第19話 説明するのは、めんどくさいらしい。

「…驚いたわ…貴方の仲間って言うからてっきり皆ヤタガラスなのかと」


「同じ種族の仲間もいるぞ?けどここじゃ種族関係なく暮らしてる。生活していく為に皆で力を合わせてるんだ」


「あー!!」


弥太に説明を受けていると不意に声がする。

そちらに視線を向けてみると尻尾が二本生えた黒猫と、銀色の毛並みをもった狼がこちらにやって来るところだった。


「何で人型なの!?いつの間に名前をもらったのよ、あんたばっかりずるいーっ」


弥太に不満げに声をかけたのは黒猫の方だ。


「ふふん、いいだろ!こいつにつけてもらったんだ……えっとアンタ、名前なんだっけ?」


自慢気に胸を反らす弥太は私の名前を知らなかった事に今気がついたようでこてんと首をかしげてこちらを見つめる。


「ステラよ、ステラ・カークラが私の名前」


名を名乗れば弥太は「改めて宜しくな」と笑った。


「自分に名前くれた人の名前も聞いてないとかあり得ないんですけど。って言うか、ステラちゃん!私にも名前!名前ちょうだい!」


黒猫は弥太に向けてぼやくとすぐに私の足元にすり寄ってくる。


「えっと……私でいいの?」


「ステラちゃんがいいの!だってコイツに名前をつけられたってことはかなり強い力の持ち主なんでしょ?そんな人がご主人なんて私も鼻が高いもん」


「………主人?」


黒猫のもふもふとした毛並みを堪能していた私はその言葉に首をかしげる。


「む…そいつから聞いていないのか?」


狼が目を瞬かせて弥太を見上げると弥太は思い切り視線をそらした。


「………弥太?」


「わ、忘れてたんだよ…名前もらえるのが嬉しくて…あと長い話とかちょっと面倒だったから…ごめん」


私が声をかけると弥太はしょんぼりと項垂れる。その様子を見て狼がため息をつく。


「ステラ殿、我々は名前をつけて貰う事で名付け親を主人とし、遣えるという契約を交わすことが出来る。主の力に応じて力を得ることができるのだ、人の型を得ることが出来るのもその為だ」


「それじゃあ…私は弥太と契約を交わしたことになるの?弥太は私の……使い魔みたいなものってことかしら」


「使い魔…とは少し違うが必要があれば主に力を貸すし、いつでも呼び出せる」


出来れば名前をつける前に説明して欲しかったと思いながら弥太を見ると彼はさらに落ち込んでしまった。


「…俺は鳥だから難しいこと長い間覚えてらんねぇもん」


「まさに鳥頭だな」


狼に言われて返す言葉もないらしい。


…弥太と契約した事になっているみたいだけど体調に変化は無いし…困った時は助けてもらえるみたいだし……ま、いっか



慎重な人間ならここでいろいろ自分の体や力への影響なんかを考えるところだろうけれど、私としては体に影響がないならそれでいい。

寧ろ名前をつけることで彼らが喜んでくれるならいいと思ってしまう。


「…ちなみに名前をつけることで私の寿命が減ったりとかするのかしら?」


「いや、寿命や体には影響はないだろう。だが今後名付ける時は慎重になった方がいい、中には主に反旗を翻すような輩もいるからな」


狼からの助言を受けて私が納得すると、黒猫が甘えるように私の手に頭を擦り付けてきた。


「私は名前をくれるならステラちゃんに反逆したりしないわよ、だから名前つけて!」


しばらく思案して私はこくりと頷く。

了承したのは名前をつけることで友達になってくれたら嬉しいという単純な理由からだ。


「じゃあ…貴方の名前は…マオで、どうかしら?」


そう告げると黒猫は弥太と同じ様に黒い雲に包まれ一瞬で人型へと変じた。

肩まで伸びた真っ直ぐな黒髪の上に黒い猫耳、金色の瞳はそのままに黒いワンピースを纏った少女の姿に変わった黒猫――マオは嬉しそうに私に抱き付いてきた。


「やったー!人型だー!ステラちゃんありがとうっ!」


見た目年齢は私と変わらないのに中身は子供のようで全身で喜びを表現している。


「さ、先に名前を貰ったのは俺だからな!!俺が先輩なんだぞ!」


その様子を見ていた弥太が妬いたのかマオから私を奪うように抱き寄せる。


「弥太ってば心せまーい!そんなんじゃステラちゃんに嫌われちゃうわよ?」


「んなっ!?き、嫌いになったりしないよな!?」


マオにそう言われてショックを受けたかの様に弥太は私を抱き締めてくる。

こんなに人に抱き締められたのはいつぶりだろうか、弥太とマオを交互に撫でているとこちらを羨ましそうに見つめる狼の姿が目に入った。

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