第45話 【Side:ブレイブ】セクハラ・モラトリアム

 月島さんとの夜はとても刺激的なものだった。


 もう出会うことは無いと心の中で思い出にしていた、生前遠くで見ていただけの想い人。まさか生まれ変わってなお異世界で出会うことができただなんて。更に、その彼女が正体不明の、あの魔法少女だっただなんて……夢の連続だった。


 でも、そのあとは……とても苦いものだった。まぁ、原因は俺にあるんだから自分の馬鹿さ加減に嫌気がさす。調子に乗ってあんな告白なんてしなければ良かったと後悔してもしきれない。どんな顔をしてアリスに会ったら良いのだろう。憂鬱だ。


 別れ際、月島さんから言われたのは、お互い『吾妻』や『月島』の名で呼び合うのはやめようということ。俺はただ頷いた。


 やるせない気分のまま、俺はとぼとぼと宿に歩みを向ける。その先の暗がりに彼は居た。


「あの黒髪の少女に告られたのか?モテるな、相変わらず。」


 陰に居たのは、先の暗黒龍の戦いで逃亡したキューイだった。


「さっきは道を教えてくれてありがとう。告白をしたのは俺さ。ダメだったけどな。」


「ほう、お前から告白とは珍しい。」


 相変わらずの残念イケメンな俺を慰めるキューイ。アリスとの合流前に道に迷った俺は偶然再会したキューイに道案内してもらった。そして、遠目でアリスとの密会を見ていたということか。


 彼は普段無口だったが、今はよく喋っている。どうやら女性が苦手なようで、女性がいる時は極端に無口になるようだ。転生前のデブキモオタだった頃でもそこまで女性と会話ができないことはなかったが、キューイに一体何があったのだろう?


「どちらにせよ失恋か。安心しろ、口外はしない。あいつ等と会うことはもうないから。じゃあな。」


 キューイには戻ってきて欲しいと頼んだが断られ、以上は引留めなかった。彼はそのまま暗がりに姿を消した。


◇◇◇


「ブレイブ、起きなよ。」


 そんな声が聞こえて目を覚ます。


「ここは……?」


 目が覚めたのは宿屋の1階にある酒場のテーブルだった。そう、俺はアリスと別れてから失意のまま一人でやけ酒をあおったのだった。俺を起こしたのはファナ。パチャムもいた。


「よう、お前たち…一緒に呑もうぜー。付き合ってくれよ~。」


 ファナは目をキラキラさせていたが、明らかに不機嫌なパチャム。


「ブレイブ、キミはまだ未成年なんだよ!それに明日から戦線に復帰するって言うのに。それに今日はアイスソードを取りに行くんだろ?早く支度しなよ。アリスたちもすぐ来るよ。」


 そうだった。暗黒龍との戦いで破損したアイスソードを修理に出しており、今日取りに行く予定だった。王都の鍛冶屋に修理を依頼したが、伝説級の魔剣では魔術関連の店に相談してくれと言われ、アリスのお願いでリフィーが案内してくれた魔法使いにアイスソードを託したのだった。


「そうだった。ごめん、いま支度するよ。アリスが……来るんだもんな。」


 早速アリスに会う時間が迫り、フラフラしながらも重い足取りで自分の部屋に戻る。着替えをしていると部屋のドアが開く。


「ブレイブ、何かあったの?帰り遅かったみたいだし……一人で飲んでたなんて。一言声をかけてくれれば、付き合ったのに。」


 ファナが入口に背を持たれながら話しかけてきた。フラれたことでモヤモヤしていて、酔いのせいか今はファナに甘えたい気持ちが芽生えた。部屋を出るときファナの肩に腕を回して抱き寄せていた。


「また一緒に呑もうな、ファナ。」


 ファナは小さく頷き、俺の腰に手を回す。


※日本でのお酒は20歳になってから!


◇◇◇


 アリスとリフィーと合流した俺たちは王都を出発し4時間ほど進む。人里離れた森の中にアイスソードを託した魔法使いは住んでいた。彼はスピリットガーデンの中でも有数の魔法使いで古代の魔法具に精通している老エルフ『マギクス』。アリスが言うにはリフィーの主の旧知だという。


 アリスとリフィーは先頭を歩き、俺たち3人は後ろを歩く。アリスは何度か後ろを振り向くが、俺は目を合わせることができなかった。


「ね、ブレイブ。アリスってさ……」


 不意にファナの口からアリスの名が出てドキッとした。昨晩のことを何か勘づかれたのか!?


「オッパイすごく大きいよね?」

 

 更にドキッとする!というか、心臓が飛び出しそうになる!!


「な、何を言い出すんだ、ファナっ!?」


「男の子はオッパイ大きい女の子が好きなんだよね?いいなぁ、アリスの大きくて。ブレイブはアリスみたいなオッパイ好き?」


 ファナは自分の胸に手を当てて溜息をつきながら質問した。


「ア、アリスのは、その良いと思うよ。でもだな、お、大きいとか大きくないとか、そんなの気にするな。ファナのはちょうど良い位だし……だよな、パチャム?」


 しどろもどろになりつつパチャムにボールを投げる。パチャムは突然のデッドボールに驚く!


「な、何を聞くんだよ!?そうだなぁ……ファナのはどうかな?そもそも貧乳で筋肉質だからね。もっと脂肪を溜めないと。」


 パチャムの直球がファナにもデッドボールを見舞う!そして乱闘!!ファナはパチャムの足をすくい倒れたパチャムにマウントポジションを取る。


「パチャム、あんた脂肪が多いんじゃない?」


 ファナはパチャムの上着をまくり上げ、お腹周りをプニプニと触診する。


「ちょっ、や、やめてよ〜!」


「胸にも脂肪が!女の子みたいじゃない、パチャム。ムチムチ〜。」


 俺も前世ではデブでよくクラスメイトにからかわれて胸を揉まれたものだ。そういえば、死んだ日にビッチ女に胸を揉まれて、ちょっと……興奮したことを思い出した。


 恥ずかしさに両手で顔を覆うパチャムを見かねて、俺はファナを抱き上げてパチャムから引き離す。


「ファナ、そのくらいにしな。パチャムもファナの胸について言い過ぎだ。」


 二人は互いに被害者ヅラをしていたが、俺が二人を諌めていると……


「お前ら、ふざけてるんじゃない!」


 リフィーが俺たちに怒鳴る。すると、木々に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立つ。いや、リフィーの怒声がそうさせたのではなかった。何かが近づく気配に鳥たちが反応したのだ。


「何か……来ます。」


 アリスが異変に視線を向けた。

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