4-4―心の中での一歩―

 珠樹は一人になると軽い動悸で胸が苦しくなった。自分がもう、適齢期で、結婚のことは心のどこかで意識はしていたものの、今まで看護師の仕事を優先して生きてきたし、恋愛から結婚へとステップを踏むことは人生の一大事でもあるからどうするか慎重に自分自身の思いと向き合わなければならない―。それに圭の年齢のことも併せて考えると尚更だ。


―もしこれ以上、先に進むのが無理だったら、友達に戻ればいい―。


圭はそう言っていたけど、もし、友達に戻ったら、圭はきっと他の相手を探すのだろう。そして、私は看護師として仕事に没頭する毎日が続いて、そのまま忙しさに紛れて結婚という選択肢を見失ってしまって果たしていいのだろうか。現に美咲も笙君も結婚してそれぞれの相手と人生を歩んでいるし、看護師の同僚たちからの結婚を知らせるニュースもすでに届いているし、結婚式に招待してくれた同僚もいる―。そう考えると看護師の仕事を優先したいからというのは単なる言い訳なのかもしれない―。看護師の仕事と家庭生活を両立するのは大変だが、もし、圭が理解を示してくれるなら、このプロポーズは結婚という選択肢を選ぶチャンスなのかもしれない―。圭を支えて生きていくことで広がる世界は自分の心をより豊かにしてくれるかもしれない―。


そう考えたら、珠樹はなぜか気持ちが楽になった。


―少し、前向きに考えてみようかな。だけど、ゆっくりでいいって言ってたし、先ずは明日の仕事のことに気持ちを向けていくのが先ね。家に帰ったら、お風呂に入ってさっさと寝ないと―。


そんなことを考えながら、珠樹は一人暮らしの小さなアパートへの道を急いだ。


 それからしばらくして、圭から連絡があり、一緒に食事することになった。プロポーズの返事について珠樹は気になりつつ、その後、仕事に追われてしっかり考える余裕がなかった。でも前向きに考えていることだけでも圭に伝えようと心に決めていた。そのためにも珠樹は圭と会うことにしたのだ。

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