三丁目:私と悪魔とバケモノと
座敷わらしである
神社への報告があるんだとか。
まさかとは思うけれど、守護神殺しの件、バレていないわよね……。
時雨が帰った後、私と悪魔は日が落ちるのを待って外へ出掛けた。
ちなみに服装はブラックセーラー服。
私の通っている『
聞くところによると、スカート丈というものは田舎に行く程長くなるものらしい。
しかし、私の高校は珍しいことにミニスカートを採用している。
女子からは批判の声が多いものの、戦闘服としては最適。
そう、これから戦闘をする私には最適なのだ。
べっ、別に、ジャージとパジャマ以外の普段着を持っていないからではない!
決して違うんだから!
あと、私たちが夜になってから出掛けたのは、太陽が苦手だとか、家にいるのが大好きだとか、実は昼寝をしていただけとか……そんな理由じゃあない。
確かに昼寝はしたわ。
でもね、そもそも土曜の午前中に起きること自体がイレギュラーなのよ。
他にもちゃんと理由があるんだから。
理由。
それは鬼やバケモノたち、人外の性質にある。
簡単に言うと、彼らは日中姿を見せないのだ。
何故現れないのか。
それは人外の力の源である『陰の気』が世界に満ちていないから、らしい。
(『ヘルペディア』で調べようとしたら、悪魔が頼んでもいないのに教えてくれた。)
<概要@陰の気>
『陰の気』は『逢魔ヶ刻』を過ぎてから、『丑三つ時』——午後五時頃から午前二時頃にかけて満ちていく。
中でも『鬼門の刻』である午前三時に満ち満ちて、陰の住人(鬼や妖怪、バケモノなど)の力が最大まで高まる。
『陰の気』とは言っても、負の感情や雰囲気とは直接的に関係なく、あくまでも世界を構築する要因の一つである。
『陰の気』と『陽の気』のバランスが崩れたとき、自然の秩序も共に崩れ、百鬼夜行が行われるという。
(最終編集者:陰気な悪魔)
「って、おい! 完全に『ヘルペディア』のコピペになってるじゃないか! いきなり文面が変になったら、
「うるさいわね。こっちの方が分かりやすいと思ったのよ。……てか、陰気な悪魔ってどんだけ暗い奴なのよ。絶対根暗ね。SHKの代表クラスかしら」
「? なんだい、SHKって」
「S(世界中でも
「なんかHのとこだけ酷くないかっ!? しかも世界征服を狙ってるって……小学生が考えたみたいな設定だな、おい!」
「陰気な悪魔さんって馬鹿ね」
「馬鹿なのはその設定だっ! 陰気な悪魔になんの恨みがあるってんだよ!」
「あ~ら、随分と陰気な悪魔を擁護するじゃない。もしかして、あんたが陰気な悪魔さんだったりしてね。でも
「ふっ、ふっふ……ふはははは! それがどっこい、僕が陰気な悪魔なのさ!」
「へ~え、あんたが陰気な悪魔なのね」
「そうさ、驚いたかい?」
「ふーん」
「……どうしたのさ、笑顔なのに目が笑ってないよ」
「どうりでパソコンを使っている夢を見るわけね。あんた、私が寝てる間に身体を乗っ取ってパソコン使ってるでしょう。そうでしょう?」
「ちっ、違うよ!」
「じゃあ、どうやってるのかしら?」
「世の中には不思議なことがたくさん————ぐはっ!」
私は左手に持っていた悪魔を殴った。
乙女の身体を乗っ取るなんて、ほんと最低。
悪魔が白目を
悪魔が失神したのを見計らってか、夜風が吹き抜けた。
やっと来たわね。
散々待たせやがって。
まあ、いいわ。
それよりもっと来ないかしら。
今日は昼寝もしたんで、元気いっぱい。
いつもより多く斬れる気がするの。
————だから、もっと早く、もっとたくさん来い。
現在、私は学校のグラウンドにいる。
グラウンドの真ん中に大きく描かれた魔法陣の中心で、
何故そんなことをしているのかって?
中二病をこじらせているんじゃないわよ。
呼び寄せているの、鬼を。
普段ならそんなことしないけど、依頼だから。
学校のグラウンドなら広いし、戦いやすいし、それに壊れてもいい(?)し。
とりあえず、使い勝手がいいのだ。
っと、状況説明はここまでにしましょう。
たくさん集まってきたから、そろそろ始めないとね。
私はすっくと立ち上がる。
月が雲から顔を出し、辺りを照らした。
今宵は満月。
いい夜だ。
鬼は八体。
バケモノも一体だけ集まってきていた。
やった!
鬼以外もいんじゃん。
「いつまで寝てんの。仕事の時間よ」
「う、う~ん。あと、五分だけ……」
「選ばせたげる、鬼の餌食になるか私の餌食になるか」
「どっちも嫌だっ!」
かぁっと目を開き、起きる悪魔。
だったら一回で起きなさいよね。
私はあんたの妹でもお母さんでもないのよ。
悪魔を叩き起こし、装着。
装着し終わるのとほぼ同時に、鬼が私めがけて走ってきた。
前回の奴——守護神よりは小さい。
けれど、大きいことに変わりはない。
的が大きいと狙わなくて済むから楽よね。
それじゃ、ピッチング練習といきますか。
私は足元に置いてある木刀の代わりに、小石を手に取った。
それにしても、グラウンドに石が落ちてるなんてとんだ整備不良だわ。
ま、そう思いつつも今回ばかりは整備不良に感謝しなきゃ。
お陰で楽しく鬼退治ができそうだわ。
「
小石は轟音を立てて、吹っ飛んでいった。
「————!」
走ってきていた鬼の頭が、がくんと後ろに揺れる。
それはまるで銃で撃たれたかのよう。
鬼の額、頭のど真ん中に風穴が開いたのだった。
鬼の身体から力が抜けていく。
そのまま砂埃を上げながら倒れ、粒子となって消えていった。
「初球はストライク。立ち上がりは好調です! ついでにヘッドショットなんで、高ポイントですっ!」
(野球なのか、シューティングゲームなのか統一しなよ。紛らわしいな)
「どっちもよ。ちなみに、身体に当たったら外野行き。んで、こっちの陣地に入ってくるときは、カバディって言い続けなきゃダメなの」
(ドッジボールとカバディも加わってるっ!?)
「私が実況者であんたが解説者。ちゃんと説明してよね」
(いきなりの無茶ぶり! 選手でさえもなくなった! というか、そのスポーツを解説できる人なんていないと思うよ。逆に僕が解説してもらいたいね)
「久々にバスケがしたいわ」
(何故、唐突にバスケ!? 野球でもないし、しかも屋内だし! 意味が分からないよ!)
「……ちと、おふざけが過ぎたわ。ちゃんと戦わなきゃ」
(当たり前だ! ツッコミも疲れるんだよ! 早くそうしてくれ)
ということで、戦闘に戻りま~す。
鬼たちは私を警戒してか、なかなか攻めてこない。
私の四方八方を囲んで、睨んでくるだけだ。
「来ないんなら、こっちから行くわよっ!」
私は木刀を手に取り、神剣に変える。
神剣と言っても人間用の長さではない。
対鬼用の少し長めの刀だ。
空気が張り詰め、緊張が走る。
鬼が少しずつ後ずさりを開始した。
常識に囚われすぎ。
刀は近距離攻撃しかできないって思ってるでしょ。
チッ、チッ、チ……他にもあるんだなあ、私だけの使い方が。
①まず、刀をやり投げのように構えます。切っ先を鬼に向けて、よ~く狙いましょう。
②次に、助走をつけて大きく振りかぶります。この時、パンツが見えないよう十分に注意しましょう。
③最後に、思いっきり投げて終了です。
私はスカートの下に短パンを履いているので、パンツのことは気にせずに投げることができた。
まあ、履いてなくても絶対に見ないでしょうけど。
私のパンツは短パンの他に、『謎の白い光』と『パンツの神々』によって守られてるの。
だから、拝むなんて不可能よ。
一カメも二カメも三カメも、撮れ高は皆無に等しいでしょうね。
難攻不落の鉄壁防御なんだから。
(君のパンツに需要なんて無いと思うぞ)
「へぇ〜、そういうこと言うんだ。じゃあ、帰ったらあんたでパンチラの練習しましょうかね」
(是非ともパンチラの押し売りは勘弁してもらいたい)
「押し売り? いえいえ、これはお試し無料セットよ。送料別だけれど」
「送料とるんかい! 僕は拒否権を発動する!」
「勘違いしないで。あんたに拒否権なんてものは存在しないわ。あるのは、隷属義務だけよ」
「しれっと酷いこと言われたっ!」
話が脱線したけれど、事実として一から三カメは取れ高ゼロ。
残念でした~。
一方、四カメ。
サービスショットを狙わず、真面目に刀の様子を撮影していた。
賞賛に値する働きぶりである。
カメラには、刀が鬼に向かって飛んでいく様子が映っていた。
「このあるはずもないカメラの話、いつまで続ける気だい?」
「そうね。そろそろキツくなってきたわ」
では、普通のモノローグに戻します。
刀が腹に刺さり、鬼が近所迷惑な奇声を上げる。
……あれっ?
おかしい。
目標は射たはず。
なのに刀は止まらない。
ちょっと加減を間違えちゃったみたい。
「てへっ☆ やり過ぎちゃった」
(てへっ☆ じゃないっ!)
刀の勢いのまま、鬼も一緒に吹っ飛んでいく。
後ろにいた鬼もろとも串刺しにして、やっと止まった。
危なかったぁ。
割とマジで焦ったぁ。
もう少しで校舎にぶつかるトコだったぜい。
そうなったら、ガラスが割れるどころか半壊したわね。
学校は直せるにしても、近隣住民になんらかの影響はあるでしょう。
半壊した学校を見られたら完全アウト。
逆転コールド負けよ。
学校は直せても、記憶の修正はできないわ。
「でも一回の攻撃で二体倒せたし、結果オーライよね。うんっ、よくやった私。エラいエラい」
(正当化はいけないと思うなあ。きちんと反省しないと)
「悪魔のくせに私に説教するのね。悪魔なんだから、もっと悪魔らしくしなさい。キャラがブレブレよ」
(逆に説教されたっ!? しかも悪魔らしくないって言われた!)
悪魔がショックを受けているけど、気にしないでいきましょう。
敵はまだまだいるからね。
<敵もんすたー>
鬼:八体。うち、三体キル。残り五体。
バケモノ:残り一体。
<すてーたす>
HP:?
MP:?
装備:般若の面
武器:なし
(いきなり世界観が現代ファンタジーからVRMMOの世界へ!? やりたい放題だなっ!)
「楽しくなっていいじゃない。カオスこそが世界の真髄よ」
(ちょっと意味が分からないなあ)
「この際、世界設定はどうでもいいの」
(どうでも良くないっ! 絶対良くない!)
「うるさいわね。私だって考えがあってやってるの」
(考え? ……何さ、考えって)
「この方が状況を説明しやすいし、
(自信満々に言ってるけど、世界設定を崩してまで説明することじゃないっ! 前半はそれなりの理由だけど、後半は
「もぉ、だってぇ~」
(猫撫で声を出すな! 気持ち悪い。君こそキャラがブレブレじゃないか)
「まだ根に持ってたんだ。器の小さい奴ね。私はブレてもいいのよ。だって、私はツンデレでもクーデレでも妹キャラでもドSキャラでも、なんにでもなれる——そうね、全属性になれるチートキャラなんだから」
(誰が得するのさ!? この、人格崩壊者が!)
「………………」
(いきなり無口キャラにならないでくれ! 誰がストーリー進めるんだよ)
真面目にモノローグをやるとしましょうか。
上の『すてーたす』を見ても分かる通り、私は武器を失った。
じゃあ、どうやって戦うのかって?
そんなこと簡単よ。
武器が無かったら、素手で戦えばいいじゃない。
丸腰の私を見て、鬼が一気に周りを取り囲む。
バケモノは攻撃して来ず、後ろから様子を観察していた。
鬼の方からから来てくれたのね。
歩く手間が省けてラッキーだわ。
私の正面、一体の鬼がパンチを繰り出した。
トラックのような大きい拳が迫る。
このままでは内臓を破壊されてしまうだろう。
じゃあ回避する?
んな馬鹿な。
そんなことするわけない。
「あんたの拳と私の拳、どっちが強いか勝負よっ!」
目にもとまらぬ速さで二つの拳が衝突した。
空気を揺らし、衝撃音が響き渡る。
「っらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
拳と拳、パワーとプライドのぶつかり合い。
約十倍差の勝負。
大きさ的には不利。
やばい、すっげえ痛い。
拳全体が熱を帯びてくる。
痛いし、熱い。
でも楽しいっ!
もっと、もっとよ。
こんなんじゃ、足りない。
私の腕にピキピキッという音が——破壊音が、伝わっていく。
前腕の骨が折れ、肉が裂けて血が噴き出した。
皮膚と筋肉の下に白い骨が覗く。
あれまあ、壊れちゃったか。
もっと強化しとくべきだったわね。
でも安心して、グロい映像はすぐに消えるから。
壊れたら速攻で再生。
私の白く美しい腕(自画自賛)はすぐに元に戻った。
鬼はと言うと、右腕の骨が全粉砕されたらしい。
ぶらーんと垂れた腕を押さえ、
所々から黒い血が流れ出し、肩が可動域を超えた方向に曲がっていた。
さっさと倒してあげましょう。
このままじゃ可哀そうだわ。
右手を手刀にして鬼に近づく。
鬼は裏拳を使い、最後の抵抗に出た。
私はその場にしゃがみ込み、それを避ける。
——裏拳が私の頭上を通過。
これで鬼の
しゃがんだ状態から一気にダッシュ。
心臓めがけて手刀を突き出した。
————ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ………………。
ハンバーグをこねてるみたい。
いや、これはハンバーグね。
……お腹へった。
そういえば、夕飯まだだったな。
今日はハンバーグにしましょう。
(僕は遠慮しとくよ。よくもまあ、こんな状況でそんなことを考えられるね。僕は心底君が怖いよ)
「こうなったのも、あんたのせいでしょ」
(はははっ、そうだったね)
「……忘れないで頂戴」
鬼が倒れる。
鬼が粒子になるのと一緒に、手に付いた血肉も消えていった。
残り、鬼四体とバケモノ一体。
鬼だけならかかって三十秒。
とりあえず、鬼を先に片しましょう。
バケモノはそれから。
お楽しみは最後まで取っておく派なの。
アイツも攻撃してこないみたいだし。
鬼も学習したらしい。
一対一じゃ勝てないと悟ったのだろう。
残りの四体が前後左右、東西南北から一斉に攻撃してきた。
二体の鬼が真上にジャンプ。
弧を描きながら、私に降ってくる。
位置エネルギーと体重とを拳に乗せて放ってきた。
半径五メートル範囲が陥没。
タイムラグがあって、土砂が雨のように降り注いでくる。
二つとも避けたので、クレーターが二つもできてしまった。
あ~あ、グラウンドに穴開いちゃった。
これを直すの私なのよ。
だからあんまり壊さないで欲しいんだけど……。
これ以上壊される前に、早く終わらせた方がいいな。
一般人にも見られるかもだしね。
鬼が拳を抜く前に、蹴りを入れる。
次は私が攻撃する番だ。
見てなさい。
三十秒で片づけてあげるわ!
一体目——最後に降ってきた鬼なので、頭が下がっている。
そこに脳天めがけて
今回はちゃんと足を強化したので壊れない。
力が強かったのか、頭が千切れてしまった。
「まさにダルマ落としね」
(最初からダルマの頭を落とすダルマ落としがあるかっ!)
「次、いくわよ」
次は、最初にクレーターを造った鬼の元に向かう。
二体目——拳を抜き終わり、体勢を直している途中だった。
中腰になっていたので、横腹に横蹴りをプレゼント。
私の脚——正確には
腹が裂け、上半身と下半身が分裂した。
————八秒経過。
三体目——二体目を倒している間に背後に接近していた。
背後を狙うなんて、とんでもなく卑怯な奴である。
接近するのに精一杯だったようで、攻撃モーションには入っていない。
私は横蹴りの勢いを利用して、そのまま回し蹴りを喰らわせた。
落下時の重力も利用して、脇下から
————十二秒経過。
四体目——仲間が
ちょっと休憩。
私と鬼は睨み合う。
どうやって倒そうかな。
殴ったし、蹴りもやった。
手刀も使ったしなぁ。
そういえば、木刀を取りに行ってないわね。
そうだわ、取りに行って刀で倒すことにしましょう。
知ってた?
木刀ってすねるのよ。
木刀(いまは神剣になっている)はここから約二百メートルの位置に突き刺さっていた。
やり投げの世界記録は百十メートルいってないから、余裕で世界新記録ね。
この場合は、やりじゃなくて刀だけど。
睨み合いは二秒と続かない。
私はクラウチングスタートで駆け出した。
グラウンドをえぐり、夜風を切りながらダッシュ。
結果、二百メートルを十秒で走破した。
————二十二秒経過。
また世界記録を破っちゃった。
……でも、残念。
鬼の位置まで帰らなくちゃなんないから、三十秒は無理。
この時点であと八秒しかない。
勝負に勝って、試合に負けたわ。
神剣を地面から抜き、元の大きさに戻してから鬼の方を振り返る。
しかし。
いくら探せども、どこにも鬼の姿はない。
いたはずの所にいない。
その代わりにバケモノがいた。
おはぎに目を付けたような、ホヤに触手を付けたような見た目。
なんとも気持ちの悪い、一つ目のバケモノ。
今まで沈黙していた、そのバケモノが鬼を喰らっていた——————。
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