7-9—抑え切れない涙—

—その日は三人で一緒に家に帰った。


帰り道の途中で時子はふとつぶやくように言った。

「叔父さん、お母さん、お父さんは退院したら、また、どこか私たちのわからないところに行っちゃうのかな……?」

「そうね。そのうち時子からお父さんに聞いてみれば?」

「そうだね。私、また時々、お見舞いに行っていいよね」

「ええ。だけど、学校の勉強にあまり差し障りのないようにしなさいね」

「もちろん」

そう言いながら、時子はもうすぐ中間試験があることをふと思い出した。今度はいつ会いに行けるかなと思いながら、父がまたどこかに行ってしまうのではないかと思うと胸が苦しくなった時子は俯いた。


—やっと会えたのにすぐどこかに行っちゃうのなら、悲しいな—


そう、思った途端、抑えきれないほど涙がどんどん溢れてきて、時子はその場で立ち尽くしていた。


そんな時子の様子に気付いて、慌てて珠樹は駆け寄った。

「時子、どうしたの?大丈夫?」

「うん、大丈夫。お父さんのこと考えたら、少し心配になっちゃって」

「そうよね。やっとお父さんに会えたんだものね。いろいろ考えたら学校どころじゃないわよね」

「学校は今まで通り、ちゃんと行くよ。だけど、そうしているうちにお父さん、またどこかに行っちゃうんじゃないかなって思って……」

そう言うと時子は珠樹に抱きついた。

「よしよし、いい子、いい子。回診の時に私からお父さんに黙ってどこかに行かないよう、言っておくからね」

「まったく兄貴もこんなに時子ちゃんに心配かけて罪なやつだよな」

振り返って、時子と珠樹の様子を見ていた笙がぽつりと言った。


家に帰ると家で勉強していた悠紀人が三人を迎えた。

「時子ちゃん、どうだった?」

「うん。ちゃんと会えたよ。アルバムの写真のお父さんが病院のベッドの上にいて、にこにこ私に笑いかけてくれた」

「そう。よかった。お父さんに会えたんだね」

悠紀人にそう言われて、ふっと父が言っていた一言が蘇ってきた。


—……時子さえよければ、こんな風にきっと時々会えるよ—


—そうだった。父がそう言ったんだから、またきっと会えるはずだ。父とまた会えるように私が頑張らないといけないんだ—。


そう自分に言い聞かせると時子は明日の学校の準備のために自分の部屋に向かった。


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