第10話 親友には

「お前、ほんまに雰囲気変わったよなあ。なんかあったんか?」


ジムに通いシュッとした身体と芸能人として活動していくという中で美意識が高まったのだろう、僕の雰囲気は変わっていた。以前釣りに行った時はダイエットしているとだけ答えたが、親友には本当の事を言おうと思い口を開いた。


「実は芸能界に入ってん」


「お前がか?」


「おう」


「事務所も入ったんか?」


「太陽カンパニーに入ったで」


僕は涼にそう言うとプロマイドを自慢げに見せた。


「マジなやつやんけ……でも、なんでお前が?」


涼が驚くのも無理はない。彼とは小、中、高共に過ごした仲であり、僕の恥ずかしがり屋で決して人目に立ちたくない性格をよく知っているからだ。


「演劇の時は主演を拒否してまで、裏方してたぐらいのお前がか」


涼は、なおも驚きを隠せていない。


「ほんまやなあ、自分でも驚いてるわ」


「何がきっかけやったんや?」


僕はあの日の出来事を詳細に話した。涼は不思議そうに聞いていた。


「そっかあ、そんなに心に響いたんか。とりあえずサインもらっとこかな」


「すまんな。初サインは京子にって決めてるんや」


「相変わらず仲良いな。もう一年以上付き合ってるやろ?」


「もうすぐ一年三ヶ月やけど、未だにラブラブやで」


「羨ましいわ。俺もそんな恋せなあかんなあ」


「天性のチャラ男には無理やろ」


「かもな」


涼は京都の大学に通っていて、時間割が合う日には京都駅まで一緒に通っている。おそらく彼とは、一生の友だろう。友達は多い方だが、親友と呼べるのは彼だけだ。


「ほんだらな」


「おう」


涼は颯爽と席を立ち電車を降りていった。電車のホームには涼を待つ女が居た。


ほんま何人女おるねん


僕は心の中でそう囁いた。僕は滋賀にある大学に通っているので、まだ数分電車に揺られる。山科を超え大津駅から石山駅に着くまでの景色が僕は好きだ。晴れた日には琵琶湖が綺麗に光りとても美しく、人々が思い描く故郷のような景色がそこにはある。日本的な美を放つ琵琶湖や田園風景は心の故郷だ。


平日の真っ昼間、朝の通勤ラッシュとは対照的にガラガラに空いた座席に悠々と腰掛け、大学に向かう僕の姿がそこにあった。








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