第188話 もらいに来た

「なんだなんだ人が入って来たぜぇ!」


「獣人狩りか!?」


「返り討ちにしてやれ! こんな真昼間からくるとは言い度胸じゃねえか褒めてやるぜ!!」


「祭りだ祭りだ! 血祭りだうおおおお!!」


 うるせぇこいつら。屈強な虎の獣人やら狼のような獣人やらよくわからんめちゃくちゃでかい獣人もいる。戦力固まりすぎだろここ。一人一人が明らかに猛者感放ちまくってて修羅の世界に迷い込んだような感じ。


 でもこいつら後ろで女子供避難させててめちゃくちゃ和む。こうやって叫んでるのも自分たちに注意を引きつけて逃がすための時間稼ぎをしているんだろうな。あかねが凄い暖かい目をしてるからたぶん合ってる。


「こんなところにわざわざ人が来るとは。結界をどうやって超えてきたのですかな?」


 そして少しするといかにもな獣人がゆっくりとこちらに近づいてくる。屈強な戦士達の中でもその迫力は異様の一言に尽きる迫力。


 顔にエックス字に傷の通ったイカツすぎる猫の獣人。見た目は老人のように見えるが鍛え抜かれたやばい体と顔の傷、凄まじい修羅場をくぐってきたのが分かるほどの覇気まで放っている。


 こら並の人間じゃ勝てませんわ。


「ケンちゃんに案内してもらいました。迷える獣たちに祝福を」


 めぐはそう言って祈りのポーズで片膝をつく。めっちゃ神々しい空気を放っている。その神気みたいのって自力で出せたりするんだね。


「ばっばかな! たかが人間が神気だと!?」


 その気配を感じ取り獣人たちは一斉に後ずさる。長老っぽい人はそれが何なのか分かっている様子だったが、他の獣人たちは本能的に下がっている感じだった。というか神気であってたんだ。


「長老! あれはいったいどういう事ですか! 神気とは?」


「全員下がれ。あれは見た目通りの人間じゃない。お客人、失礼した。とりあえずここでは無用な混乱を招く。私の家に来なさい」


 長老は一変してめぐに頭を下げつつ俺達を案内していく。その間に周りを見渡してみるが見事に女子供の姿は見えなくなっている。連携が素晴らしすぎるし家族愛というものを感じる暖かい村だわ。


 簡素な村ではあるが自然豊かな森の中、近くには川もあったし湖もあった。動物たちも多く住んでいるようだし食料には困らない良い環境だな。


 長老の家につくと質問が飛んできた。


「お客人、失礼だがその気配。人間ではあるまい」


「体はもう人間ですけどね。こう見えて女神やってました。今はめぐとお呼びください」


「私はその使徒でキミヒトです」


「私も一応。あかねです」


 めぐの紹介に合わせて俺達も自己紹介していく。村長っぽい人の名前はティモルフというらしくやっぱりこの村の村長だった。顔の傷は昔人間と戦った時に出来た傷とかでそれ以来人間を嫌うようになったとか。


 そして獣人たちのために村を作っている所でケットシーに出会い、村全体を結界で覆ってもらう事になったらしい。そこからは村人全員でケットシーを崇めているようだ。え、長老いくつ?


 となるとここは間違いなくフラフィーから聞いていた村で合っている。


 こちらは詳しい事情を話すと混乱させるかもしれないので、世界が一巡したとかは話さず世界に危機が迫っていることだけを伝えた。それで女神の加護を持っている仲間たちを集めている最中だとも。


「なるほど理解した。それでその仲間というのは誰なのか」


「フラフィーです。栗色の髪をした、猫獣人の」


「少しまっていてくれ。呼んでこよう」


 この家にはティモルフしかおらず家の中もあまり生活臭はしなかった。たぶん基本的には皆で一緒に過ごしているのだろう。フラフィーがそんな事を言っていた気がする。


 しかし女神様いなかったらこの村見つけるの無理だったんじゃなかろうか。めぐとして人間になったことに感謝したいくらいだわ。めぐには悪いけど人間の身に落としてくれた他の女神様グッジョブ。


 少しすると長老ともう一人が姿を見せる。そのもう一人は当然見知った顔で、初めて会った時と変わらない姿だった。そしていつもと同じように真っすぐ俺と向き合う。


「……え? キミヒト、さん? 本当に?」


「よお、元気だった?」


 家の中にフラフィーが入って来ると俺と目が合う。めちゃくちゃ驚いてる。そして涙目になってゆっくりと近づいてくる。


「む、迎えに、きてくれ、たんですか……?」


「うぬぼれんな」


 そっと俺に抱き着いてこようとするのでその手を押しとどめる。ちょっとショックを受けた表情でこちらをうるんだ瞳で見つめてくる。


「キミヒトさん……」


 だから俺は言ってやる。


「迎えに来たんじゃねぇ。もらいに来たんだよ」


「キミヒトさん! 夢じゃないんですよね! 嬉しいですー!」


 そう言ってフラフィーを引き寄せて強く抱きしめるとフラフィーも強く抱きしめ返してくる。あぁ、フラフィーもちゃんと記憶持ちこしてるわ。めぐまじでありがとう。俺のために違反犯しまくって神様やめるとか剛毅すぎるぜ。


「良い話ですねぇ」


「だねぇ」


 めぐとあかねは二人でしみじみと頷いている。お前らのおかげだよなに傍観してんだよ。本当にありがとうだよまじで。


「本当だったのかフラフィー」


「だから言ったでしょ! キミヒトさんが迎えに来てくれるって!」


 後から入って来たティモルフが驚いていた。どこか暖かいまなざしでありながらも困惑しているのは、フラフィーが言っていた事を信じていなかった事に他ならない。


 どんな説明をしたかはわからないが、人間の俺がここを見つけ出して迎えにくるなんて普通不可能だからな。ティモルフの気持ちもよくわかるよ。


「昔から夢見がちな子だったが、女神様の加護でこれから運命の人と冒険できるようになったとか言い出した時は本当におかしくなってしまったと思っていたぞ」


 何を言ってるんだ何を。

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