第177話 別の意味で

 次に話す必要があるのは勇者の救出方法だ。というか本来であればごり押ししようと思っていたが、王女様の協力が得られた今色々出来るようになった。それはローラの存在も含めてだ。


 勇者のスキルやステータスを全部バグらせることで、死ぬ予定だった第二グループの連中を第三グループに所属させようとしていた。しかしこれには致命的というほどではないが穴がある。


 第一グループの連中は強くなってもらわなくては困るのでそのまま。これは裏を返すと第一グループだけでいいやとなった場合かなりの確率で全員処分される。俺やあかねが生きていたから第三グループはあったが、今回はどうなるかわからない。


 前の世界で第三グループはそれなりに人数がいたから大丈夫だとは思う。俺たち以外にも結構面白そうなスキルを持っている連中もいた事だし全員処分はまずない、と思いたい。


 もしそうなった場合は洗脳解いて普通に異世界で勇者してもらおうと思っていた。俺とあかねの力を持ってすれば兵士が多くてもなんとかなる。全部闇討ち可能だ。そのためのスキルもあるし。


 だが鑑定持ち、王女の親友、聖女。この肩書を持っているローラが勇者たちのスキルの可能性を説いてくれれば、そんな事態も起こりづらくなるんじゃないかと思う。


 あかねの王女部屋への誘導ナイス過ぎたな。


 という話を王女とローラに話す。結構長くなってしまったが二人ともまじな話だったからかかなり真剣に聞いてくれていた。


「それなら私は視察という名目でスキルを鑑定する時にもう一度向かいます。誰も読めないのであればローラが必要とそう言えば問題なさそうですね」


「私は待機ですね。鑑定結果を出すのは少し時間を空けたほうがいいです? これでも聖女なので公務をやっていると言えば王城の命令でも数日程度は伸ばせるですよ?」


 ふむ、確かに時間稼ぎをしてもらうというのは結構ありかもしれないな。スキルチェックを行ったあと第一グループの連中はすぐさま第二グループをやるように命令されていた。


 となるとスキルがわからない以上やらないだろう。そして訓練が始まってしまえば第一グループは隔離されたような場所での訓練になる。うむ、とてもありだな。


「ぜひ頼む」


 さてここでの問題はこれでなんとかなるだろう。後は勇者達を脱出させるときにどれだけ被害を押さえられるかだが……それは勇者達に行った拷問のツケだと思って好きにやらせよう。


 もし俺が兵士たちをかばって王様の仲間だと思われても面倒だしな。王女様とローラだけは守るつもりでいるが、そこはあまり気にしないでもいいだろう。前の世界でも大丈夫だったみたいだし。


 あとは……。


「さて王女様、一段落着いた所で質問いいですか?」


「なんでしょう?」


 王女様は単独で解呪の方法を探していた。そしてそれは王様の行動に反逆する行為ともとれる。実の父親である王様に隠し事をしながらこういった調べものをするのはかなり骨が折れるだろう。


 というかばれている可能性がある。じゃあ何故それでも続けていられるのか。


「王女様の魔力封じ……どうしてかけられたんですか?」


「それは……いえ、ここまで来たら話しましょうか。これはお父様、王様の手による封印です。解呪方法を見つけたとしても私が発動できないように」


「それなら他の人に発動だけ頼むというのはダメなんですか?」


「それはほぼ無理です。解呪をするにはその呪いをかけた人と同じかそれ以上の魔力を必要とするので一般人の魔力量じゃ到底足りません。この王城にある魔法陣の起動も数十人がかりですので」


 王女様は淡々と語るが、それってもしかしなくても王女様の魔力量なら一人で起動できるって事か? そうなると王女様相当な強さなのでは。


「私自身の魔力量はかなり高いですが……小さい頃からこの術を施されているので魔法を使ったことはほとんどありません。それに関してはもう受け入れていますし諦めてもいます。この術も同じように数十人がかりでかけられたものですし」


 ほう。


「じゃあその状態異常が治ったら魔法使えるって事ですね? 解呪の魔法陣とか実は持ってたりするんですか?」


「いえ、魔法陣はそのまま術の物を流用しても解呪できるようです。私に施した術の魔法陣はもうないのでどうしようもありません。でももし私が魔力を練れれば勇者全員の術を一気に解けたかもしれませんね」


 王女様は寂しそうに笑顔を作る。明らかに無理してる笑顔だし横にいるローラも王女様を励ます姿勢に入っている。王城がこんなんじゃなかったら王女様もきっと魔王討伐パーティに入っていたんだろうな。


 最強の魔法使いの王女、国が認める聖女、そして勇者。あとは歴戦の女戦士……アマンダ歴戦って感じじゃなかったから別の人が採用されそうだな。


 乗り掛かった舟だし、ちょっと試してみようかね。


「王女様、少し手を貸していただけませんか?」


「手を? 何故?」


「簡単に言うと王女様の状態異常治せます。ちょっと条件が必要なので可能性ってだけですけど」


「さ、流石女神様の使い。なんでもありなのです……」


 王女よりもローラが感心している。聖女というからには色々と知識も能力もあるだろうが、それでも王女のこの状態異常は解けなかったのだろう。現地の人間には到底出来ないような奇跡的な魔法なんだろうな。


 じゃなきゃもう少し平和な方法で魔王討伐しようとしてるだろう。洗脳じゃなくて世界から勇者を募ったりしてね。


 そんな事を考えていると、王女様がゆっくりと差し出してくる。その手に触れて『看病』を発動させる。


「……」


「……やっぱり何も起きませんね」


 まだ信頼関係が足りないのだろうな。やっぱりって言ってるし期待もしていなかった感じだ。そう簡単にはいかない……いやまてあるだろもう一つ方法が。


「ローラも手を貸してくれないか? 王女様とも手をつないでくれ」


「私もです?」


 ローラは素直にこちらに手を差し出しもう片方の手で王女様の手を握る。


「じゃあ、行くぞ」


 俺はもう一度スキルを発動させる。看病のスキルには条件として相手との信頼関係が必要となって来る。これは看病をする時に知らない人に看病されると逆に緊張するとかそういうのが理由なんじゃないかと思っている。


 つまり俺以外の信頼出来る人を通せば看病スキルは発動できるのではないかと考えた。その人物が俺のことも信頼し、かつ王女様からも信頼されている人物なら。


 俺は『看病』スキルをローラのなかに無理やり通しスキルを発動させる。一応効果範囲増のスキルも使っておくがこっちは気持ち程度だ。ないよりはましだろうという考えだ。


「な、なにか……入って来る……です。ん……」


 ローラが艶っぽい声を出すので地味に俺もクるものがある。クロエとイリスとフラフィーと長らく過ごしていたからかなり満たされてロリに耐性がついてはいたが好きなものは好き。


 小さくて柔らかい手だとかナースっぽい服だから上から中が少し見えそうだとかそういったことがやけに気になって来る。鍛えられてなかったらたぶん死んでいたな。今のローラにはその位の破壊力がある。


 ローラを通して看病のスキルはしっかりと王女様に届いたようで、魔力の流れが凄く安定しだした。


「エリーちゃん……どう、です?」


 無理やりスキルを通された影響で息も絶え絶えな状態でローラは質問する。汗で髪が顔に張り付いているのもいい感じ。


「ローラ……これ……」


 王女様は首から下げていたネックレスを取り出しローラに見せる。それは一見小さな宝石のように見えるが、王女様の魔力を吸って七色に輝いている。ローラはそれを見て泣きそうになりながら王女様に抱き着く。


「良かった……! 良かった……!」


「ええ……ありがとうローラ……。それに、キミヒト、あなたにもありがとう」


 二人はしっかりと抱き合って涙を流し合っていた。見た目は確実に状態異常が解けているが、一応ステータスでも確認しておこう。


 これだけ感動させてもし解けてないとかだったら目も当てられないからな。


『エリザベス・グラン:人族の王女。ほぼ全ての魔法を使える。発情中』


 ……さてあかねを連れてどこかに行くかな。感動の瞬間を邪魔しても悪いしあの宝石は二人にとってとても大切なものなのだろう。俺は新しい状態異常を見なかった事にしておこうと思うよ。


 結局ローラが最初入って来た時にいっていたあれとかまたとかが始まるのだろうけど、俺がいたらそんな事出来ないだろうしな。うんうん、百合のなかに男が入るとか殺されても文句が言えないからね。


 別の意味で目も当てられないわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る