テレビの上の灰皿

豆腐数

 テレビの上の灰皿にはいろんなものが入る。あなたが吸ってるタバコの吸い殻はもちろん(あなたは私と付き合う前からその銘柄のタバコを吸っていた)、私がテレビドラマを見ながら食べたキャラメルのカラ箱、「太るぞ」と言われてすねた私が入れた「バカ。ニコチン中毒」という悪口が書かれた紙、「悪かった」という彼の謝罪が書いてある紙(テレビの乗った台に彼なりの誠意なのかボンタンアメもあった)。


 時々灰皿を押しのけて、飼っているネコのブチがまあるくなっていることもあった。テレビの上には私たちのドラマがあったのだ。今はテレビも薄くなって、灰皿なんて乗らなくなっちゃった。寂しいね。


「でも俺とお前とが過ごした思い出は、昔の分厚いテレビにだって乗り切らないだろ?」


 デリカシーのないくせにキザな事を言う彼に不覚にも照れた私は、「ブチのこと忘れてるよ」と混ぜっ返すしかなかった。

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