第4話 理解される努力とか、めんどくさい。


なんて事を……この本はスピカから借りたものなのに

というか私に話しかけていたつもりなのか、この人達は……毛嫌いしてる人間に構って欲しいとか、なにそれ面倒



私は本を拾い土を丁寧に拭うと鞄に戻してその場を立ち去ろうとする。


「あらあら、後ろ暗いことをなさっているからお逃げになるのですねぇ。学園一の魔力を持っている方は何をしても許されるなんて羨ましいですわ」


後ろからおほほと悪役張りの高笑いが聞こえてきた。

おかしいなぁ…悪役は私なんだけど

というか本当におほほって笑い方する人居るんだね、恥ずかしくないのかな?


さらに無視して校舎の中に戻ろうとするとぐいっと鞄を引っ張られた。

どさりと鞄が落ち、中からスピカに借りた本が落ちる。


「あらあら大変、拾って差し上げますわ」


女子生徒は本に手を伸ばすとびり、と表紙を破る。


「手が滑ってしまいました、ごめんあそばせ」


ニヤニヤと笑う彼女達に向き直ると指先を伸ばして指の先に力を集中させる。氷の粒をイメージすると女子生徒達に向けて勢いよく撃ち込んだ。


「「「きゃあぁっ!」」」


防御魔法を使う隙も与えず氷の粒に彼女達を襲わせる。


「物は大切にしなさいと、ご両親に教わらなかったのかしら」


自分で思っていたより三段階ほど低くて冷たい声が出た。



わー、私ってこんな低い声出るんだ

さすが悪役だな、使いこなせたら声優とかやれちゃうかも……あ、この世界にアニメはないか残念



破れた本を女子生徒の手から取り返すと鞄を拾い上げ、土を払い落とす。

破れてしまった所は後で直そう、そしてスピカに謝ろう。

女子生徒達に視線を向けると指をぱちんと鳴らす。その瞬間彼女達を襲っていた氷の粒は跡形もなく消えた。

怪我はさせない様に加減したので大丈夫だろう、彼女達に背を向けて私は教室に戻った。





◇◇◇


教室に戻るとアステルが私の姿を見て「ちょっといいですか」と声をかけてきた。


なんだろう、私の方は用事など無いのだけど…


彼に構うよりスピカの本を早く修繕したい。けれど、もし急な要件なら無視はできない。

呼ばれるまま二人で隣の空き教室にはいる。

アステルと私が連れだったことでクラスメイトが少しざわついていたけれど、彼の様子を見るに噂になるような内容ではないだろう。



空き教室のドアを閉めるとアステルは眉間にシワを寄せた。


「…いくらからかわれたからと言って、魔法で攻撃するのはどうかと思いますよ」


はて、何のことだろう

あー…もしかしてさっきのやり取りをみていたのかな?

あれは正当防衛だし、先に手を出して来た向こうが悪いわけで

そもそも見ていたのなら止めてくれれば良かったのに……いや、この人が私の為にそこまでする理由はないか



色々言いたいことが胸の中を駆け巡ったがここで言い返したところで時間の無駄だ。

そう考えた私は、思い浮かんだ言葉をなかったことにして素直に頷く。


「申し訳ありません、以後気を付けますわ」


「本当に理解しているんですか?貴女の行動でスピカ嬢に迷惑がかかるのですよ、もっと行動に責任を持つべきです」


単なる謝罪では納得してくれないらしい。

私としては悪いことをしたなどと欠片も思っていないけれど、アステルからすれば正当防衛は悪行になるようだ。



さすが『悪役令嬢』の肩書きを持つだけあるわ、やること全部悪にされるんだもの

それにきっとこういうタイプは言葉で弁明したって聞かないだろうし…説明するエネルギーを使うのが面倒だな



自分でもとことんものぐさだと思う。

けれど私が我慢すれば彼は引き下がってくれるのだろう、それならそれで構わない。


「今後は個人的な理由でむやみに魔法を使ったり致しませんわ」


私がそう告げるとアステルはやっと納得したのか「分かればいいんです」と残し、空き教室から出ていった。

その背中を眺めながら考える。


もしスピカがアステルのルートを選んだら私に対する態度も軟化するのかな?

あ、無理か

だってスピカが誰かを選んだ時点で私は破滅ルートまっしぐらなのだから


そう思い考えるのやめて私も教室に戻ることにした。

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