第15話 『カオルさん』    

『15 レトロハイカラな一軒家』        



「そこを右に曲がって……」


「キャッ!!?」


 ビックリした。地図を頼りに閑静な住宅街を歩いていると、いつのまに後ろにいたんだろう、ミキが声を掛けてきた。


 放課後、大事な話があると言うわりには、ミキは普通だった。放課後になっても相談持ちかける気配さえなかった。

 こりゃもう解決したんだな。そう思って一人で学校を出た。すると今みたく、あたしの後ろに忍び寄って声をかけてきたのだ。

「先に行ってるんじゃなかったの?」

「あ、ああ、ごめん(^_^;)」

 あたしたちは、少し距離を開けて角を曲がった。突き当たり近くにレトロハイカラな一軒家があった。ミキは「よしっ!」気合いを入れる、とあたしを抜いて、その家に入っていった。


「おじゃましまーす」

「カオルさん、奥の部屋借りまーす」

「はーい、どーぞ」

 年齢不詳の女の人の返事が返ってきた。家は遠目にはハイカラに見えたけど、廊下の腰板や窓枠に塗り重ねられたペンキから、相当な年代物であることが分かった。廊下を突き当たって奥の部屋に入ると驚いた。庭に面した所は三枚の大きなガラス張り。天井も三分の一が天窓になっていて、半分温室みたく、いろんな花が鉢植えになっていた。

「すごいお花ね!」

「うん、カオルさんの趣味。あたしはゼラニウムぐらいしか分からないけど」


 そこにカオルさんが、ロングスカートにカラフルなケープを肩に掛けて紅茶のセットを持って現れた。

「あなたが美優さんね。美紀が言ってたよりずっと華があるわ」

「ほんと、たくさん花がありますね」

「ミユ、あんたのことよ。華のある子だって」

「華だなんて、そんな……(*ノωノ)」

「美紀の相談相手には、確かだわ。しっかりお話するのよ。じゃ、わたしは向こうに居るから」


 カオルさんは、そう言うと、きれいなメゾソプラノで鼻歌唄いながら行ってしまった。


「あの人は?」

「カオルさん。お母さんのお母さん……」

「え、え? お祖母ちゃん!?」

「シ、その言い方は、ここでは禁句だから」

 まだ鼻歌は続いている。

「歌、お上手ね……」

「元タカラジェンヌ……はい、どうぞ」

 ミキがハーブティーを入れてくれた。

「で、なによ、相談って?」

「あう……ごめんね、いろいろと……なかなか勇気が出なかったもんで」

 ミキが顔を寄せてきた。

「実はね……」

「え……!」


 ええええええええ!?


 部屋中の花もいっしょに驚いたような気がした……。


 というわけで、あたしは神楽坂46のオーディション会場に居る……ただの付き添いだけど。


 ミキは、アイドルの夢絶ちがたく、このオーディションを受ける。でも前の失敗があるので、受けることそのものにためらいがあった。

 お祖母ちゃん……カオルさんは、ミキが小さい頃から宝塚に入れたがっていた。で、ダンスや声楽なんか中学までやっていた。で、AKBぐらい軽いもんよ、と受けたら、見事に落ちてしまった。

 宝塚とAKBではコンセプトが違う。カオルさんは、それが分かって居なかった。オーディションの評は「狙いすぎている」だった。

 カオルさんは、孫を宝塚に入れることは諦めたが(なんせ兵庫県。経済的な問題と、肝心のミキが宝塚にあまり関心を示さなくなった)今のアイドルぐらいなら十分なれると、再度のアタックになったわけである。

 だが、最初の失敗がトラウマになり、なかなか次のオーディションが受けられなかった。

――あたしは(あたしの孫が)アイドルのオーディションごときに落ちるわけがない!――

 で、相談を持ち込まれたわけである。

「ねえマユ、あたし、いけるかなあ!?」

「いけるよ、もちろん!」


 それ以外に、答えようある!?


 でも、現場まで付いていくことになるとはね……。


「次ぎ、21番から25番の人……あれ、25番、25番は、渡辺美優さん!」


 係のオニイサンが叫んでる。なんであたしが!?


 スタジオの入り口でミキが25番のプレートを持ってゴメンナサイをしていた……。


 つづく


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