3‐14.置き去りの傘(side 隼人・理久)
原宿の撮影スタジオに連続するフラッシュとカメラのシャッター音。木村隼人が読者モデルを務めるメンズファッション誌、soul streetの撮影が行われている。
『隼人くんもっと顎上げてー、
隼人と同い年のモデル仲間の理久は衣装に身を包んでカメラの前に立つ。スポットライトを浴びる二人は抜群のコンビネーションで撮影スケジュールをこなしていた。
最後のカメラチェックが終わり、今日の撮影は終了した。撮影用の衣装から私服に着替えた隼人は荷物から携帯電話を取り出した。通知のランプが灯っている。
控え室で差し入れのピザを頬張りながら内容をチェックすると、メール三件、着信一件に留守電が一件。メールはすべて女からだったが、着信と留守電は同級生の陽平だった。
(陽平が留守電入れるってよっぽどの急用か?)
とりあえず留守電のメッセージを再生した。
{――陽平だけど……よくわからねぇけど亮が二人組の男に連れて行かれた……ように見えた。ちょっとヤバい感じ}
状況は飲み込めたもののこれだけの不確定で曖昧な情報では何をどう推測すればいいのか皆目わからない。隼人は陽平に折り返し電話をかけた。
『亮を連れて行った奴等の特徴は?』
{んー、遠目だったけど……黒いスーツを着て、でもサラリーマンやホストには見えなかった。強いて言うならSP? みたいな}
陽平の説明で大方のイメージは掴めた。スーツ姿なら終業式の日に尾行してきた男達とは別人かもしれない。
{なぁ隼人。お前ら大丈夫か? 亮もお前も、晴も高園も、先月に学校で派手に暴れたじゃん? あれで退学になった連中けっこういるし、お前らのこと恨んでる奴もいるかもしれない}
『わかってる。連絡ありがとな。後は俺がなんとかする』
陽平の心配も
陽平との電話を切って亮の携帯電話に繋げたが電源が切られていた。
男達の件が亮の個人的な要件ならば自分が口を出す領域ではない。幼稚園からの幼なじみの仲であってもそこはわきまえている。
だが目撃した陽平の連れて行かれたの言い回しは気にかかる。少なくとも陽平にはそう見えたのだ。
『隼人ー。帰りどっか寄ってこーぜ』
これからの動きを思案していた隼人に理久が話しかける。理久はピザを平らげて満足そうだ。
『悪い。今日は用があるんだ。また今度な』
理久に詫びて隼人はスタジオを出た。午後5時、天気は雷雨。駆け込んだコンビニでビニール傘を買い、原宿駅を目指していた隼人の前に男が現れた。
『木村隼人さんですね?』
路肩に停車した車からもぞろぞろと男が降りてくる。数は四人。サラリーマン風でもホスト風でもないスーツの男達だった。
(陽平の言っていた通りだな)
『あんた達が亮を連れて行った奴ら?』
『その質問には答えられません』
質問には答えられない、つまりはイエスと言うことだ。
『お話があります。車にお乗りください』
口調こそ
*
撮影が終わり、理久はスタジオを出た。傘を持たない理久は空から絶え間なく降る雨に顔をしかめる。
駅まで走るか……そんなことを考えて小走りに道を進んでいた理久は前方に隼人の姿を見つけた。
(隼人? あんなとこで何してるんだ?)
隼人の周りには四人の男がいる。原宿の道端にいるには異質な雰囲気の男達だ。
隼人はこの後用があると言っていたが、あの男達が関係しているのか、しかし何か違う気もする。
ビニール傘が隼人の手を離れて地面に落ちた。隼人は車に押し込められ、男達も次々と車に乗り込んでゆく。
(おいおい、これって拉致? 誘拐? けっこうヤバい展開?)
いや、あの頭のいい隼人が簡単に拉致されるとは思えない。多分……大丈夫だろう。
夏の夕立は原宿の街を暗い闇に包む。人々は時折鳴り響く雷に怯え、雨を避けて我先にと駅を目指して走っている。
誰もが隼人を連れ去った黒塗りの高級車の行き先を気にしていない。……理久以外は。
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