第238話 同類

「グルルル……」


 俺が光線を耐え抜いたことに驚いている様子の魔獣は俺から逃げるように距離を取っていた。しかし今度はしっかりと透視を発動させ相手の行動の意味を探っていく。逃げるように動いている足元には体毛が細かく張り巡らされている。


 そこに足を踏みいれたらまた非常に面倒な事になるだろう。さっき捕まって分かったが、あの体毛は俺の方向に向かって動いている。魔獣が操っているのかはわからないが、もしあの量を受けたらずっと透過し続ける必要が出てくるかもしれない。


 透過すれば問題ないと言えば問題ないが、それでは攻撃をする時が結構面倒になるのと純粋な戦闘じゃないから少しもったいない気がする。それならばどうするか。


「とりあえずだけど、試してみたかった技を見せてやろう」


「ガウッ!」


 俺はその場で強く守護の光を発動すると、魔獣は驚いたようにさらに距離を取る。決して近づいてこないのは俺が怖いからではなく、光線を撃ち消耗した体力を回復するためだろうか。


 もし自分よりも強い敵が罠を張り待ち構え、行動を阻害してくる魔物を召喚し、当たれば即死クラスの技をぶっぱして、疲れたらこっちの隙を窺いつつ一定の距離を保つとかそんなゲームがあったらキレて良いと思う。


 だから俺もちょっとインチキくさい手段を取ろうじゃないか。


「グルルル……?」


 守護の光が消え、辺りはもう一度暗闇に包まれる。しかしそこで魔獣は俺の姿を見失ってしまった。


 スキル『ステルス』と『気配遮断』の二つを発動させ、全力で移動してみた。前の世界では魔物からも容易に逃げられ見つかる事もなかったこのコンボ。これはどうやら魔獣にも有効なようだ。


 目に見えないのは当然として、どうやら臭いなども周囲に溶け込ませることが出来るみたいだ。それに気配遮断を合わせたら完全な隠密状態が完成する。これ隠密スキル普通にいらなかったな。絶対こっちのが上位互換だわ。スキル二つ使うけど。


 というわけで今度はこっちの攻撃。


「む……」


 だが近づこうとすると魔獣の体毛が散っているせいか俺の姿を確認出来なくてもこっちの位置を把握してくる。体毛は俺の行動を阻害するだけじゃなく、どうやら探知機のような効果もあるらしい。


 この魔獣うざさに特化し過ぎなんだけど。どうしよう、まともに戦って倒そうと思っていたけど相手がまともに戦おうとしてこない。ドヤ顔で技を見せてやろうとか言ったのに恥ずかしいんだけど。


 いや違うか。俺がこいつにとって警戒するに値するからこういう行動を取っているだけだ。


 もし格下相手だったら普通にボコボコにして倒しに行ってるだろう。そのくらいの威圧感は常に発しているし俺が隙を見せたら襲い掛かれるようにずっとこちらを注視している。


 こいつはただ全く油断をせず、俺を脅威とみなしているからこうやって戦っているだけだ。つまり、この魔獣の中で俺は魔獣と同等かそれ以上の存在として認められているという事だ。


 いいね、燃えるじゃん。だけどみんなが見てるし俺も持久戦をやるつもりはない。とっととケリをつけてやるか。


 俺は防御を魔獣に向けて発動させる。お馴染みのスキル封じの奴だ。


「!! ガアアアアア!!」


 俺の防御がかかった瞬間、魔獣は異常を感じたようでその場からダッシュで移動する。魔力の塊と言われていただけあり、スキルを封じた所で俊敏性を下げることはほとんど敵わなかった。


 しかしそのほとんど、そして一瞬の驚き、この二つが重なれば隙をついて一撃を入れることはたやすい。防御の効果によって奴の体毛は俺を捕縛する機能を一時的に失っているため姿の消えている俺を補足できない。


 奴が魔力の塊で、この体毛が奴の魔力だとしたら防御によってリンクが切れているからだ。もしこれでも動かせたらだいぶめんどくさかったが、そこは大丈夫で本当に良かったわ。


「これで終わりだ!」


 スキルの恩恵のある俺と、隙をつかれて魔力の恩恵のない魔獣では俺の方が圧倒的に強い。そして今度は剣を叩きつけるのではなく突き刺す。


「ギャアアアアア!」


 断末魔の雄たけびを上げるが消滅させるまでには至らない。というわけで今度は剣に守護の光の力を注ぎこむ。


 めぐはやっていた。女神の力を拳に込めて俺の腹めがけて思いっきりパンチをかますという荒業を。その技を真似て剣に守護の光を集中させる。その光は守護の光というよりも浄化の光のように感じる光景だった。


 体内から反対の属性を注ぎこまれた魔獣はやがて叫び声を上げなくなり、ぐったりとその場に倒れ、文字通り小さくなっていきうずくまる。あれ、こういう魔物って苦手な属性食らったら消滅すると思ったんだけど……。


「凄いわねキミヒト。あれを弾くなんてやるじゃない」


「私の盾とかもう必要なくなっちゃいましたね! かっこよかったです!」


「お兄ちゃんは私が育てた」


 俺が魔獣を倒したのでみんながぞろぞろと封印の間に入って来る。どう見てもこれ以上戦いようが無いことはわかるし、めぐとクロエなら相手が死んだふりをしているかどうか見抜けるだろう。


 フラフィーは一人で来ると敵が復活するフラグが立ちそうなのでちょっと怖いです。みんなと一緒に行動してね?


「なあめぐ、魔獣って殺した方が良いのか?」


 めちゃくちゃ弱ってぴくぴくしている魔獣は、ただの小さい黒いわんこだった。無抵抗のこれを殺せって結構精神的に抵抗あるわ。俺はロリも大好きだが動物も大好きなんだよ。ケンちゃんとかめちゃくちゃもふりたくなってきたわ。


 仕方ないからとりあえずフラフィーのしっぽを触ったらめっちゃ怒られた。


「お兄ちゃん、この子の事よく見て?」


「ん? あぁ、鑑定か」


 めぐがステータスを見ろみたいなジェスチャーをしてくるので鑑定をかける。


『-----:名前のない魔獣。強いものに従う性質を持ちキミヒトを認めた。魔王の魔力により汚染されていたが浄化され本来の姿に戻りつつあったが瀕死』


 殺し辛。っていうか俺を認めたなら殺す必要ないんじゃないの。あと思ったんだけどさ、女神様が作った獣が神獣で、女神様に匹敵するような力を持った魔王が作った獣が魔獣でしょ?


 そして魔王の魔力に汚染されてたってどう考えてもこの魔獣ケンちゃんと同類の神獣だろ。

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