第6話 奇抜な

少し早めに太陽カンパニー本社ビルの前に着いた僕はベンチに腰掛け空を眺めていた。本社ビルは大阪駅の一等地に建立されており、超高層ビルで会社の規模を見せつけられている気がした。太陽カンパニー所属の芸能人は多く、誰もが知っている女優や俳優から漫才師、歌手までオールジャンル制覇している。僕は昨晩、所属芸能人を調べ、この会社が好む人物像を推測していた。


なるほど、僕と似ている芸能人も太陽カンパニーやったんや


僕はある若手俳優に似ていると、よく言われるが、その俳優も太陽カンパニー所属だった。いわゆる真面目系であり、爽やか系だ。芸名は陽介。


面接時間の15時に近づき、自動ドアをくぐり中に入った。中に入るとさっそく、受付嬢のお姉様が暖かく迎えてくれた。


「こんにちは、斉藤翔太様ですね。ご案内致します」


「こんにちは。はい、斉藤翔太と申します。ありがとうございます」


エレベーターに乗り15階にある面接部屋へ向かった。エレベーターに乗っている最中も受付嬢のお姉様は話しかけてくる。まるで、もう面接が始まっているようだった。僕は一つ一つ丁寧に答え、笑顔も絶やさなかった。


「こちらになります」


受付嬢のお姉様は面接部屋の前まで案内してくれた。僕は昨晩見た就活サイトのことを思い出した。


ノックは3回、どうぞと言われるまで座らない


「失礼します」


緊張の中僕は、木製のいかにも高そうなドアをノックした。


「はいどうぞ〜」


部屋の中からはフランクな口調で返事がきた。ドアを開け中に入ると、10個の目が一斉に僕に向けられた。面接官は5人おり、何より皆癖が強い。冬なのにアロハシャツを着ている人、なぜか頭にバンダナを巻いてる人、スーツでびっしり決めている人、いかにも筋トレ終わりのようなジャージ姿の人。そして中央の1人だけ大きなイスに腰掛け、ヤクザ物の映画でしか見たことのないような大きな葉巻を吸っている、中年のおじさんはちょんまげに袴姿だった。


なんやこれは…これが芸能界なんか?


「本日はこのような場を設けていただき誠にありがとうございます。よろしくお願い致します」


僕は戸惑いながらも震える声で挨拶し、頭を深く下げた。


「そんなかしこまらんでもかまへん、かまへん」


ちょんまげに袴姿のおじさんがそう言うと、周りの方々もそのような言葉をかけてくれた。面接官一人一人が自己紹介をしてくれたが、ほとんど頭に入ってこなかった。唯一、頭に残ったのはちょんまげに袴姿の山本さんが太陽カンパニーの社長だということだ。


「今日はわざわざありがとな。君の志望動機と写真見てこれや、思ったんや」


「ありがとうございます」


「君の顔とか雰囲気は最近の流行なんや。うちの陽介とよう似てるわ」


「陽介様となんて恐れ多いです……」


「ワシの勘やけど、君は陽介をすぐ抜くと思うで。真面目で誠実な性格は一目見て伝わってきたし、瞳の奥には熱いもの持ってるやろ?」


「そのようなお言葉をいただき誠にありがとうございます。志望動機にも書かせていただいた通り、頂点に上り詰めたい気持ちでいっぱいです」


「ほんま、かしこまりすぎやって」


山本さんは僕の態度に笑いながらそう言ってくれたが、まなざしは鋭く心の中まで見られている気がした。


これが芸能事務所の社長さんか。人を見抜く力すごいんやろなあ……


「ぶっちゃけ君は何になりたいんや?」


本質を突かれているような突然の質問に戸惑いながらも答えた。


「有名になりたいです」


「ジャンルは決めてへんのか?」


「はい……」


「なんも決めんと応募してきたんか、おもろいやっちゃな、久々にそんなやつ見たわ。ほんだらワシが決める、俳優やり」


「俳優ですか?」


「おう、俳優や」


山本さんは僕に俳優になるように言った。周りの面接官達もその言葉に頷き僕は俳優になることになった。


「ワシらは君を全力でサポートするつもりや。近い内に親御さんともう一回来てくれへんか?」


「ありがとうございます。ぜひお伺い致します」


「だからかしこまりすぎやって」


僕は挨拶をし、部屋を出た。約一時間ほどの面接だったが、とても疲れた。帰って寝たいと思った。面接では意外なことに、演技や特技を披露することはなかった。


今日の夜は京子とご飯を食べて、映画を見る予定だ。このままでは映画中に寝てしまう。僕は待ち合わせまでの2時間、ネットカフェで寝ることにした。




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