第24話

 夏休み前、最後の登校週。

 哀斗と憧子は、集合場所である書庫へ向かうべく廊下を歩いていた。

 夏真っ盛りなため、教室内は熱が籠っていて暑かったのだが、廊下は風通しが良くて涼しい。道すがら、人とすれ違う度に流れる、小さなそよ風が地味に心地よかった。


「珍しいですよね、花火がわざわざラインで念押ししてくるなんて」


 女の子らしいピンクの着せかえがされた、ラインのトーク画面を見せてきた憧子は汗のせいかベリーショートの毛先がたばついている。


『今日は放課後、大事な話があるから、いつものとこ集合!』


 同じようなメッセージが、哀斗のラインにも届いていた。


「最近は、何も言わなくても集まるようになっていますもんね」

「ですよね。だから珍しくって……。いったいなんのはなしでしょうねー」


 文面を見る限り、暗い話をするような雰囲気ではなさそうだが、前振りがあるとなれば気にはなる。


「涼詩路さんも聞いてないんですか?」

「どうしてですか?」

「明音と涼詩路さんって、従姉妹で仲も良いのでいつも一緒にいるイメージが強いんですよ」


 うーん。家は近いので、確かにちょっとしたことでお互いの家を行き来はしてますけど、ろ人差し指を顎に当てて憧子は前置きする。


「そんな身構えるような話は何もしていませんね。そういえば、ちょっと気になったのですが、哀斗くんはお姉さんの哀果さんとは仲が良いのですか?」

「(仲が良いのですか? か)」


 突然のシスコン発言時にアスモウラに魔力で意識を意図的に操作されているからこそ出る発言をこうして直接耳にすると、ほっとする。

 これまで、何度も哀果――実の姉に向かって度を超えた好意的言葉を言わされるという不可思議な現象を受けてきたが、憧子の反応を見る限り、なんら実害はなさそうだ。

 哀斗自身の精神的ダメージまで鑑みればキリのない話になってくるので、それについては度外視すると……だが。


「悪くはないんですけど、どうにも姉ちゃんのスキンシップが過剰なんですよね……」


 風呂には全裸で侵入してくるし、ベッドには潜りこんでくるしで、正直心臓に悪い。思春期の哀斗にとっては、血縁者とはいえ瑞々しい女性の身体を見るのは刺激的であることは間違いなかった。

 呆れた様子の哀斗に対して、憧子はくすりと笑った。


「あの優秀な哀果さんにも、弟に甘えるだなんて子供らしい一面もあるんですね」

「子どもらしい、ですかね……」


 確かに、哀斗のことを好いているが故の、行動は非常に純粋だ。それについては幼さが見いだせなくもない。といっても、哀斗本人としては、子供らしいなあ……あははは~と軽くは捉えることはできなかった。。


「きっと哀斗くんのことが好きで好きでしょうがないんですよ。愛されていますね」

「ま、まあ、それについては否定はしませんが」

「ふふ、弟モードな哀斗くん可愛いです」

「か、からかわないでくださいよっ!」


 ツッコミを入れながらも、哀斗はふと冷静になる。


「(姉ちゃんからの猛烈な愛情は身に染みて感じている。だけど、時たま思う。そこまでしなくても――)」

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