第10話 フォーチュンクッキー

メタモルフォーゼ・10・フォーチュンクッキー   





★……フォーチュンクッキー


『ダウンロード』という芝居は、メタモルフォーゼ(変身)するところが面白い!


 そう、思って稽古を重ねてきたが、どうやら違うところに魅力があると感じだした。ノラというアンドロイドは、いろんな人格をダウンロ-ドしては、オーナーによって派遣され、大昔のコギャルになったり、清楚なミッションスクールの女生徒になったり、五歳の幼児三人の早変わりをしたりして、オーナーと持ちつ持たれつの毎日。

 そんな日々の中で「自分の本来のパーソナリティーはなんだろう?」 その自己発見の欲求がどんどん膨らんでいくところに本当の面白さがあると思うようになってきた。


 You tubeで他の学校が演っているのを見て思った。


 ダウンロードされたキャラを精密にやっていく間に、時々「本当の自分」を気にする瞬間がある。

「キッチン作ってよ。あたし自分で料理するから!」

 という欲求で現される。そこにこだわって誇張していくと、俄然芝居が面白くなってきた。

 コンクールの三日前ぐらいになると、信じられないけど、稽古場にギャラリーが出来るようになった。いわゆる入部希望の見学ではなく、美優の稽古そのものが面白く、純粋な見学者なのである。

 クラブを辞めたヨッコ達には少し抵抗があったけど、ヨッコ達は、良くも悪くもクラブに戻る気はなく、他のギャラリーと同じように楽しんでいる。他にも、ミキや、その仲間。ヒマのある帰宅部の子なんかが見に来るようになり、最後の二日間はゲネプロ(本番通りの稽古)をやっているようなものだった。


 最終日の稽古には、受売(うずめ)神社の巫女さんと神主さんまで来た。

「神さまのお告げでした」

 巫女さんは、口の重い父親の神主に代わってケロリと言った。

 そして、芸事成就の祝詞まであげてくださった。


「三十分だけ、祝賀会やろう!」


 ミキの提案で、稽古場が宴会場になった。あらかじめいろいろ用意していたようで、ソフトドリンクやらスナック菓子。コンビニのプチケーキまで並んだ。なんだか、もうコンクールで優勝したような気分。一番人気は受売神社の巫女さん手作りのフォーチュンクッキー!

「え、神社がこんなの……いいんですか?」

 意外にヨッコが心配顔。

「これは、元々日本のものなのよ。辻占煎餅(つじうらせんべい)って名前で神社で売ってたの。それが万博でアメリカに伝わって、チャイナタウンの中華料理屋で出すようになったのよ」


「へー」と、みんな。


「神社でも出せば、ヒットすると思いますよ」

 ユミが、提案した。

「うん、でも保健所がウルサクって。中にお神籤が入るでしょ。それで許可がね」

 世の中ウルサイもんだと思った。

 巫女さんが、頭数を数え人数分だけ紙皿に盛った。

「さあ、みんなとって!」

 あちこちで「大吉だ!」「中吉よ!」などの声が上がった。ちなみに、あたしは末吉『変化は試練なり、確実に前に進むが肝要。末には望み叶うべし』と、あった。


 素朴な疑問が湧いた。あたしの望みってなんだろ?


 コンクールは中央大会も含めて二週間で終わる。そのあと、当たり前なら「進一に戻りたい」なんだろうけど、そう単純にはならない。

 あたしは、死んだ優美の思いを受け継いでいるのかもしれず。下鳥先生の言うように乖離性同一性障害かも知れず、そうなると、統合すべき人格がいるのだけども、いまは美優でいることが自然だ。体だって完全に女子になってしまい、それに順応している。

 そして、頭の片隅にあるのが受売神社の神さまのご託宣。


 ま、末吉なんで目の前のことをやろう。


 最後は、みんなで『恋するフォーチュンクッキー』を適当なフリでやってお開き。

「すごい、ミユ、カンコピだったわよ!」

 AKBファンのホマが感動した。

「そのままセンターが勤まる!」


 あたしはサッシーか……。


「おれ、凶だった……」

 秋元先生がバツが悪そうに言った。

「凶って、百回に一回ぐらいしかないんですよ」

 巫女さんが感心していた。


 備えあれば憂いなし、道は開ける……と、むすんであった。


 つづく


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