第119話 素材がなければ

「こんちゃー」


「……どうした、元気ないな」


「おっちゃんに謝らなきゃいけないことがあるんだ。おっちゃんの盾、壊れちまった」


「ごめんなさい!」


 謝りに来ている手前いつも通りに入るのもためらわれ、普通に挨拶しながら入ったら心配された。やっぱりおっちゃんもあのやりとり好きだったんだね。それとまじでごめんね。


「なんだと? 見せてみろ」


「はい……」


 収納から盾を取り出しゴンズに預けると思いっきりへこんでいる盾に驚いた顔をしていた。それから傷口をじっくり眺め、まさに職人の顔をしていた。


 ゴンズが何も言わないので俺たちは執行待ちの囚人よろしくひたすらに立ち続けていた。ひっくりかえしたり傷の状態を触ってたしかめたりしていると満足したのかゴンズが声をかける。


「この感じだと鉄製の剣の攻撃を受けたっぽいが……そんなんでこんなになるほど柔な盾じゃあねぇ。何と戦ったんだ?」


 流石職人。どんな攻撃を受けたか、どんな素材で傷つけられたかを見抜いていた。というかわかったからこそあんなにじっくり見ていたんだろうな。あの盾何で出来てるかわからんし。


 クロエとイリスの装備と同じく鑑定がはじかれるタイプの装備だ。たぶん純正の鑑定スキルじゃないから特殊な能力が付与されている感じのものは鑑定できなくなっているんだろう。


 この辺もスキルを鍛えておきたいと思った理由だった。


「ゴンズさんは勇者が召喚された話知っていますか? 王都で召喚されたんですけど……」


「昔からそういうことしてるらしいな。詳しくは知らんが……まさかやりあったのか?」


「はい……それで一撃受けたら耐えられず壊してしまいました……ごめんなさい」


 フラフィーは事の顛末をゴンズに告げ再び頭を下げる。大事にすると言って受けとったこと、本当に扱いやすく大切にしていたことで、壊れた盾を見てずっと泣きそうな顔をしていた。


 しかし泣いてしまえば自分たちの命を守ってくれた盾に失礼だと思ったのか、涙をこぼすことは決してしなかった。なんだかんだいいつつもこの子も強い子だよ。


「そうか……いや、ありがとよ。こいつもここで朽ちるよりもちゃんと使ってもらえて本望だったろう。手入れもしっかりされていたし大事に使ってもらっていたこともわかる。謝る必要はねぇよ」


 ゴンズはフラフィーのあたまに手を置き礼を言う。盾を愛する者同士通じ合うものがあったのだろう、フラフィーは我慢していた涙を流しながら盾とゴンズにお礼を言い続けていた。


「おっちゃん、ありがとな」


「もういいって。そんなことよりその勇者とやらはどうしたんだ? まともにやりあって倒せるような感じじゃないだろこれ」


「ああ。まともにやりあわず何とかした。フラフィーと盾が無かったら俺はたぶん死んでたけどおかげで生きてるし、色々あって勇者も無効化できたよ」


 洗脳の話を少しぼかしながらゴンズに説明を付け足す。結構やばかったことと今はちゃんと見張っているからまた暴走するようなことは無いとも伝える。


「そうなのか。しかしこの盾以上の性能を持つ盾は今は無いぞ」


「今は?」


「ああ。素材があれば作れるとは思うが……ダンジョン探索は今食料んとこ以外は禁止されてるだろ?」


 やっぱそうなるよな。あんな性能の盾はそんな簡単に作れるわけもないし、素材がなければ作れるものも作れない。


 ミスリルのダンジョンを攻略してドロップが良い方向に変わっただろうからそこで探索さえできればいいんだけど。


 ……あそこ採掘でミスリルとれたな? となると新しいのも採掘で取れるんじゃないか? 忍び込むか。


「なあおっちゃん。ミスリルのダンジョン新しくなったら何が落ちるんだ?」


「うまくいけばだが、アダマンタイトかオリハルコンあたりが落ちるかもな。ドロップが変わらないなんてこともあるが……」


「ちょっと忍び込んでくるわ」


「キミヒトさん?」


「おいキミヒトまじで言ってるのか? ギルドの命令無視したら厳罰ものだぞ」


 フラフィーもゴンズもだいぶ驚いているようだがぶっちゃけ今しかないと思う。魔物が登場しない以上鉱石採掘はやり放題だし数日たっているから深い階層にもちゃんと鉱石が生えているだろう。


 そして装備をしなくて全力で走れば数日で最下層まで突っ走れるはずだ。そこで採取だけしてダッシュして戻る。あかねも連れて行けば帰りはテレポート出来るからお手軽ということもある。


 スタンピードで人が出払い魔物がいない今だからこそできる電撃戦だ。やるしかないだろ。


「厳罰? 関係ないな。仲間の命と装備の方が重要だ。俺に常識が通用すると思うなよ」


「キミヒトさん……それはなんだか……」


「親身になるのは良い事だろうけどよ、ばれないようにやれよ。お尋ね者になったらこっちとしても擁護できねえからな」


 ゴンズは止めるでもなく応援してくれる。盾を作ることに関して情熱を燃やしているためか、人族以外に対して本気の俺を見てか、どっちにしろ通報しないだけでありがたい話である。


 ロンドと潜ったときは何日もかかった行程だが、魔物を倒さず全力で突っ走るなら二日もかからず潜りきれるだろう。やってやるぜ。

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