100の詩集

しゅりぐるま

私は彼のにおいが好きだった。


同じ家に住み、家具をそろえ、家に合った収納家具を選び、

私達の結婚を皆に報告し終えた頃、

私達は同じにおいになっていた。


そこで私達は努力した。

互いの習慣を押し付け、言わなくても伝わることをわざと言い合い、

私達は違う生き物だという事を主張し合ったのだ。


そのうちお互いの目や鼻の大きさ、肌のなめらかさの違いに気づき、

それを確かめるように触れ合った。


目と目を合わせ、手と手をつなぎ、曲線を確かめ体液を交換し、

果てるまで全身をこすりつけ合った。


そうして私達は、においだけでなく体温も同じになり、

互いの境界線もわからぬまま、一つの個体となって眠りについた。


そして次の朝、

私達は互いの違いを主張することからまた、始めるのだった。

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