6.ひとりとひとり

 放課後に隼人と山崎沙耶香のキスを目撃した翌週の火曜日、麻衣子は沙耶香に呼び出しを受けた。

沙耶香に放課後の裏庭に連れて行かれる。沙耶香とはここに来るまで一言も喋らなかった。


「あの……話ってなに?」

「加藤さんて、隼人の幼なじみなんだよね?」

「そうだけど……」


 マスカラとアイラインで目元を黒く縁取った沙耶香が麻衣子を睨み付けている。


 沙耶香の髪色は少し茶色っぽい。地毛ではなさそうで染めているみたいだ。スカートも規定の長さよりも短く、靴下はルーズソックス、学校にメイクをしてくるのも、髪を染めるのも、スカート丈もルーズソックスもすべてが校則違反だ。


隼人の好みはこういう派手めな外見の女の子だ。隼人の周りにいる女の子達はみんな沙耶香のような外見をしていた。


「隼人と小学校が同じだった子に聞いたの。加藤さんと隼人、小学生の時はいつも一緒にいたんだって?」

「えっと……それがなに?」

「隼人が好きなの?」


 麻衣子の質問に沙耶香は質問で返してきた。それも爆弾を伴って。

麻衣子はパンダに似た沙耶香の目を真っ正面から見据える。


「それを聞いてどうするの? 隼人の彼女は山崎さんなんだからそれでいいじゃない」

「よくない!」


冷静な物言いの麻衣子とは違い、沙耶香は声を荒くした。


「知ってる? 隼人ってね、いっつもあんたのこと気にしてるの。廊下ですれ違ったり隼人が私のクラスに来た時もいつもあんたのこと目で追ってるんだよ! これってどういうこと?」


沙耶香に詰め寄られて麻衣子はたじろいだ。隼人の行動の意味は隼人にしかわからない。そんなことを聞かれても困る。


(どういうことってそんなこと私に聞かれても……隼人に聞いてよ……)


        *


 麻衣子が沙耶香に詰め寄られる数分前。昇降口を出ようとしていた隼人は幼なじみの渡辺亮に呼び止められた。

渡辺と話をするのは久しぶりだ。夏休みには二人でそれなりに遊んではいたが、この1ヶ月ほどは渡辺とは話す機会もなかった。


『麻衣子が山崎沙耶香に呼び出された』

『は? なんで?』

『知るか。でも隼人のせいだろ?』


渡辺が何を言いたいのか隼人はすぐにわかった。沙耶香が麻衣子を呼び出す理由……確かに自分に関することしかない。


『二人はどこ行った?』

『裏庭の方』

『……わかった』


 昇降口で靴を履き、校門ではなく裏庭に向かう隼人の後ろを渡辺もついてくる。


『俺も行く』

『勝手にしろ』


 後ろを歩いていた渡辺が隼人の横に並んだ。同じ歩幅で同じ場所に向かう二人の頭の中には同じ顔が浮かんでいる。

大切な幼なじみの“アイツ”の顔が。

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