4-7―プロポーズの返事―
ウエイトレスが前菜をテーブルに並べている間、三人は黙りこくったまま、その様子をじっと見つめていた。食事が並び、ウエイトレスがその場を去ると、圭が会話の続きを切り出した。
「そう、それでね、この前、実は俺が珠樹にプロポーズしたところなんだ」
「そっか、それで兄貴は根津さんのこと俺に伝えたんだ。じゃあ、根津さんじゃなくて、珠樹さんって呼んだ方がいいかな?ふたりがもし結婚したら、俺のお姉さんになるわけだけど……」
「ええ……プロポーズはされたんだけど、まだ、返事していなくて……」
珠樹は真っ赤になって
「そう、まだ返事ももらってないうちに笙に会わせちゃったわけ。俺が気が早いのは昔からのことだからさ、ふたりとも大目に見てくれよ」
「まあ、親父のこともあるし、兄貴は俺よりずっと苦労してるからね。珠樹さんも俺たちのことは兄貴から聞いたんでしょ?」
「ええ、まあ、この前、プロポーズしてくれた時に圭さんが話してくれた」
「えっ、俺がお前より苦労してるなんてことはないさ。ただ、親父と相性が合わなかったし、勘当されて家を出て、気楽になったし、ほんとうの母親とも会えたからさ、今はこれで良かったと思ってる。夏木家を出た頃は必死だったけどね」
「そういえば、中学時代、珠樹さんと俺が知り合った頃に兄貴は家を出たんだよね。そう思うと今こうして三人で食事しているのがますます不思議に思えてくるよね」
「うん……。圭さんと笙君と仲が良さそうで私もほっとした」
「そういえば、確か珠樹さんにも目が見えない妹さんがいたよね。結局会わないままだったけど……、今、どうしてる?」
「妹はお世話になった盲学校で住み込みで働いてるわ」
「わっ、偉いんだね。珠樹の妹さん」
「そうなの。しっかりした妹のお陰で私もこうして、看護師の道を邁進できたのよ」
「そう、よかった。それで、俺から言うのもなんだけど、珠樹さえよければ兄貴のことよろしく頼むよ」
「……そうね。今日も前向きに考えるって伝えようと思ってここへ来たのよ」
「珠樹、それホント?」
「うん。圭さんと話していると楽しいから」
「珠樹、ありがとう。じゃあ、俺も前向きに進めるよ、っていうか、ふたりのこれからのこと、一緒に考えて行こう」
珠樹は返事をするかわりにこくりと首を縦に降って頷くと圭を見つめた。
「あっ、じゃあ、俺は証人ってことで、ふたりのこと応援してるよ」
「そうだな。お前に応援してもらえると心強いよ」
幾分、張り詰めた空気の中、談笑しながら食事が進み、珠樹と圭と笙は三人での食事の会合を終えた。これから先のことを思うと、珠樹はまだいろいろな意味で自信がなかったが、それでも圭とふたりで話し合いながら、いろいろなことを乗り越えていけますようにと心の中で願った。
「じゃあ珠樹、また、連絡するよ!」
「兄貴、俺にもな!ふたりの良い報告を待ってるよ!」
圭と笙と渋谷駅で別れた珠樹は一人帰途についた。
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