第241話 あずき

 とりあえずわんこの名前を保留にして封印の間から出ることにした。辺り一帯に漂っていた瘴気はいつの間にかすっかり消え失せ普通の空間になっていた。この分だと瘴気は魔獣から勝手に漏れ出てただけみたいだな。


 こういうのはその場所から瘴気が漏れてて魔物に影響を与えるとか、魔獣が住み着いていたせいでこの一帯も汚染されてるとかよくあるけどそんな事はなかったみたいだ。後片付け無くて良いのはとても便利でいいな。


「わう~」


「なんだか嬉しそうですね」


 俺が抱っこしてわんこを連れているとわんこは非常に嬉しそうにしている。ちょっと長めのモフモフしている尻尾がぶんぶん揺れててその気持ちを表している。俺に抱っこされて喜んでいるのは素直に可愛いと思う。


 ちなみに歩かせようとも思ったが、まだ少し弱弱しいのでとりあえず抱っこしている。俺が与えたダメージが残っているし、クロエの回復を受け付けようとしない頑固なわんこなので。


 こういう癒しはロリで全然何とかなっていたけど、やっぱり本物のアニマルセラピーにはかなわないよな。ロリセラピーとかありそうな雰囲気あるけど。というか俺はロリセラピーで癒されまくってるけど。


「しかしこいつほんとに犬と一緒だな。小さいけど」


「種類的にはシャウトウルフを使役してたみたいだしその仲間なんじゃない? なんでこんな小型化してるかはわからないけど」


「うーん、元の状態に戻ってはいますがこんな小型化しているんだったらもう別の生き物だね。普通に犬でいいんじゃないの」


 クロエとめぐがテキトウな事を言うが、あながち間違ってもいなさそう。魔王の魔力によってシャウトウルフが突然変異してこうなったとか、元はシャウトウルフだったけど浄化された影響で別の生物に変化したとかそんな感じ。


 だってどう見てもこれあいつらと違うんだもん。シャウトウルフは真っすぐなまじで狼っぽい尻尾だけど、このわんこはちょっと丸まってて柴犬っぽい感じの尻尾が生えている。


 その辺も考えるとまじでペットにしか見えないしめちゃんこ可愛い。こんな存在がこの世界に存在していたとは。いや、魔王が変化させたならもしかして魔王も小動物大好きなのかもしれないな。


 めっちゃ仲良くなれそうじゃん。というか魔王って男なのか女なのかすらもわかんないんだよな。戦闘する種族的なイメージはあるけど前の世界の侵攻の時見かけることすらなかったからな……。


 もしこの世界にループ出来るのを最初から知っていたら……いやないな。もし知っていたとしても俺は同じように後悔しただろうし皆を守るためにもっと必死に行動しただろう。魔王から逃げるためにな。


 俺では魔王を倒せない。勇者に頼る事も出来ない。クロエとイリスがいない。そんな状態で魔王に向かっていく気力何て無かったわ。


 だが今回の世界では着々と色々な準備が整っている感じがある。なんというか、ピースがはまっていく感覚を感じ取れるというか、いい方向に世界は進んでいるようなそんな感じ。俺がそう願っているだけかもしれないけど。


「私も抱っこしたいです~」


「グルルル」


 俺に持たれてご機嫌のわんこをみてフラフィーは羨ましそうにしているが、わんこがフラフィーを拒絶するため抱っこすることが出来ないでいる。クロエはそもそも興味がなさそうだし、めぐに至っては脅迫まがいな感じだ。


 幼女とちゃんと戯れるわんこがみたい人生だった。イリスもあんまり動物興味なさそうなんだよな。あの子は精霊とお友達だから動物とか見ても普通というかテンションが上がらないたちだと思う。そもそもご飯食べてる時以外基本テンション低め。


 あとはあかねか。あかねはどうだろうか。動物に対して苦手意識はないだろうがめちゃくちゃテンション上がってるあかねとか見たら俺がテンション上がりそうで困るな。小動物と戯れる女の子は無条件で可愛いんだよ。


 あかねは元から可愛いけどな。あかねの評価が上がっていく事しかないなこの二周目。


 そんな感じでみんなでぶらぶらと歩きながら宿屋まで帰っていく。教会は相変わらず廃教会のままだけど封印を解いたせいか人が結構近くまで来ているようになっていた。


 もしかしてここ封印の影響で人が近づけないような状態になっていたんかな。言われてみれば普通こんなにボロボロの教会があったら誰かしら直したりするよな。近くに住んでいる人がいるなら掃除くらいはされていてもおかしくはない。


 それがずっと放置されていたんだからおかしい話だって思うべきだったな。神父さんが派遣されない原因ももしかしたらその辺にあったのかもしれない。しかしそう考えると最初にいた神父さん何者よってかんじではあるが。


「みなさん、おかえりなさい」


「ただいまティティ」


 宿屋に戻るとティティが食堂の前を箒で綺麗にしていた。宿屋と併設されているため内観だけでなく外観も綺麗にしておくというのは人が入りやすい空気を作る。誰だって汚れている扉よりきれいな扉にはいるからね。


「ええと、そのわんちゃんは……」


「触る?」


「良いんですか!?」


 ティティが物欲しそうな顔してわんこをずっと見ていたので軽く差し出してみると思った以上の食いつき。これよこれ、俺が求めていた反応はこれですよ。


「ちょっと大人しくして触られててな」


「くぅーん」


「かわいい! わーもふもふー! わんちゃんお名前はなんていうんですかー?」


 ティティは箒をそのままに、わんこに向かってもふもふを開始する。その姿は俺の求めてやまない犬と戯れる少女……もしわんこが大型犬くらいのサイズだったら完璧すぎたな。命令して背中にティティ乗せて町内一周してきてもらう所だ。


 だが残念なことに今のわんこではそれは不可能だ。汚染状態にあったあのサイズなら文句なく町内一周出来るが建物も破壊してアカン感じになる。


「すまんなティティ、そいつまだ名前ないんだ。良かったらつけてくれないか?」


「えぇ!? 良いんですか! ずっとわんちゃん欲しかったんですよ! 名前の候補はいっぱいありますよ! この子は……黒い毛並みと、綺麗な紫の瞳……あずきなんてどうですか!?」


「良いと思う。今日からあずきな」


「わう!?」


 わんこの名前はあずきに決まってしまった。本人は自分の名前があるみたいなアクションを取っていたがこんなに嬉しそうなティティに向かってやっぱやめたとは言えない。


 あきらめてくれあずき。

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