第22話

 賽銭箱の上で凝り固まった腰や、臀部をほぐしながら、アスモウラは哀斗の姿が石段の下に消えるのを見送った。


「人と触れ合うことで、お前は気付いたのか……?」


 人との繋がりなんてものは、一つのきっかけがあればすぐに綻び、朽ちる。

 きっと、哀斗もそれにすぐ気づくだろう、そう思っていた。信じ損なんてのは、日常茶飯事。どうせ痛い目を見るはずだ、と。


「じゃあなんで、オレは教えなかったんだろうなあ……」


 アスモウラは知っていた。哀斗の願いを寿命を削ってまで叶える人間の存在を。10年前という長いスパンはあるにしろ、契約が続いている以上、日常的に感じる寿命の流れがそうさせていたからだ。


「期待してたってことか……?」


 アスモウラは舌を鳴らして黄色いマフラーの下から手を入れた。ザラザラとした感触。人間の皮膚でない感触が気味が悪い。

――これは、生前の自分にはなかったモノだ。


「やっぱり、まだ捨てきれてねえってことだよな、クソ」


 毒づきながら、朽ちかけの戸を引いて本殿内に入る。

 カビの臭いと、古く深みのある木片の香りが鼻孔をなめる。


「今日は、とびきり度数の高いやつだ」


 酒瓶と酒瓶が透き通るような音を奏でる。

しかし今は、それすらも腹立たしい。

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