デオドラント

オードトワレの空の瓶

君も私も根は素直だったね

染色体は強く香るけれど

君はそれを真空パックにしてにっこり笑ったんだ

私は嘘を香水にして君と共鳴したふりをしたんだ

君が無臭だったなんて記憶があるけど

それはそれでおかしな話だったわけで

本当なら快感になる染色体の香りがするべきだったのにと気づいたら

自分をペテンにかけた記憶のハリボテが剥がれた

そうだかつて一度だけ

一度だけ君から強い香りがしたんだ

普段は無臭の君からは信じられないような世間一般の香り

私はそれが大嫌いで

せめて大好きな君だけは違うと信じ込みたかったから

嘘でガスマスクを造って君は無臭だったと結論付けたんだ

けれどそんな小さな齟齬はいつしか無視できなくなって

私は君にそのマスクを投げつけて大怪我を負わせたんだっけ

君に褒められた嘘の香りはもう空き瓶になってる

もう要らない

何もない私の香りだって誰かにとっての香水に為り得るんだ

ふと今すれ違った後ろ姿を振り返る

地面に脱臭剤の小さな小袋が落ちている

あ、

いや、届けなくていいか

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