第11話 装備ってあった方がいいよな

「ああ申し遅れた。私の名前はムバシェ、そこにいるベノプウ様の護衛兼教育係を務めている」


 身長の高いイケメンが頭を下げてこちらに挨拶をしてくる。さっきからこの人頭下げてばっかりだなと思わなくもないが、やたらと丁寧な物腰に好感が持てる。


「あ、ああそうなの」


「キミヒト、この人たち変」


 うん俺もそう思う。立場が変というよりも護衛が護衛対象をテキトウに見てるのがなによりおかしい。いやこの街平和だからこそなのかもしれないけど。


「ベノプウ様の言い方は誤解を招きやすいんだ。だからこそ私がフォローできるようにいつも側にいるんだがいつのまにかはぐれてしまってね。それで、少し話を聞いてもらうことはできるだろうか?」


 このムバシェという男悪い人物には見えない。タイミング的にリーベンの貴族の追手か何かかと思ったが違う気がする。あまりにも温厚だからそんな感じするけど信用し過ぎるっていうのも良くない。


「その前に確認したいことがあるんだけどいいか?」


「もちろんいいとも。こちらはお願いする立場だからね」


 何とも下手に出られすぎて面くらうな。よく見ると悪役貴族って感じよりも本当の貴族っぽい感じする。ベノプウ連れてこなければそれで万事解決するんじゃないのかこれ。


 最初からムバシェだけだったらもうちょっと警戒しなかったと思うぞたぶん。いやしかし逆に最初から好意的過ぎる人物っていうのも怪しい……のか? 考えるのめんどくさいな。


「お前たちの目的はなんなんだ。奴隷が欲しいのか?」


 最初に奴隷をよこせと言ってきたということは何かしらの目的があるんだろう。非人間的な見た目から非人道的な行いをしそうと思っていたが違うのだろうか。


「私たちの目的は奴隷の解放さ。解放といっても野放しじゃなくてちゃんと生活のフォローもする理念ある活動だよ」


「まじで?」


 こういう異世界って労働力として奴隷を使ってる、というか召喚の時にそんな説明をされたし事実だろう。それを開放して何か得があるんだろうか。


「まじまじ。興味を持ってもらえたかな?」


 俺はクロエとイリスを見るがどうやら判断は俺に任せるらしい。それなら好き勝手やって流れに身を任させてもらおうかな。正直戦っても負ける気はしないし最悪逃げても構わないし。


「わかった、話を聞くのは良いんだが俺たちは街を出なきゃいけない。急いではいないが長居もしたくないんだ。準備も済ませてないからそれが終わってからという条件ならいいぞ」


 ベノプウ黙りっぱなしだけどいいのかこれ。ムバシェが交渉したほうが手っ取り早いのはわかるけど護衛が全部やってるからマジでムバシェだけでよかったやん。


「街をでる……ああやっぱりリーベンの奴隷商がやたらと騒いでいた奴隷は君たちの事か」


 その一言でクロエとイリスは戦闘態勢に入るがムバシェからは全く敵意を感じず、手を挙げてさらにアピールしてくる。


「違う違う。私たちは奴隷解放が目的だと言っただろう? 奴隷に関する情報は逐一手に入れるようにしているし特にリーベンのところには注意を払っているよ。だからその話を知っていただけだ」


 二人が警戒を解かないがムバシェは慌てず話を続ける。


「盗賊に襲われたって話だろ? リーベンの奴らは奴隷を作るために平気で盗賊を派遣したりするからね、こっちとしてもとても困っているのさ。盗賊団なんていっぱいあるし、それを一から取り締まったとしても人数が足りないし。冒険者に頼むのにもお金がかかりすぎるからね」


 かなりの情報通のようだが、あまりにも詳しすぎないか? ギルドマスターが昨日手に入れた情報だ。こんな速攻で出回る情報……こいつらが提供元なんじゃないだろうか。いやそれにしてはスタンスがよくわからないな。


「幸い後ろのお嬢ちゃんたちは奴隷になる寸前だったってところだろう? うちが雇ってる情報屋の情報と姿が一致してるからね。助けられたって情報はあったけど君はそんなに強そうには見えないけどね。あそこの団長名前持ちの盗賊だろう? いやまあそれは良いんだ。それで話は聞いてくれるならこれに魔力を通して呼んでくれ」


 ムバシェはそう言ってポケットから小さな宝石を取り出す。赤色と青色の宝石だ。


「これは通信機って呼ばれててね、遠く離れた所でも連絡が取れるようになっているのさ。異世界から来た勇者たちが作り上げた物でものすごい便利な代物だよ。……あれ、あんまり驚かないね」


「いや驚いてるよ。これをどうしたらいんだ?」


 異世界から来た連中は俺達以外にも昔からいたんだろう。王国の対応から見てもそうだったし、周知の事実だろうけど便利なもの作ってるんだな。俺もこのくらい便利なスキル持ってればもうちょっとさぼれたかもしれない。


 そんなことを考えているうちにムバシェは説明をしていく。片方の宝石に魔力を通せばもう片方に連絡が行くようになっているらしい。一対一のスマホみたいなものなんだろう。子ども用の携帯電話ってところだろうか。


「じゃあ後で連絡よろしく。奴隷についてとか勇者についても教えてほしかったら教えるから。明日の朝で時間はいいかな?」


「ああ、問題ない」


「そうだ最後に。後ろのお嬢ちゃんたちは奴隷登録前だから、奴隷扱いにはならないよ。ベノプウ様が奴隷って言っていたのは言葉のあやってやつだね。だから別に顔を隠したりする必要はないって事は伝えておくね」


 ムバシェはそう言って踵を返していくが、俺には疑問があった。ムバシェ実は最初から見てたんじゃね? ベノプウのセリフは合流する前じゃなかっただろうか。やっぱりあいつは主人で遊んでる気がしてならないな。


 なにはともあれ今後の方針を決めておかないとな。俺一人の問題というわけでもないし、任せてくれてるみたいだけど二人にも聞いてみよう。


「二人はどう思う? あいつら信用出来ると思うか?」


 なんとなく信用出来そうなところもあるけど胡散臭さがぬぐえない。情報が早すぎるやつってなんか胡散臭さが前面に押し出されてくるんだよな。だから俺は二人に聞いてみる事にした。


「私はよくわからない。キミヒトとお姉ちゃんに任せる」


 イリスは無表情でぼーっと話を聞いていたが、基本的には俺達に任せるようだ。完全な戦闘要員として期待しておこう。


「私は……うん、キミヒトに任せるわ。なんだかんだであなたなら何とかしそうだし」


「そうか、信用してくれるならありがたい。じゃあケイブロットに行くための買い出しに行くか」


 ギルドでもらった資金を使って二人にもしっかりした装備を買ってやらないとな。馬車も出ているみたいだけど冒険者なら歩いて真っすぐ行ったほうが早いという話だった。


 ケイブロットはこの街を出た所にある森の反対側だ。馬車で行くと五日くらいかかる道のりになるが、徒歩で真っすぐ行けば三日程度で着くという話だった。その森は初心者用の森であり、あまり強い魔物は出ないため冒険者ならその道で野宿の練習や特訓に最適らしい。


 それなら丁度いいという想いもあり俺はその道を通る事にした。決してロリ達とキャンプしたいっていう下心だけで選んだわけじゃあないことをここに明記しておく。


 何があってもいい様に五日分の食料とテントなどの雑貨を買う。それなりにかさばって邪魔になるので一度宿屋に戻って荷物を置いてくることにした。


「そう言えば二人って素手だけど装備ってあった方が良いよな?」


 盗賊のアジトから逃げ出す時に何も持ってこなかったことを考えると、装備は初めからなかったか、攫われた時に無くしたかのどっちかだろう。それでもあんな強力な魔法を使えるんだから、もしかしたらいらない可能性もある。


「私もイリスも一応魔法職よ。欲しいのは杖か、魔法が付与されてる武器かしら」


「おねえちゃんの言う通り。でも馴染まない装備使うくらいならいらない」


 そう言えば召喚された勇者たちの中で魔法使いの人たちは装備を凄く選んでたな。初心者が使うような杖を何本も壊していた気がする。そう考えると生半可な装備は逆に邪魔になるのか。


「じゃあ鍛冶屋に行ってみて良いのがあったら買うってことにするか。なければ申し訳ないけど防具だけになる」


「おっけー」


「わかった」


 仲の良い鍛冶屋がいるのでそこに顔を出す。剣や防具だけでなく杖やら護身用のナイフなどなんでも置いてある優れものの店なのでこの街でも重宝されているお店だった。


「おっちゃん、この美少女たちに似合う装備ないか?」


「あん? ああ、キミヒトじゃねえか。うちのかみさんがお礼言ってたぞ」


 俺は街の散歩がてら困ってそうな人に声をかけて恩を売る行為を日常的に行っていたのでそれなりに顔は広くなっていた。というかそれ以外にやる事がなかったとも言えるので過剰に感謝されるとそれはそれで困る。


「いやぁ、過度なランクもらっても一人だし冒険者の人たちに悪いから俺は街の手伝いしてる方が楽しいよ。だからあんまり気にしないでって言っといて」


「ははは、他の勇者もお前みたいなら評判悪くならないのにな。それでそっちのお嬢ちゃんたちの装備だったか。武器か? 防具か? っておい、エルフじゃねえか」


 フードを取って店の中に入ってきた二人を見ておっちゃんは凄く驚いたように声を出した。

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