第74話 虫取り大作戦

 魔王達というゲストのおかげで慌ただしくも楽しく過ごせたのはいいのだが、魔王一行ロスというか、皆の脱力感がチラホラと垣間見える。

 但しその中でも異彩を放つように、気合が入っているのはト・ルースが陣頭指揮をして漁業を行なっているリザードマン達、そして魚の天ぷら愛好家になった者達。トレニィアや猫人族など普段と変わりのないマイペースな人達はいつも通り。


 俺も少なからず解放されたという感覚があり、更には久しぶりに酒を連日飲んだ事もあったので休み休みと設備を拡張している。今は以前に排水設備に使用していた木の橋を使って首飾りの噴水からペイトン宅のある方面へと水路を伸ばせるかという試みの真っ最中。


 噴水周りだけ鉱石を使い、連絡通路のようにしてある程度高い位置から水を流してみたのだが以前の水路の時にも経験しているので、お手伝いを申し出てくれたケンタウロス数名と試行錯誤を繰り返し、それ程時間も掛からずに結果は良好。

 やろうと思えば、ペイトン宅やケンタウロスの住む家の近くまで水路を通す事はいつでも可能という段階で止めておいた。


 次にやるべきは、という事を考えた時にペイトン、ペトラ、そしてラルバにオレグといった面々が顔を揃えて俺の元へとやってきた。そしてペイトンが一歩前に出て、代表して口を開いた。


「ホリ様、出来る事ならば先に菜園をやれる場所を作りたいと思っているのですが。野菜や果物、農作物が採れるようになったり、これがうまくいけばポッド様やトレント達を拠点の内部に移す事も目処が立ちそうではありませんか?」

「あと、どうしても自然の恵みは時間が掛かります。出来る限りはやってみてはいるのですが、やはりこの辺りの土はまだまだ生育が遅いようです。芽の出た山菜なども、成長が比較的遅いので……早めにやっておいて損はないと思います」

 ペイトンとペトラがそういうのなら、早めに何かをしておいた方が良さそうだな。


「それなら少し考えてあるんだ。まだまだ時間は掛かるのもわかるし、手を打っていこうか。ラルバとオレグは農業や何か育てたい物がある人達に声をかけておいて貰える? 種はスライム君に、土はペイトンとペトラ、ポッドに聞きながら相談だね」


 そこから数名に手を借りて数日かけて作った物、マンションのベランダなどで家庭菜園を行う時に使われるプランター。それもかなり大きな物だ。

 一度ポッドやペイトン達に完成品に土を入れた物をポッドの目の前に置いて見てもらったところ……。

「そうじゃなあ、水が底に堪らんようにして横の方にも穴を開けておけば大丈夫じゃろ。あとは底が浅い物と深い物があればいいかもしれんのう」

「底は一応、こういう風に網目状の切れ込みを入れてあるよ。横の穴と底の高さが違う物はまだ作ってないな、あとで作っておこう。ありがとうポッド」

「ホイホイ、そうじゃホリ、ハーピー達に『空から水を撒くのは中々いい案じゃったぞ』と伝えて礼を言っておいてくれ。若い子達も気持ちよさそうじゃったわい」


 その事をイェルムに伝えた時に話を聞いてみると、どうやら発案者はルゥシアだったようだ。

 曰く「あんだけ革あっても使わないから!」と持ち出した動物やモンスターの素材を使ったようだ。

 数人のハーピーで大きな革の四方を持ち、首飾りの噴水の水をある程度溜められる簡易的な革袋のようにして、そのままポッド達の上まで飛んで来たところで爪で革に小さな穴を開けてトレントの上を飛行すると疑似的な雨が生み出せると。

 おいおい天才か。


「ルゥシアは偉いな、それなら誰かに頼んで大き目な革の袋を作ってハーピー達に渡すよ。穴もいちいち開けなくていいようにしておけば、そこまで傷まないでしょ」

「えへへー、ルゥシアは優秀だからな!」

 胸を張っている彼女の頭をぐりぐりと撫でつける、ぐりんぐりんと頭が動いているが褒められたからか顔は満面の笑みを浮かべている。


 その天才的発明は色々と役に立ったようで、広大になり始めていたソマの実の土再生農場の水まきにも一役買っている。水の撒き方にばらつきというかムラはある物の、ほぼ全ての土に水分を行き届かせるそれは井戸のない農場にとっては最高の発案だったようだ。


 試行錯誤をして散布用の袋も完成してハーピー達に新たな仕事が出来上がると、今度はまた別の問題が生まれてしまった。多少広くなった土地に潤沢な水分、それに伴い芽吹き出す雑草と。


 それにより今までこの辺りであまり見る事のなかった虫が増え始めてきたのだ。それも一気に。


 生命が戻り始めているのはいいのだが、虫が増えれば衛生的な問題に繋がる事もあるし、更に恐ろしいのは夜間。トイレに灯りを持って行こう物なら、びしばしと顔から手からと何かがぶつかる感覚に襲われる。俺やゴブリン達、スライム君が滞在している洞穴も夜間に虫に悩まされる事も増えてきた。ストレスが物凄い。


 だがこれを喜ぶ種族もいる、これは逆にチャンスだとばかりに話し合いの席を設けてきた者達に今説明を受けている。

「つまり、虫をどうにかするのなら農場を囲うように罠、というか網を張ってしまおうという事だね」

「はい、それならば新たにやって来る虫や鳥などからの被害も減ると思われます」

「我らの糸を使えば、網に掛かった虫も張り付いて動けなくなるしな」

 ペイトンや他の農業を中心に活動している者達と、アドバイザーとしてレリーアが同席している。


 彼らの言い分としては虫も貴重な食料になり得るのでいざという時の為にそういった設備があった方がいいと。おいしく頂いている種族もいるのだから、獲れる時に獲っておいて損はないだろうとの事。そうかなぁ……?


「ならいっそ一度盛大に虫取りしようか。夜中にブンブンブンブンうっとおしいのは正直しんどいというのもあるし、殺意が沸くもんね。土地をいっそ焼いて焼畑農業やるかとも思っていたけど、それよりはいいか。纏めて捕まえてしまおう」

「ホリ、言ってはアレだが相当な数に及ぶと思うぞ。それに大きい物から小さい物まで幅が広い。そう易々とどうにか出来るのか?」


 虫取り名人の一人、レリーアがそう言うのなら相当な数いるっていう事だよな。下手するとこの辺りに元々いた虫が戦争の影響で近隣の森へ逃げて、新たに生まれたここの農地に出戻りのようにして帰ってきているというのもあるかもしれない。


「あいつら、魔石の光によく反応するからね。それを使ってみようよ。拠点にある光の魔石をこの計画に使いたいから、皆に呼びかけておいて。それとレリーア、ラヴィーニアとトレニィアに声かけてきて貰える? 準備しないといけない物があるよ。かなり大きい物ね」

「わかった、姉様達なら先程起きていたからな。すぐにこれると思うぞ。ちょっと待っていろ」


 彼女達が戻ってきたところで、頭の中にある大体のプランを話してそれを作り上げていく。

「ふゥん……。それはまた大掛かりねェ、でもいいわァ。まとめてやっちゃいましょォ」

「姉様……、私はあまり手伝えませんが……。それでも頑張ります……」

「むしろどれだけ捕れるのか面白そうだ。是非やってみよう」


 その日の夜に決行すると決めていたので、急ピッチで出来上がった物だが完成度は中々だと思う。

 設置場所からは農場とポッド達トレントの並木道がよく見える。

 夜間に作業している事もあり、灯りを使っている傍からバシバシと虫が激突するのだがそれもうまくいけば大分減るだろう。

「よーしそれじゃあ力自慢達、頼んだよ。第一班、壁作って! 松明の火も一旦消していいぞー!」

 俺がアラクネ達と協力して作り上げた物は虫取り網の柵、それも結構巨大な物。

 これを使い、集めた光の魔石の四方を囲むように立てて粘着性の糸に虫をひっつけてしまおうという作戦。果してうまくいくのかどうか。


 使っていた灯りを全て消し、あちこちから準備完了の声が上がった。作戦の前に巨大虫取り網を持っている力自慢達に、大量の虫に襲われてもいいように色々と装備も作ったので大丈夫だろう。


「よし、それじゃあ魔石を光らせてくれ!」

 俺の声が響き渡ると、拠点にあった全ての光る魔石、かなりの数の光源が一度に光り輝く。夜間だというのに四方の壁をもっている者達や、その近くで待機している虫が平気な者達の姿すら見える程の強く優しい光。


 虫達への影響はどうだろう、そう考えている時に壁を持っている一人が叫んだ。

「ホリ! 来たぞ来たぞ! 音が物凄い勢いで此方へ来ている!」

「ホリ様、これはかなり期待できそうですな! ちょっと楽しくなってまいりましたぞ!」

 壁の一面を支えているアナスタシアとオレグ、耳のいい二人がそう叫んで数秒後にはその二人の支える網に大きな虫が張り付いた。


 そしてそこから始まったのはまさに地獄絵図のような光景。網にこれでもかと虫の腹が張り付き逃げる事を許さないアラクネの糸に動きを拘束されていく。

 それが四方で起きているのだ。

「ウヒィィィ! 気持ち悪いっ!!」

 更に張り付いた虫に別の虫がぶつかり鈍い音を出したり、それに加えて体積の大きい虫がぶつかると小さい虫が潰れた影響で汁が飛ぶ事もしばしば。発狂しそうになるのを堪えて頃合いを見ながら指示を出す。


「よし、一度魔石に布を被せて暗くしてくれ! 壁担当第二班! 準備はいいか!」

「こちらは準備万端だ! これは大変な事になるな……! 皆やるぞ!」

 ゼルシュが叫び第二班がそれに応え、四方を囲む壁を持ち上げたところで、一度完全に魔石の光を遮断し、代わりに新たに作った小さなランタンの灯りを頼りに壁が変わる。

「ラヴィーニア、レリーア、トレニィア、網の交換頼んだよ! 想像以上に虫が獲れそうだ、あと一、二回はやりたいからよろしく!」

「はァい、あれだけ獲れると何かスッキリするわねェ。見てて楽しいわァ」

 ひらひらと手を振り、余裕の彼女。くそ、虫が平気な女性ってなんだよ頼りになるな! 女々しさで勝ってるのが悲しい!


 それを数回やると、目に見えて虫がいなくなる……、という事はなかった。近隣の森から来てるのかこいつらはと言いたくなる程捕っても捕っても減る気配がない。

 予め作っておいた網に加え、アラクネ達がもう糸が出せないという限界の回数をやってようやく勝負が決したと言ってもいいくらいの成果が出たと思う。


 その成果がトレニィアによって纏められた糸の中でうごめいているのだが……。これは直視に耐えない。この量はとてもじゃないが想像していなかったな。

「どうしてこんなに獲れてるんだろう、明らかに多すぎるでしょこれ」

「やはり近隣の森から飛んできているのかもしれないですね。しかしこれだけ捕れればかなり害は減ると思いますよ」


 そうであると信じたい、それにこのやり方だと益虫も害虫も纏めて捕まえてしまうからあまりいい方法でもない、多用は控えるべきだろう。

 その虫達は纏めて団子状にされて水槽の魚の餌にされた。俺は捕まえたという結果だけを見守り、そこから先は関与していない。丸投げである。


 夜が明けてからポッドに虫の事を聞いてみると、どうやら彼自身もかなりやられていたのだとか。なので大量に虫が捕獲されてからは多少ストレスが和らいだようだようで、トレント達も喜ぶように葉を揺らしていた。


 ぽちゃぽちゃと魚に餌をあげているウタノハ筆頭に笑顔を見せている子達。微笑ましい映像なのは理解できる、ただあれ虫の団子なんだよな……。魚達の食いつきもいいから気にしてはいけないのだが。


 どれだけの期間で虫が復活するかはわからないが、いよいよ拠点内のプランター設置というところまでやってこれた。

 場所はあるので、居住地から離れた位置に場所を決めて作り上げた物を置いていく。ポッドやペイトン達に貰った土を使い、準備を始める。

 この土も彼らが準備してくれた物だが、やはりこの辺りの土の状態はいいらしい。元の土壌の良さに加えて多種多彩な骨がいい味を出していると森の賢者は言う。

 更に「もう少しすれば以前に倒したゴブリン達を埋めた周辺の土がいい状態になるぞ」と付け足した、逞しいな異世界。


 割とこうなるとは思っていたのだが、この拠点に住む者達の新たな取り組みへの姿勢というのは目を見張る物がある。何故ならいつもほぼ全員が参加、ないしは協力体制はいつでもといった具合で。

 新たに始める家庭菜園も、可能な限りと全員が参加している。

 その上、俺やゴブリン達のいる洞穴へやってきてどんな物の種があるのか、そしてその種を持ってポッドのところへと行きどう育てればいいのかを聞くという勤勉さ。

 かなりの数を設置したのにも関わらずプランターに空きはなく、むしろもっと作って欲しいという声がよく聞かれる程だった。


「じゃあこのプランターの説明も終わったところで、ぼちぼち植えていきますか。それではペイトン先生、ペトラ先生、よろしくお願いしまーす! はい拍手!」

「ホリ様、その先生というのは辞めて頂けませんか……? 恥ずかしいのですが」

「いつも通りでお願いします……」


 俺の呼びかけに照れ臭そうにしている両名が拍手の音の雨の中、皆の前へとやってきて種の植え方を教えている。

 これを楽しんでやっていたのは姫巫女一族の侍女達。彼女達はこのような事をした事がなく、土を弄るのも初体験らしい。以前までは他のオーガ達からの供物や貢物のような物があったり、自身らの里にも農地はあったが、恐れ多いという事で触らせてもらえなかったのだとか。


 ならばウタノハにも参加をさせてみよう。

「おーい、ウタノハー」

「ホリ様、どうされましたか?」

 彼女はすぐ近くで俺達の声を聞いて楽しんでいたので、手を引いて連れてきてみた。

 俺やゴブリン達、スライム君のプランターの余ったスペースに彼女にも種を幾つか植えさせてみる。意外な事にアリヤもベルもシーも花の種を植えたので、俺も花の種という事になった。全体で言えば食料の種が七割、花などの種が三割といった感じ。


「そうそう、優しく、もっとふわっとかけるといいらしいよ」

「こ、こうでしょうか……?」

「ウタノハ、種ノ気持チニナレテナイネ!」

「モット種ト土ヲ感ジルンダヨ!」

 手の感覚を頼りに悪戦苦闘している彼女、訳の分からない事を言っているゴブリン達と共に植える事も完了し、このプランターは完成となった。


 完成して満足、という流れだと思ったのだが、ゴブリン達を始め数十名が何かを握り締めている。

 うーん、あれはどう見ても……。

「アリヤ、ベル、シー、三人ともその握り締めているのは何……?」

 恐る恐る彼らに聞いてみると、弾けるような邪悪な笑みで俺にそれを見せつけてきた。

「何カノ骨デス!」

「肥料ニイイッテ! ポッドガイッテマシタ!」

 よく見ると周りの者達も何かしらの骨を砕いて土に混ぜ込んでいた。何ここ、何か化けて出たりしないよね……。というか、何かって何!?


 ゴブリン達は笑顔でそれを叩き砕くと、その粉末を新たなプランターの中の土に混ぜ込んでいた。どうやらこのプランターにも事前に同じ事をしていたらしい。勤勉な事はいい事だ、明らかに人間の頭部の骨を笑顔で砕くその姿……、様になる。


 そこからオラトリも加わり、更に二つほど新たに鉢を完成させた。

 流石に大きな物が多数あった事もあり、更に普段狩猟を中心にやっている者達は不慣れな作業だった為か割と汚れてしまった者が多かったので、猫人族に頼み風呂の時間を多少早めておいて貰った。……のだが。


「たのもー」


 俺達が拠点の内部で土にまみれ、それが終わった時に丁度良く呑気な声でそう呼び掛けてくる者がいた。

 魔王が帰った日に『ケジメをつけてくる』と言って親元へと帰った彼女、オーガ達独特の民族衣装の上にマントを羽織り、大きな鞄を腰にぶら下げている彼女は俺達を見つけると迷いなく俺の元へと歩いてきた。


「やあ人族、今日からここでお世話になるよ。よろしくね!」

 笑顔でそう告げる彼女、目元には白い布を、そして口元にはアザのような物があるが殴られでもしたのだろうか。彼女が笑顔で差し出した手を握り返すと、姫巫女の侍女から一斉に非難が飛ぶ。

「フォニア! ホリ様相手に馴れ馴れしいですよ!」と声を荒げる侍女達を手で静かにするよう戒めながらウタノハとオラトリが彼女へと歩み寄る。


「よく戻りましたね。これからは共に頑張りましょう」

「フォニア、次はない。何か不穏な気配を感じたら即座に殺す、今度は確実に頭を叩き潰してやるからそのつもりでな」

「おお、怖いなぁ。うん、大丈夫だよ。もう姫様を裏切るような事はしない、誓うよ。それに……」


 フォニアは視線を俺に向けてにやりと牙を見せるように笑っている。うーん、よからぬ気配を感じる。そして笑顔そのままにテクテクと俺の横まで歩いてきた、と思っていたらいきなり腕を抱きしめるようにされた訳だけども。おうふ、これは……。


「この人族には私をはずかしめた『責任』を取ってもらわないといけないからね! 私を! 辱めた! だから大丈夫、裏切らないよ!」

 彼女は声高に宣言するように叫ぶ。

 うーん、この場がどうなるか知った事ではないけど、目を瞑り腕に当たる感触へと感覚を研ぎ澄ませるように向ける、素晴らしい。


「おい、どういう事だ。このオーガは何を言っているんだ?」

「ホリィ、オ・ハ・ナ・シしましょォ?」

 後ろから聞こえた声とがしりと掴まれた肩、その掴まれた肩の事を忘れるように腕に当たる素晴らしい物の感触を一定時間堪能する。


 あの時ほぼ酔っていて意識のなかった彼女達へ説明するのも難しいなぁ。


「オラトリ、あとの説明は頼んだ! サラバダー!」

 全力疾走で逃走するも、白銀のケンタウロスに即座に御用となる。

 だがここで捕まるのは想定内、俺も成長するのだ! 即座に彼女へと抱き着き芸術品の如き美乳への攻撃セクハラを食らわせ、表情はあまり変わらないのに顔色は紅潮し、狼狽えて拘束が緩んだのを確認したところで再度全力疾走をして逃亡。


 もう少し、あと少しで逃げ切れると走っていたのだが一向に前へと進む気配がしない、あれれー? と首を傾げてしまう。


 それもその筈、成長しているのは俺だけではない。

 ラヴィーニアは俺が逃げ出すのを想定して糸を張りつけ、予めアナスタシアにその先をくっつけていた。つまり、一定距離以上離れる事が出来なくなってしまったのだ。


「くそ! 卑怯だぞラヴィーニア! アナスタシアの可愛い反応見れたんだから良しとしようよ!!」

「何言ってるのよォ、話を聞きたかっただけなのにィ。むしろォ変な事をしてアナスタシアを怒らせたホリが悪いと思うわァ?」


 その時、がしりと後ろから首を掴まれる。細くしなやかに感じる指先に似合わないこの剛力。首を絞める事のないようにそのまま持ち上げられる俺の体、わーい高い高い……。

「さて、下手人も捕まえた事だしな。私達はこのままホリに話を聞いてくる。この前の覗きの事もあるからな、お前達はホリに償いをさせる内容を早急に何か考えておけ。大丈夫だ、私が許可する!」


 女性陣へと叫んだ彼女がそのまま俺の耳元へと優しく囁いた。

「ホリ、大丈夫だ。少し訓練をしよう。な?」


 彼女が普段見せない笑顔、つい見惚れてしまいそうになるその笑顔に騙された俺は、『悪さが出来ませんように』という願いが込められた持てる限界ギリギリの重りのついた棒をポッドの横、トレント達のいる傍で限界を超えて素振りをさせられた。

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