

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