<2> 小さな罪と罰
俺には犯罪歴はない。物を盗んだり、人に危害を加えるような法に触れることなどしない。しかし、そのような大それた犯罪は犯さないまでも、微々たる罪は日々犯している。その最たるものは無為だ。
人のため、社会のためになることは何ひとつせず、ただ自分のためだけに生きている。それは消極的犯罪ではないだろうか?
世の中には、人の役に立つ職業がたくさんある。それに従事している人を偉いと思う。ボランティアという形で貢献している人たちにも頭の下がる思いだ。
でも、俺にはそういうことはできない。するべきだとわかっていてもできない。世の中にはこんな駄目な奴も存在するのだ。すべてが善人ばかりだったら、さぞ息苦しい世界になるだろう。駄目な奴も必要悪なのだ。
もちろん、こんな勝手な理屈で、俺のような存在が肯定されるわけではない。いつかきっと、罰が与えられる。それ相応の罰が――
そして、とうとうその日がやってきた。
俺は脳梗塞で倒れ、病院に運ばれた。でも、七十歳で病に倒れるのはごく普通のことでないだろうか?
そして、後遺症として俺は右半身が不自由になり、言葉もろくに話せなくなった。すると、ひとり身の俺に手厚い福祉の手が差し伸べられた。施設に入れられ、多くの人の手を借り、今の俺の日々が成り立っている。
誰もが親切だった。
俺は食事の世話から、風呂、排せつまで、すべて人様の世話にならなければならない。それなのに礼が言えない、言葉が出ないのだ。俺は、自分に課せられた罰がだんだんとわかってきた。
そしてある日、どうしても感謝の気持ちが言いたくて、懸命に話そうとした時、うまくいかないもどかしさから不覚にも涙を流してしまった。すると、それに気づいた職員が言った。
「わかってますよ、あなたの気持ちは。でも、私たちが見たいのは涙ではなく、あなたの笑顔です」
俺はそれを聞いて、余計に涙が止まらなくなってしまった。
でも、俺が涙を流したのはその時が最後だった。それからはいつでも、誰にでも、どんな辛い時にだって、俺は笑顔を絶やさなかった。
これこそが、今まで好き勝手に生きてきて、人の役に立たなかったことへの俺の贖罪だった。
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