けもフレ2 第9話IFストーリー「さようなら」

注意


このお話はけもフレ2第9話で発覚した

ダブスフィの依頼主がイエイヌではなく

ケイヅキだったら、というIFストーリーです


なお、このお話に登場するケイヅキは

うちの小説の主人公、大天継月とは全くの別人です


作中、ケイヅキがキュルルを呼ぶときの表記が

「ーー」となりますが彼だけが知ってるキュルルの本当の名前みたいな物だと思ってください

テレビ本編では明かされなかった為、こういう表現です。ご了承ください


ではでは本編どうぞ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


PPPのライブが無事に終わり、安心してたのも束の間、キュルルはというとダブルスフィアにより捕獲されレッカー車に乗っている木製の

檻に入れられ、彼女ら曰くキュルルを探し連れてくるように依頼した者の所へと搬送されていた。

その途中何とか檻を壊し、必死の抵抗を見せるが……


「どうする?」


「やれやれ……仕方ありません。

依頼主をここに連れてくるしかないですねぇ」




「覚悟してください。あの方を怒らせると、

怖いですからねぇ……」


「……」


カラカルとサーバルがキュルルを捜索、

キュルルが腕のラッキービースト(コア)に

トラクターを呼び寄せれるか試みている頃


とある集落にいる依頼主である一人の青年の元へとやって来たセンちゃん


「……あの子の所へ?」


「はい、こちらの事情を話しても言う通りに

してくれず、動こうともしてくれないので。

依頼主である貴方をお連れして、あの子に会わせるしかない……と」


「あの子、昔から少し我が儘というか……

そういう一面があったからな……。

……わかった、行くよ」


森の中をセンちゃんの案内で

キュルルのいる場所へと向かう青年。


ここまで長かった……。

-ー とあの日生き別れ、

それからというもの一人あの場所で過ごす

毎日……。

でも、ある日かばんという子と出会って、

もしかしたらあの子も……

そう思って探して。でも、見つからなくて……。

そんな時にダブルスフィアの二人と出会って、

ーー から貰った絵を見せて……

依頼を出して


やっと……やっと ーー と……また、

二人で一緒に暮らせるんだ。



一方その頃


「Zzz……」


「どう?うまくいきそう?」


センちゃんから監視を任されたのにも関わらず昼寝をしているアルマー。

アルマーが寝ていると確認したキュルルは

腕のラッキービースト(コア)に問いかける。


「此処マデ呼ビ寄セル事ハ、出来ソウダヨ」


「良かったぁ……」


「んっ?」


「んっ!?」


キュルルが安心したのも束の間、二人の会話が聞こえてしまったのか、アルマーが目を覚まし

キュルルに近寄る。


「今……誰かと話してなかったぁ?」


「い、いやぁ…別に」


ア「気のせいかぁ……。ふあぁ……」


自分の思い違いだとわかり緊張が解け、欠伸をするアルマーにキュルルが問いかける。


「聞いていい?」


「なにぃ?」


「ボクを探してる依頼主って、どんな子なの?」


「言ったでしょぉ……怒らせると怖いよぉ。頭が冴えるし、なにより力が強いんだぁ……」


依頼主の特徴を聞き、キュルルは息を呑む。


「ささっ、こちらです」


「あっ、来たみたいだよ」


センちゃんと依頼主が到着したと思ったアルマーがセンちゃんの声のした方へと向くと

キュルルもそちらを向き、二人とも立ち上がった。


「あの子が、貴方の探していた、人です!」


三人の視線の先には優しい笑みを浮かべ、

センちゃんが連れてきた青年の姿があった

青年はキュルルに視線を向け、昔を思いだしたような表情を少し浮かべる。

そして先ほどの笑みに戻すとキュルルに近づくが、キュルルはアルマーから聞いた情報から少し警戒しているのか、一歩下がってしまう。


「やっと会えたね……。ーー」


「き、キミは……?」


「忘れちゃったのか?ーー、俺だよ、

ケイヅキだ」


「ケイ……ヅキ?」


青年 ー ケイヅキ ー はツカツカとキュルルに

歩み寄り、キュルルを抱擁する。


「えっ…?」


「この温もり……それにこの感じ。

懐かしいな。君とまた合間見えるこの日を、

どれだけ待待ち望んだことか……」



その様子を見ていたダブルスフィア


「なんか良いことしたみたいだね!」


「ですね」



「く、苦しい……」


「あぁ、ごめんごめん……。あまりに嬉しすぎて、柄にもなく力み過ぎてしまったよ」


キュルルがケイヅキの顔をじっと見つめる。


「…?どうかした?」


「いや……聞いていたのと何か違うなぁって」


「えっ?」


「ああ……いや、その……」


「とにかく、私たちの仕事は終了ですかね」


「うん、ありがとう。あっ、はいこれ。

依頼受けてくれたお礼」


ケイヅキは懐からジャパリスティックの箱を

2つ取り出しセンちゃんとアルマーに渡す


「ぅわぁいっ!ジャパリスティック!」


「じゃっ、これで」


「うん、ありがとう。じゃあね」


ケイヅキからジャパリスティックを受け取り

ダブルスフィアはその場を立ち去る。


「あっ、悪いけど……ボクも行かなきゃ」


「えっ?行くって……どこへ?」


「実はボク、仲間と一緒におうちを探しているところだったんだ」


「えっ?」


「えっと、おうちっていうのは」


「そんなこと、説明されなくても分かるよ」


「えっ?」


「というより、ちょうどその場所にーーを連れていくところだったし。……いや、ーーと

帰るところだったって言う方が正しいかな」


「知ってるの?」


「知ってるも何も、一緒に暮らしてたじゃないか」


「えっ?」


「さっ、行こっか。こっちだよ」


「こっちって……。あっ、ちょっと!」


ケイヅキはキュルルの背中を押し、

先ほどまでいた集落へと向かった


「ここだよ」


「えっ?」


「さっ、遠慮しないで。中にどうぞ」


ケイヅキは集落にある建物の一つ、ケイヅキが暮らしている所のドアを開け、キュルルを案内する。


「ここが、おうち?」


「そっ。前までは、もっと多くヒトが暮らしてたんだけどね。……でも」


「ん?」


「ある日を境に、みんなここを離れちゃってね、ーーとは、それよりちょっと前に生き別れたんだけど。それからは俺一人でずっとここに居たんだ。いつかみんなとも……ーーともまた会える。そう……信じ続けてね。

そして今日、漸く再会できた。これまで生きてきて、今日ほど嬉しいことはないよ」


ケイヅキは窓の外を見て涙混じりに笑みを浮かべた。


「あの……残念だけど、ボクはここに来たの初めてだと思う」


「……えっ?」

 

だが、キュルルの一言に驚き、キュルルの方へ振り返る。


「それにボクは、遠くから来たわけじゃない。気がついたら、このパークの建物の中にいて、そこから来たんだよ」


「もしかして……記憶がないのか?」


「うん、何も覚えてないんだ……。

ケイヅキさんのことも……。がっかりさせて、ごめん」


「そっ……か。……いや、でもいいんだ。

君が、ーーである事実は変わらないから」


「えっ?」


「思い出なんて、またこれから作っていけばいいし。ーーがここに戻ってきてくれた、

それだけで俺は嬉しいんだから」


「でも……」


キュルルが何か言い出そうとするとタイミング悪くキュルルのお腹が鳴る。


「……あっ…///」


「……あっ、お腹空いてる?」


「そういえば、朝食べてから走ったりペパプのお手伝いとかしたんだった……」


「ちょうど、お昼時だしね。待ってて、今何か作るから」


       のの

    のの    のの

  のの        のの

    のの    のの

       のの



「さっ、どうぞ」


ケイヅキが作ったのはご飯に味噌汁、ハンバーグと唐揚げ、付け合わせに野菜が少々というものだった。


「簡単なもので、申し訳ないけど……」


「ううん!ありがとう!いっただきまーす!」


キュルルは唐揚げをフォークで刺してかぶり付く。


「美味しい!」


「よかった……、口にあったみたいで」


ケイヅキも箸を使って食べ始める

それを不思議そうに見つめるキュルル


「それは?」


キュルルはケイヅキが使っている自分とは違う道具について訪ねた


「これか?」


「うん」


「これはお箸って言ってな。こいつを使いこなせばもっと食事が楽しくなるよ」


「へぇ~…」


お箸をじっと見つめるキュルル


「使ってみたい?」


「うん!」


そういえばーーはまだお箸を使ったことがなかったっけ


「待ってて、いま持ってくるから」


ケイヅキは席を外しキュルルの分の箸を持ってくる


「はい、ーーの分ね」


「ありがとう」


ケイヅキは箸をキュルルに渡し、食事を再開

キュルルは箸を受けとるとケイヅキの見よう見まねで唐揚げを摘まんでみるがうまくつかめず皿の上に落としてしまう


「うまくいかない……」


「ちょっと、コツがいるんだよね」


ケイヅキはその様子を見て一度食べてる箸を止めて立ち上がりキュルルの側へ


「箸を使う時は、一本を鉛筆やペンを持つ感じで、もう一本をその下に通して中指と薬指で

挟んで持つんだ。鉛筆を持ったことはある?」


「うん、みんなに絵を描いてたから」


キュルルはケイヅキの言った通り箸の一本を鉛筆を持つ時のように持ち、もう一本をその下から通し中指と薬指で挟む


「よし、そうしたら鉛筆みたいに持った方だけを動かすんだ。下のもう一本はそのままね」


「う、うん……」


キュルルは上の一本を数回動かしてみる


「ちょっと難しい……かも」


「慣れるのに時間が掛かるから。

よし、そしたらその感覚のまま唐揚げを摘まんでみて」


「うん……」


キュルルがもう一度唐揚げを摘まんで持ち上げると今度は安定していた


「やった!できた!」


「よくできました」


ケイヅキはそれを見届けると自分の席へ戻る

キュルルはその間に唐揚げを食べ咀嚼し、飲み込む


「出来なかったことが出来るってこんなに嬉しいことなんだね」


「箸が使えればこれ一つで食事に関する大抵のことは出来るからな。他には」


ケイヅキはハンバーグの一部に箸を入れて分割する


「こんな風に自分の食べやすい大きさに切り分けたりな」


「へぇ……!」


その後もそれぞれのペースで食べ進める


「そういえば、ーー とここまで一緒に居てくれた仲間って……誰?」


「サーバルと、カラカルだよ!

ある施設で目が覚めたばかりでおうちに帰りた困ってたら助けてくれたんだ!

ボクの大事な仲間だよ」


ケ「サーバルと……カラカル……か」


「……?どうかしたの?」


「なんでもない」


サーバルとカラカル……ーーと、また。

もしかして三人は……引かれ合う運命にあったのか……?


「ボクも聞いて良い?」


「なんだい?」


「ここにはケイヅキとボク以外のヒトも住んでたんだよね?」


「といっても、ここはパークで活動するための拠点、仮のおうちなんだけどね」


ケイヅキは唐揚げにかぶりつく


「えっ?じゃぁ、本当のおうちは?」


「このパークの外だよ。ーーが帰ってきたから、本当は明日にでも出たいけど、それは

サーバルとカラカルに一言お礼言ってからかな。

一応はここまでーーを守ってくれた訳だし」


🕐️


「ごちそうさま!」


「お粗末さま。じゃあ、食器片付けてくるね」


ケイヅキの食器の片付けも終わり

二人が一服している


「お腹いっぱ~い……」


「いっぱい食べたもんね」


ケイヅキは2つのグローブと一個のボールを

とりだす


「一服したら、食後の運動がてらキャッチボールでもして遊ぼっか」


「うん!」


🕐️


「いっくよ~っ!」


「いつでもどうぞ!」


「それっ!」


キュルルの投げた球は真っ直ぐ飛びケイヅキの正面へ


「ほいっと」


ケイヅキはそれを軽々とキャッチする


「すごいすごい!ちょっと強く投げすぎちゃったのに!」


ケイヅキはボールをグローブから取り出し軽く上に上げたりして弄ぶ


「これくらいならまだ軽い軽い。

でも結構良い肩してる……よっ」


そう言いながらケイヅキはキュルルも取りやすいくらいの力で投げ返し、

キュルルはこれをキャッチ


「じゃあ、今度はもうちょっと強く投げてもいい?」


「どーぞ?」


キュ「いっくよ~……それっ!」


今度は大きく弧を描きケイヅキの後ろの方へ


「あっ、ごめん!」


「大丈夫大丈夫!」


ケイヅキはこれに追い付き跳躍しながら受け止め、先ほどの位置へ戻る


「ほいっと」


そうしてキュルルとケイヅキがキャッチボールをしている間にダブルスフィアとカラカル、

サーバルが集落のゲートに到着した。

暫くキャッチボールに夢中になっていたが

投げ返そうとしてたケイヅキが入り口にいる

四人に気づく。


「あれっ?」


「どうしたの?」


「あそこにいるのって……」


「えっ?」


入り口を指差すケイヅキ

キュルルもそれに釣られ入り口を見る


「あれって、さっきの二人……と」


「あっ!サーバル!カラカル!」


キュルルは入り口に仲間であるサーバルとカラカルを見つけ、嬉しそうな声で走っていく。

ケイヅキはゆっくりと歩いてその後を追う


「キュルルちゃーん!」


「会えてよかったぁ~!」


「急に居なくなって寂しかったよぉ~」


「ボクも~」


再会を喜ぶ二人だったがここでカラカルがそれに異を唱える


「ふんっ、どうかしら」


「えっ?」


「なんか新しい友達が出来たみたいじゃない」


「あぁ~、紹介するよ。こちらケイヅキさん」


ちょうどケイヅキがキュルルの近くにたどり着く


「こんにちは。ふたりのことは、大方ーーから聞いてるよ」


「ーーって?」


「この子のことだよ」


ケイヅキは手のひらでキュルルを指す


「なにいってんの?この子はキュルルよ」


「キュルルって?」


「あっ、サーバルに付けてもらったんだ」


「あだ名を付けられる程なんだ。本当に仲が良いね」


「へぇ~、二人とももう仲良しなんだね」


「まぁ、この子とはそこそこの付き合いだったからね。一応、この子のお兄さんみたいなもんだし」


「ふーん……」


その様子に何処か不満げなカラカル


「どうしたの?カラカル?」


「べっつに……」


「そうだ。どうせならみんなも一緒に遊ばないかい?ほら、折角こうやって集まった訳だしさ」


「「えっ?」」


「そーだよ!二人も入りなよ!」


「そ・う・と・決・ま・れ・ば♪俺、二人の分も探して持ってくるよ」


ケイヅキはサーバルとカラカルの分のグローブも持ってくるために一度家屋の中へ


「ほらっ、カラカルも!」


「……あたしはいい」


「そう言わずに」


「いいったらいいの!!」


「……?」


カラカルは自分の心境とは真逆のその雰囲気に怒りも限界だったのか痺れを切らした



「……何かあったのかな」


ちょうどケイヅキもカラカルとサーバルの分のグローブを見つけて戻ってきたところだった



カ「…ったく、此方の気も知らないで、

何が『遊ぼう』よ。どんだけ心配したかわかってんのっ!?」


「ごめん……ボクはただ」


「急にいなくなったと思ったら、こんなとこで遊んでたなんて!」



その様子を見ていたケイヅキ


『急にいなくなった』……?そういえば、

センちゃんの案内でーーの元に行った時に、

カラカルとサーバルの姿は無かったな……。

はぐれたのかな……?



「まーまー落ち着いて」


「そうですよ。折角会えたのに」


「ボクだって居なくなるつもりなんかなかったよ!嫌がってんのに、この子達が無理やり……」


「「えっ!?」」


キュルルはセンちゃんとアルマーを指差し

カラカルに異を唱え、

サーバルとカラカルも二人に視線を向ける



……嫌がってるのを無理やり?

だから二人が事情を説明してもーーは頑なに 言うことを聞こうととしなかったわけだ。

……なるほど、漸く全てが繋がったよ



「いや、だって私達は仕事で……ねぇ?」


「そ、そうだよぉ!」


「この子たちは関係ないでしょ!」


「関係ないってさぁ~」


それに対してカラカルは二人を指差し今回の件とは関係ないと主張する


「ないことないでしょぉ!」


「やっぱあるそうです……」


「あるといえばあるけどさぁ」


「話がややこしくなるから、二人ともちょっと黙っててくれるかな……?」


「「はぃ…」」


ケイヅキは事実を知ったのと二人が茶々を入れてくることへ苛立ちを含んだ低い声でダブルスフィアの二人を注意した


「でも良かったじゃん、おうちにも帰れたし。これで漸くお別れできるしっ!」


「ムッ…」


「はぁ~あっ、大変だったわっ。誰かさんのせいで!」


「……あぁそう、悪かったね。もう迷惑掛けないから。……さようならっ!」


キュルルはカラカルが嫌々自分に付き合ってたと思い、ショックと嫌悪感からぶっきらぼうな返答をし、家屋へと走って戻ってしまう


「ーー!」


「キュルルちゃん!」


ケイヅキはキュルルが中に入っていくのを見送ると四人の元へ


「……ごめんね。カラカル、サーバル」


「どうしてあんたが謝るのよ」


「実は……、ーーをここに連れて来てもらうように二人に頼んだのは、俺なんだ。

今回の喧嘩の原因は、俺にもあるから……。

……まさか、二人があの子の気持ちを無視して無理やり連れてくるとは思ってもなかったけどね」


「い、いやぁ……」


「それは……その……」


「……まぁいいか。あの子は、無事に本来の居場所にも戻ってこれた訳だし」


「……っ!」


「ありがとうサーバル、それにカラカルも。

あの子をここまで守ってくれて。

後は、俺に任せて。ほとぼりが冷めるまで、

ちょっと距離を置こう。俺からあの子を説得してみるからさ」


「……」


「それじゃ、また」


ケイヅキは四人に別れを告げると家屋へと戻っていく




ケイヅキが中に入るとキュルルが椅子に座って

項垂れていた


「……カラカルの…バカ。

ほんとは……僕のこと……」


ーー……


ケイヅキはキュルルの前に座る


「ーー」


「ケイヅキさん。」


「あの子もさっきはちょっと意地張っちゃっただけだよ。きっと、本当はーーのことを想ってるんじゃないかな」


「でも……」


「……少しお茶にしよっか」


ケイヅキはお湯を沸かしに台所へ



「どうぞ」


二人分のお茶を淹れたケイヅキはひとつをキュルルの方へ置き、もうひとつを自分の席へ置くと、席に座る


「こういうときは、暖かいお茶を飲んで落ち着くといいよ」


「……ありがとう」


キュルルは差し出されたお茶を一口飲む


「……おいしい」


「……ーーも、ほんとはもう分かってるんじゃない?あのカラカルって子がほんとはそんな子じゃないって」


「えっ?」


ケイヅキは自分の分のお茶を一口飲むと言葉を続ける


「わかるんだ、なんとなくさ……。カラカルの気持ち。最後はあんな突っぱねた言い方をしちゃったけど、それまでのあの子の言葉は、

本気でーーのことを心配してたよ。言い方は、ちょっとキツかったけどね」


うつ向くキュルルの顔が、ティーカップの水面に映る


「……ほんとは明日、ここを出て本当のおうちに向かうつもりだったけど、それはーーと

カラカルが仲直りしてからかな。

もう二度と来ることがないわけじゃないし」


「えっ?でも……ボクもあんなこと言っちゃったし……」


ケイヅキは一口飲むとティーカップを置き、

キュルルに尋ねる


「なら、あの子と喧嘩したままさよならするか、仲直りして気持ちよくまた会おうねって言って別れるか。君は、どちらを選ぶ?」


「ボクは……」


キュルルは暫く悩んだ


「カラカルと……仲直り、したい」


「……うん。じゃあ、カラカルに謝りにいこっか。俺もついていくよ」


「えっ?今から?」


「こういうのは早め早めがいいからね。

時間が経てば経つほど言いにくくなるし」


「うん……」


「じゃあさっそく」


『ゥオアアアアアアアアアアアアーーッ!!』


ケイヅキが席を立ったと同時にビーストの咆哮が木霊し、二人に緊張が走る


っ!!このタイミングでっ!


「今のって!」


「……あぁ、ちょっと出会すと厄介な奴でさ。

嘗てこのパークにいた人たちは、やつを

『ビースト』と呼んで警戒してたみたいなんだ」


「知ってる!この辺にも現れるの!?」


「あいつは、パークの中なら何処でも現れるよ。そして、誰彼構わず視界に入った者へ襲いかかるんだ。それがフレンズだろうと、ヒトだろうと、セルリアンだろうと、見境い無く……ね」


ケイヅキは再び席へ座る


「けど、あいつは何故かは分からないがヒトの建てた建物にまでは侵入してこない。

だからここに居れば、少なくとも安全だ」


ケイヅキはティーカップを持ち、お茶を一口


「とにかく、二人の所へ向かうのは、やつがこの辺りから……」


離れからにしよう、とケイヅキがいいかけると同時にキュルルが席を立つ


「……ーー?」


「サーバルとカラカルに、ビーストが近くに居ることを伝えてくる!」


「なっ!?無茶言うな!危険すぎる!!」


「だから知らせなきゃ!まだ、そう遠くには行ってない筈……!」


キュルルはケイヅキの制止を振り切りドアを開け外へと走っていってしまう


「おい、ーー !……ほんっとあの子ってばっ!」


ケイヅキもキュルルの後を追って急いで外へ


夕暮れ時の森のなかを歩き二人を探すキュルル


「サーバル~!カラカル~!」



一方キュルルを追ったものの途中で見失ってしまったケイヅキ


「あの子……一体何処に」


『サーバル~!カラカル~!』


「……!あっちか!」


ケイヅキはキュルルの声のした方へと駆け出す



「もうこの辺に居ないのかな…」


キュルルの近くの草むらが揺れる


「……!」


「見つけた!」


「なんだ、ケイヅキさんか……」


「ーー、一旦戻ろう。この辺りは危険だ。

まだ、奴が近くにいるかもしれない」


「でも……」


「っ!今あの二人の事は一旦忘れろ!」


ケイヅキはキュルルの両肩を掴み激を飛ばす


「っ……」


「あの二人が心配なのは分かる。でも、それでもし君が命を落としたら、元も子もないんだぞ!」


「……」


『キケン!キケン!』


キュルルが黙りこくってしまったその時、キュルルの腕についているラッキービースト(コア)から危険を知らせるアラートが鳴る


「……多分、ビーストが近付いてきてるんだ。……時間がない、すぐにここを」


「ゥアアアアアっ…!」


草むらを掻き分けてビーストが二人の前に現れる


「目を、付けられちゃったか……」


ケイヅキがキュルルを庇うようにキュルルの前に出る


「……下がってて」


「えっ……」


「大丈夫、こんな時のために、ビーストやセルリアンと戦える力を手にいれてたからね!」


ケイヅキは何かを取り出し腰に巻く……

動作をしただけでそこには何もなかった


「……?」


「……?」


そして何かを取り出し可動させる動作をするも当然そこには何もない


「……ん?んん……?……えぇーっ!!」


ケイヅキは虚空を掴むような感覚から漸く

手元に本来あるはずの物が無いことに気づく


「ドライバーとフレンズの成分が入った注射器型アイテムフレンズインジェクターが無いと変身出来ないじゃんっ!!」


「えぇっ!?」


「しまった……!ーーを追いかけることで頭が一杯で、アイテムまだあの家の中だ!」


そう、この男。焦っていた余りにおうちに保管していたアイテムを持ってくることを忘れていたのである!!


「や、やっぱり逃げよう!」


ケ「……大丈夫。例え変身出来なくても、

君一人、守ってみせるさ。その為に、あの日から特訓を重ねて来たんだから……!」


ケイヅキは直ぐに肉弾戦に切り替るため左半身を引き戦闘体制に


「ウウウーー…っ」


ビーストも不敵な笑みを浮かべながら両手を前にだし戦闘体制に



この子は俺が守る……この身を賭けても!


「だあああああああっ!!」


ケイヅキがビースト目掛けて駆け出す


「はぁっ!」


ケイヅキが右ストレートで先制


「ガアッ!」


「ぐあっ!」


だがひらりとかわされ逆に爪で攻撃を受けてしまう


「……っ!こんのぉっ!」


今度はジャブでの攻撃を図る


「グアウッ!」


「ぐっ…!」


しかしこれもあっさりかわされ逆に爪での攻撃を受け地面を転がってしまう


「ケイヅキさん!」


「大丈夫……。大丈夫……だから……っ!」


キュルルの声を聞きながらも

ケイヅキはふらつきながら立ち上がる


……この子を守りながらは、流石に無理か。

……ならっ!


「はあああああああっ!!」


ケイヅキは再び駆け出す


「ガアッ!」


ビーストは待っていたかのように爪で攻撃を仕掛ける


「ふっ!はぁっ!」


がこれをケイヅキは回避しビーストと取っ組み合い、直後キュルルの方に顔だけ向ける


「ーー!ここは俺に任せて、お前はカラカルとサーバルの所に向かえ!」


ケイヅキはビーストのその力に圧倒されかけながらもキュルルにそう言い放つ


「えっ……でも」


「俺のことはいい!だから、早く二人と合流して安全な場所へ向かってくれ!」


「っ……」


「いいからはやく!」


ここでビーストがケイヅキの拘束を解き


「グアアッ!」


「しまっ……!」


「グアウッ!ガアッ!」


「がっ!ぐあああっ!」


ケイヅキはその猛攻を受け吹っ飛ばされ地面を転がる


(ビ「グアウウウウウウウウ…ッ」)


「がはっ……!!くぅっ……!」


「もういいよケイヅキさん!」


ケ「ダメなんだ……っ、戦わ……なくっちゃ…!」


ケイヅキは膝を付きながらも起き


「君を……守るために……っ。

もう二度と……君を失わないためにも!!」


「ゥアアアアアアアアアアアアアッ!!」


「俺に構うな!逃げろ!!」


「ケイヅキさんっ!」


キュルルを庇い我が身を盾にするケイヅキへ

ビーストの爪が迫る


「くっ……!」


ケイヅキ、絶体絶命のピンチかと思われたその時!


「ぅおっ!!」


何者かの手がケイヅキの服の襟を掴み引っ張った


「ゥアゥッ!ガアアゥッ!!」


それによりすんでのところでビーストの攻撃が虚空を切り、ケイヅキは事なきを得た。

ケイヅキを間一髪で助けたその人物は……


「サーバル!カラカル!」


「……君たち!」


「ったく、あんたって思ったより頼りないわね!」


「……っ」


「そんなんじゃ、キュルルを任せるわけには……いかないわっ!!」


怪我したケイヅキに代わりビーストに突っ込み

素早い動きでビーストを撹乱していく


「速い……!」


しかしカラカルも合間を縫って抜かれ、キュルル達への侵攻を許してしまう


「……!させない!」


ケイヅキも負けじとキュルルを守るためにビーストに突っ込み、取っ組み合いを狙う


「ガアッ!」


「ぐはっ!」


しかし体力も限界だったためあっさりかわされ

爪で逆に攻撃されてしまい近くに転がりうつ伏

せになる


「ゥガァアアアアアアアアアッ!!」


「……!ーー!サーバル!」


「ぅみゃあっ!」


キュルルへと向かうビースト

キュルルの前に躍り出て威嚇のポーズを取る

サーバル

刹那、サーバルの目が光り



「……!あれはっ!」


顔を上げていたケイヅキもその変化に気づく


あれは……まさかっ!



暫くビーストとサーバル、両者のにらみ合いが続き……


「ゥゥッ!!」


ビーストが身を引いたことにより事態は収集した


「ハァ……。良かったぁ……」


「ハァ…ハァ…ハァ…」


「……サーバル?」


サーバルの変化に心配になったキュルルが声を掛ける


「……うん!大丈夫!」


サーバルも体勢を戻し大丈夫と伝えるのだった


「起きられる……?」


「うん……。ありがとう、助けてくれて…。


ケイヅキはカラカルに支えながらも何とか立ち上がる


「……あの……さ」


「…?どうかした…?」


「やっぱり……、俺は一人であそこに残るよ」


「……え?」


キュルルとサーバルの方を見つめるケイヅキ


(「サーバル格好よかったよぉ!」


「でしょでしょぉっ!」


「ビーストがサーバルを見て逃げてったもん!」


「えっへぇん!」)

 

「ごめんね、不本意とはいえ、あの子を二人から引き離すような真似をしようとして。

大切な人を失う辛さや悲しさは……俺自身、分かっていた筈なのに。

あの子にとって、本当の幸せが何なのか……

それを考えようともしてなかった。

俺と、家族とまた過ごす方があの子にとって

幸せなんだって、そう信じて疑わなくて……」



もう、ーーの居場所は……

俺の側なんかじゃない。

ーーの……いや、


『キュルル』の


本当の居場所は……きっと


ケイヅキは何かを決心し、キュルルとサーバルに歩み寄る



「もっと誉めていいよぉっ?あはははっ!!」


「えへへへっ」


「キュルル」


「ん?」


ケイヅキの声にサーバルとキュルルが話を止め、ケイヅキの方へ振り向く


「君に会えて良かった。そしてありがとう、

俺に、束の間の懐かしい時間を過ごさせてくれて」


「ケイヅキさん……」


「キュルルは、この先も二人と旅を

続けて、君の本当の居場所を見つけるんだ。

……サーバル」


「ぅみゃ?」


「それにカラカル」


「ん?」


「キュルルのこと、任せたよ。

これからも、この子を見守ってあげて」


ケイヅキはキュルルの今後を二人に託す


「もっちろん!」


「しょうがないわね。あんたじゃ頼りなさそうだし、任されてあげる!」


「ありがとう。俺も……もう過去に囚われずに、未来に進んでみるよ。俺自身の、未来へ……ね」


「ケイヅキさん……」


「……でもさ。まだ、踏ん切りが付きそうにないんだ。だから最後に……

君の口から言ってくれないかな?




『さようなら』……って」


数秒の静寂が辺りを包む


「……さようなら、ケイヅキさん」


目に涙が浮かぶがケイヅキはそれを指で拭う


「ありがとう、キュルルちゃん。

……それじゃ」


ケイヅキはキュルルに礼を言うと三人に別れを告げ、背を向けて集落のあった方へと走り出す











日も落ちて夜になったころ


集落の近くまで来たケイヅキは歩みを一度止め、来た方向へと振り向く


「これで良かったんだ……。……これで」




「「ホントウにそれでヨかったのか?」」




「……!」


ケイヅキが声のした方向へ向くとカンザシフウチョウとカタカケフウチョウが立って……いや

ほんの僅かに浮いていた


「カンザシフウチョウ。それにカタカケフウチョウ……」


「おまえは、あのコとミライをススむんじゃなかったのか……?」


「……そうだね」


「ならナゼ、あのフタリにタクした?」


「……彼女の居場所は、もうここじゃないから……かな」


「なら……ドコだというのだ……?」


「……さぁね。でも多分……あの子自身が

既に見つけてるんじゃないかな?なんか……

そんな気がする」


「ズイブンとアイマイなコタえだな」


カタ「おまえはそんなアイマイなコタえであのコとのミライをアキラめたのか?」


「確かに俺は未来で彼女と一緒にいたいと思ってた。でも……だからってそれは、彼女を

縛り付けていい理由にはならないからさ。

あの子達を見て、俺は自分の過ちに気付いた。

あの子は自分の未来を進もうとしている。

なら、俺も俺自身の未来に向かって、前に進むべきだと思ってさ」


「まったく……ヒトというのはジツにジブンカッテなイキモノだな…」


「もしかしたら、あの子はナンともオモってナいかもしれんぞ?おまえがそんなにボロボロになってもジブンをマモろうとタタカったこともな」


「そうかもね……。でも、それでもあの子を守れたなら……俺はそれでいい」


「「……」」


「……ん?」


「どうした?」


ケイヅキの視線の先には一冊のスケッチブックがあった

ケイヅキはそれを拾い中を見るとペパプの書いてある絵を見つけ


「これって……キュルルの」


絵のタッチからそれがキュルルのものであることに気づく


「どうするのだ?」


「今すぐ戻って、あの子に届けるか?」


「いや……」


ケイヅキは二人にスケッチブックを差し出す


「君たちが届けてくれないかな?」


「「……はっ?」」


「ナゼ……ワレワレが?」


「だってさ……この後もあの子のこと、

見届けるつもりなんでしょ?

さっきのビーストとの戦いも見てたの、分かってるんだよ?」


「「うっ……」」


「タシかに…」


「それは……そうだが」


戸惑ってるカタカケフウチョウの胸元にスケッチブックを押し付けるケイヅキ


「なら、決まりだね」


「「なっ!」」


「それにほら」


ケイヅキは大手を広げボロボロな自分を見せる


「俺、こんなんだから急いで手当てしなきゃだし」


「お、おい!」


「じゃ、二人もキュルルのこと、見届けてね。それじゃっ」


ケイヅキは二人にスケッチブックのことを任せると足早に集落へと戻っていった


「まったく…ヒトというのは」


「ホントウにミガッテでジブンカッテだな」


「……しかたない……な?」


「まぁ、そろそろあのコにセッショクしようとオモっていたところだ。そのコウジツがデキたとカンガえるとしよう」


カンザシフウチョウとカタカケフウチョウは

ふわりと浮かび森へと




ランプを使い手当てをするケイヅキ


「いってて……流石にビースト相手に無茶しすぎたかな……。……あ」


ケイヅキはまだお茶が入ってるティーカップに気付きそれを一口飲む


「冷た……」


その後、キュルルがリョコウバトと何処かへ向かうのを見届けたケイヅキ


「行っちゃったか……」


でも……これでいいんだ。

これでやっと……

俺は俺の未来に踏み出せるから……

思い出は、思い出のままそっと胸にしまいこんでおこう

未来へ進む為の、糧として……


「そういえばあのスケッチブック……」


ケイヅキは動物の耳のついた金庫に近づきそれを開け、中から一枚の絵を取り出した


「1ページだけ不自然破れ方してたな……。

やっぱり、この絵が……」


その絵はジャパリパークのゲートを背に

中心に手を繋いでいるカラカルとキュルル、

そしてサーバル。

その両端の右端にはミライとパーク職員と思われる人物。

そして左端にはナナとケイヅキが描かており

下にピンク色の文字で


「パークのおにいさんおねえさん」


と書かれたものだった



この後、ケイヅキがかばんからの知らせで他の

フレンズと共にジャパリホテルへ向かい、

自分の持っていたキュルルとの思い出の絵を

キュルルに届けたり、

フレンズ型セルリアン大量発生事件の解決や

ビーストからフレンズになったアムールトラを

崩壊するホテルから救出するのに一役買うことになるのだがそれはまた別のお話

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