第21話 奇才の老兵、エルビス・ブルース

 日はすっかり落ち、すでに空には月が見えている。風が吹くと冷気を感じ、それはすなわち、街の炎があらかた鎮火した事を肌身に染みさせた。

 ハーディに近づいたキリシマは、頭から血を流し倒れるガストロを見つけチラリとその遺体を見た。


「あいつに勝ったのか?」

「チッ。どうやらてめぇもくたばってないらしい」


 ハイタッチをしようとしたキリシマをハーディは無視した。

 キリシマは不満そうな顔をしているが、ハーディは構わず足を進める。


「そんなことしてる場合じゃねえ。行くぞ!」

「おう!」


 ハーディに言われ、コンツェルトの北門に向けて二人は走り出した。

 頭を失ったビズキットファミリーは統率力を失い、次々と街から逃走し、残るものは偵察隊に殲滅され、すでに街から暴徒はいなくなっていた。

 その偵察隊は今現在残す消火活動に勤しんでいる。コンツェルトにはオンセンがあった為、消火には困らず、あらかた鎮火し終えていた。

 だが炭になった建物までは戻らない。


   〇


 北門に着いた二人は救護隊の元へと向かい、目にとまった馬車へと駆けつける。

 どうやら馬車の乗り員は、こちらの様子に気付いたようだった。


「ハーディ様! よくご無事で!」


 メロウはハーディに抱き着いた。

 その声を聞いてキャリーとララも馬車から降りてくる。


「ハーディ、痛い?」


 ララはハーディのケガを心配した。

 キャリーは全く構われないキリシマの心配をすることにした。


「キリシマさん! あの、落ち込まないでください!」


 それを聞いたキリシマは傷をえぐられるような気分だった。腹いせにメロウの胸をもにゅっと揉む。


「ちょっ! なにをなさるんですの!」


 メロウはキリシマにビンタした。パァーンと痛快な音が響き渡るが、キリシマは満足気な顔をしている。

 メロウがハーディから離れると、すかさずララがハーディに抱き着いた。


「助けて来たら揉んでいい約束だっただろ?」


 メロウが冗談で言ったセリフをキリシマは聞き逃さなかったのだ。

 キャリー達の手前、メロウはなにも言い返すことができなかった。

 救護隊が大勢寄ってきて、キリシマに話しかける。


「キリシマ様、よくぞご無事で。中の方はどうでしたか?」

「問題ないぜ。大体片付いた。まあ復旧には時間はかかるだろうが、コンツェルトは職人の街だ。この街の住民達なら大丈夫さ」


 キリシマのセリフを聞くと救護隊は胸を撫で下ろした。


「ビズキットを追い返すなんて、やはり只物じゃないな……」

「ああ、アラベスクみたいにコンツェルトもおしまいかと思ったぜ」

「この人が前官長のハーディ様か……」


 そんな会話が聞こえる中でキリシマは尋ねた。


「それより、エルビスは見つかったのか?」

「はい、別動隊の一人が帰って来まして。エルビス様の居場所は突き止めてあります」


 彼らの話から察するに、コンツェルトの惨劇を聞いてなお、エルビスはその場から動かなかったそうだった。それほど大事な何かが、あるいは用事があったのか。


「じゃあエルビスと一緒に、そこにはシシーもいるのか?」

「シシー様は我々がカンツォーネからコンツェルトに移動したときから単独行動をなさっています。我々にはわかりかねますが、エルビス様なら居場所を知っているかと」


 キリシマはかまをかけ、それは思わぬ収穫を呼んだ。どうやらシシーの名を解放軍も知っているようだった。他の全員もそれを盗み聞きしていた。


「キャリーちゃんどうする?」

「あの、私は一人でも行きます!」

「そういうと思ったぜ、ハーディ!」


 キリシマはハーディに了承をとろうとしたが、ハーディはしがみつくララを指さす。どちらにせよ、ハーディにはエルビスに会う用事があったのだ。旅の目的はエルビス探しに決まる。

 メロウには確認を取る必要は無いだろう。ハーディが行くと言えば必ず後を追う女だ。キリシマはそう思っていたが、メロウから出てきた言葉は耳を疑うものだった。


「私は、ここに残りますわ」

「メロウちゃん。本気で言ってんのか? それ?」

「ええ、私、仕事が残っているんですの。残念ですがここまでですわ」


 仕入屋のメロウが馬車の荷物を捌ききれば、レクイエムに残る用事なんかもうないだろうと、ハーディはそう考えたが、それより先にメロウは近づき、ハーディの顔を両手で掴むと、そっと口づけをした。

 メロウは口を離すと寂しそうな目で呆気にとられるハーディを見つめる。


「ハーディ様、どうかお達者で」


 メロウのその目を見てハーディは何も言えなかった。


「カァーッ! あっついねえ!」


 キリシマがはやし立てると、ハーディは我に返り周りを見渡す。

 キャリーは目を抑え、その隙間から一連の行為を見て真っ赤になり、ララは口をあんぐりと開けてショックを受けていた。

 ハーディはいつもなら照れて周りに当たるが、メロウの顔を見て頭にポンと手を置いた。


「大げさな奴だぜ」


 ハーディのセリフを聞いてメロウはニコッと笑った。

 一行はエルビスの居場所を別動隊の男に地図に記してもらった。と言っても、別動隊の男が、行く途中途中で目印をつけたというので、問題が無ければ道に迷うことも無いだろう。

 笑顔で手を振るメロウを置いて、四人はエルビスの元へと歩き出した。


   〇


「ララちゃん、大丈夫?」


 きつい山道を歩く最中、キャリーはララを心配していた。

 岩が転がり、足場が不安定な上、星は出ているものの、辺りは薄暗い。油断していると転びそうになり、ただ転ぶと言っても尖った岩肌が見え、やはり慣れないハイキングに、ララは明らかに疲れていた。


「だ、大丈夫……」


 強がるララの首根っこをひょいと持ち上げると、そのままハーディはララを背中に引っ付かせた。


「うわ! ……ハーディ、ありがと」


 ララはハーディにぎゅーっと抱き着く。

 それを見てにやけるキリシマがいた。


「なんだよてめぇ。気持ちわりい」

「いや、あんたもなんか変わったなーって思ってよ」


 冷やかすキリシマを無視しハーディは歩き続けた。確かに、以前のハーディならこんなこと絶対にしないだろう。

 ハーディは星空を見上げ、昔の妻を思い浮かべた。


「あの、もし私が母に会えたら、二人はホントに喧嘩するんですか?」


 ハーディは眉一つ動かさず歩きを止めない。

 対照的にキリシマはニヤリと笑い答えた。


「そんなの当たり前だろ」


 キャリーには仲が良さそうに見える二人が戦う意味がさっぱりわからない。


「でもこいつビズキットにぼっこぼこにされてたからなあ。実力の底が知れちまったかな」


 これには流石にハーディもピクリときて言い返した。


「あ? てめぇだってガストロにはぼっこぼこにされてたじゃねえかよ」

「いやいや、俺あいつに本気の居合出してねーし」

「ハッ、大体修行だかなんだか知らねーが利き腕封じて意味あんのかよ。どうせ負けそうになると左手で握るんだろうが」

「うるせえ! 絶体絶命で持ち替えたほうがカッコが――」

 キリシマはそこまで言うと突然黙った。

「あの? どうし――」

「シッ」


 ハーディが喋ろうとしたキャリーを黙らせる。二人は人の気配を感じていたのである。


「ここで待ってろ」


 そう言うと刀を構え、キリシマが一人先に歩き出した。キリシマが岩陰を覗くと数人の男がいた。


「よお、何してんだ? こんなところで」

「なんだ! 誰だ貴様!」

「部外者はこの先は通さねえぞ」

「待て! この人はキリシマさんだ!」

「俺を知ってるなら話は早え、おまえら解放軍か?」


 男達は答えない。

 緊張しながらも敵意を表す男達に、キリシマはキャリーから地図を受け取りそれを見せた。


「別動隊に書いてもらってな、俺達これからエルビスのとこへ行くんだが」

「なあんだそうだったんですか」

「エルビス様はこの先にいらっしゃいます」

「急ですのでお気をつけてください」


 男達の態度は一変し、一行は難なくそこを通った。

 しばらく歩くとさらに暗くなり、足場が見えなくなってきた。傾斜がきつくなり、ひたすら下り続ける。

 やっと傾斜が終わり、足場がやっと水平になったところには木が立ち並び、その根元で男は一人で座り込んでいた。


「よう。ひさしぶりだな、小僧」


 しゃがれた男の懐かしい声に、ハーディは笑いながら返事をする。こうして話すと、昔に戻った様な気もしてくる。


「ああ、じじい。まだ生きてやがったか」

「あの、あなたがエルビスさんですか?」

「ああ。いかにも、俺がエルビスだ」


 その男はハーディ同様、黒いコートに身を包み、要注意人物と言われるだけあって、それなりの風貌を醸し出してはいたが、キリシマが想像していたより、あまりにも弱弱しく、小さく見えた。とても他の二人、ビズキットやガストロと肩を並べるとは思えない。それがキリシマが抱いたその男の第一印象だった。


「あの、私キャリーって言います。この子はララちゃんでこっちはキリシマさんです」

「それはご丁寧にお嬢さん。まず俺はお前らに何をするべきだろう。謝るべきか、説明するべきか、取引するべきか」


 エルビスがいきなり訳のわからない事を言ったので、じれったくなったキリシマは


「おっさん、そんなこと言いからシシーの居場所を教えてくれよ」と、早速本題を切り出した。


 エルビスは遠くに見える小さな洞窟を指さす。


「時間ならたっぷりとある。急かすなよ坊主。シシーならあの先にいる」

「ありがとうございます! あの、私行ってきます!」

「だから急ぐなって。待ちな。お嬢さん」


 母に会えるとの一心ではやるキャリーをエルビスは身動き一つせず止めた。


「まだ……。今はあの中に入る事はできない。もう少し待て」

「あの、どういうことですか?」

「あの洞窟を進めばレクイエムの塀に辿り着く。だが、まるで塀に洞窟をつけたように行き止まりになる。洞窟の終点が塀だと言った方がわかりやすいか」


 ハーディはそこまで聞き、幌馬車でのメロウとの話を思い出した。つまりあそこが――


「この辺は洞窟が多くてな。人工的なものだが中は全部似たような作りになってる。だが、あそこだけは本物だ。つまり……外へと繋がっている」


 メロウはあそこからレクイエムに入ってきたのだろうとハーディは確信した。


「レクイエムに裏口があったのか!?」


 キリシマは驚きを隠せない。今迄、そんな話は一度だって、ポールにだって聞いたことは無かったからだ。


「あの、つまり母は今、外の世界にいるんですか!?」


 エルビスは静かにうなずいた。


「ああ。なるほどなあ。お嬢さんがシシーの娘か。話を聞いていたより大分大きいな。それになんだ……。随分とたくましくさえも見える」


 キャリーはレクイエムに入ってから、幾多の困難を潜り抜けてきた。入所当時のキャリーとは、まるで顔つきが変わっている事だろう。


「それよりじじい、一体ここで何をしている? コンツェルトは大変だったんだぜ?」

「その件はすまなかったな。だが俺は動くわけにもいかなかった。俺は、……外から迎えが来るのを待っている」


 ハーディは予想はしていたものの、やはり直に耳にすると、それでも現実感が薄れていった。

 エルビスは外の世界に出たがっていた。その為に解放軍を設立し、今やそれが夢物語の類ではないのだと、予感させられた。


「迎えが来るまでまだ少し時間がある。それまでに、謝罪と説明と、そして取引をしたいのだが、少し聞いてもらえるかな」


 誰も、何も答えなかった。それが承諾の合図だとエルビスは悟り、静かに語り始めた。


「俺はどうしても外に出たかった。だから、今日という日の為に、俺は準備し続けた。そして今さっき、俺の計画は実った。お前らがビズキットをおびき寄せたおかげでな」


 それを聞いてキリシマの目つきが変わる。


「あんたが、ビズキットをコンツェルトに寄越したってのか!?」

「……ああ、そうだ」


 淡々と答えたエルビスの声にキリシマは叫ぶ。


「ふざけんな! 関係ない人間が何人死んだと思っていやがる!?」

「すまなかったと思ってはいる。それが俺の謝罪すべき事柄だ。俺の計画の為大勢の死者を出し、お前らをも危険な目に合わせた」

「ひとまず落ち着け、キリシマ」


 止めるハーディの声もキリシマは聞かない。


「落ち着けるか! 何が計画だ!」

「キリシマさん!」


 キャリーはキリシマの腕にしがみついた。

 キリシマはまだ息を荒げている。


「じじい。続きを話せ」

「五年前、俺は病気を患った。自分の死期が迫っていると知った俺は、外に出るために解放軍を設立した」


 エルビスが解放軍を作ることは造作もなかった。元刑殺官官長であったエルビスは、戦闘技術こそ優れてはいたものの、ガストロやビズキットのような特異な特殊能力は無かった。エルビスが持っていたのは才能と戦略だけ。服役中の犯罪者でいながら。レクイエムに三人いる要注意人物の一人と言われながら。エルビスは受刑者、管理者、そして刑殺官にまでも慕われるほどのマインドコントロールのプロフェッショナルだった。さらに、ありとあらゆる戦略を頭に叩き込んだ軍師でもある。官長として職務を完璧にこなした彼だったが、それでも犯罪者からの人望も厚かった。

 このままではレクイエム内で巨大な力を手にし、エルビスは脅威となるだろうと予感したある男が、エルビスをレクイエムに落とし、そして戻れないよう刑期を抹消したのである。それでもレクイエム内で力をつけ続けるエルビスに政府は刺客を送った。お前以上の猛者がいる。そう告げ、送りこまれたのがビズキットだった。病気で衰弱していくエルビスが真向に当たって勝てるわけがない。エルビスはカンツォーネ滞在時、人心操作をして、はったりだけでビズキットをやり過ごしていた。


「俺は解放軍を使いながら計画を進め、その計画は成就直前だった。あとはビズキットをおびき寄せられるだけの人物が来るのを待てばよかった。その時丁度、シシーから小僧の事を聞かされた」


 ハーディは指をさされうつむいた。


「シシーは小僧の事を知っていた。おまえも元官長なのだから、長年暮らしてれば知らない方がおかしい。レクイエム入口で偶然見かけたとシシーに聞かされ、俺は計画を実行することにした。俺はまずコンツェルトに移動した。裏口があるのはここだけだからだ。他の街では絶対に成功しない。人から人へと伝わらせ、なるべく自然にビズキットに解放軍がコンツェルトに移動したことを教えてやった。その後、小僧がコンツェルトに向かっていることを知らせるつもりだった。結論から言えばそれは必要なかったがな」


 ハーディは森で多数のビズキットファミリーと交戦したことを思い出す。

 あれの戦争がビズキットまで伝わっていたのだと、キリシマとキャリーも気付く。


「俺と小僧は元刑殺官だ。遅かれ早かれ、必ず手を組むとビズキットは考えるだろう。奴ほどの人間でもそれを恐れた」


 キリシマはビズキットがガストロを仲間にしようとした事を思い出す。ビズキットはあれだけの力を持ってしてなお、臆病でいられる。だからこそ王で居続けられたのだ。


「この時点でビズキットがコンツェルトに来る事はほぼ確定した。あとはビズキットがコンツェルトで暴れればそれで俺の計画はおおむね終わりだ」

「あの、なんで暴れる必要があるんですか?」

「お嬢さん、それはあれだ」


 エルビスは洞窟を指した。そこから、ちょうど武器を持った人間が出てきて走り去っていく様子が伺えた。


「あの中には刑殺官見習いが大勢待機している。悔しいが、今の俺では入ったとたんあっさりと殺されるだろう。だからまずはあいつらをコンツェルトに向かわせるため、暴動を起こさせる必要があった」 

「それならじじいが暴れればいい。あんたの解放軍を使えば事はより簡単だったろう?」


 エルビスはうっすらと笑いを浮かべる。


「別にあいつらは人が死んだから出てきたわけじゃない。もちろん街が焼かれたからでもない。世界は犯罪者を隔離したくて。数を減らしたくてレクイエムを作った。その程度の事は寧ろ、向こうからしてみたら計画通りだ。問題は別のところにある。やつらはビズキットが二つ目の街に手を出したから出てきたんだ」


 所詮レクイエムで何人死のうと、死者は世界から必要とされてない犯罪者である。

 それくらいで政府が動くことはなかった。

 レクイエムではビズキット、エルビス、ガストロが対峙し、バランスをとっていた。その内は政府は安心して見ていられる。

 だがバランスが崩れ、誰かが二つ目の街を手に入れたとあっては、三つ目、そして全ての街、受刑者を手に入れる未来が想像してとれる。万が一にもそうなり、暴動が起きれば政府は完全に手が出せなくなる。レクイエム内の秩序が保てなくなる最悪の状況を恐れていたのだ。


「あの、腕途刑にはGPSがあるんですよねえ? ずっとここにいたら怪しまれませんか?」

「腕途刑を生者から外すことは難しいが、中の情報を入れ替えることは可能だ。シシーは俺の情報と、死んだ解放軍の男の情報を入れ替えた。政府はここに死体があると思いこみ、今現在はコンツェルトに俺がいると思っている。だから刑殺官見習いがコンツェルトに向かう。さらにいうと今日はもう遅いから葬儀屋は来ない」


 疑問が残るキリシマが質問する。


「待て、なんでシシーは外に出れて、あんたはここに残ってるんだ?」

「それもこれだ」


 エルビスは腕途刑を指さした。


「シシーは処刑目的でレクイエムに入れられた。だから裁判すらせずにレクイエムに落とされたんだ。当然真っ当な入り方ではなかった。つまり、シシーは腕途刑をしていなかったんだ。そこの娘と同じでな」


 ララの事だった。服役ではなく、政府の都合でレクイエムに落とすと、腕途刑の記録が残り、後々面倒になる。どうせ殺すつもりなら、いっその事腕途刑をつけないほうが都合がつく。


「これをつけたままあそこを通ると警報が鳴る。だから俺は通れなかった。シシーと共に外に出ることが出来なかった。シシーが外に出た方法は――」

「メロウの馬車だな?」


 ハーディが先に答えエルビスは頷いた。

 メロウがコンツェルトでキリシマに手を添えて言った事、それは自分も解放軍の一員であるという情報だった。キリシマはその一言で解放軍がメロウの味方であることを確信した。

 メロウは馬車の積み荷にシシーを紛らせ外へと運んだのだ。腕途刑の検査はしていたが、生体検査までは政府はしていなかった。


「メロウ・セレナーデは管理者の中でも特別な存在だ。あんな性格ではあるが、外の世界では押しも押されぬ大財閥、セレナーデ財閥のご令嬢だからな。政府は万が一があってはいけないと、メロウだけは正面入口ではなくこの裏口から出入りさせていた」


 メロウはハーディに口づけする時には、すでにハーディがエルビスと共にレクイエムを出ることを感づいていた。そして、せめて自分が邪魔にならないようコンツェルトに一人残ったのである。

 ハーディ、キリシマ、キャリー、そしてララでさえその心境を察する。

 全員が黙ったところで、エルビスの話は続く。


「最後の取引だ。俺のカードはお前らをシシーに会わせに外に出してやる事。ベットは、……俺を見逃す事だ」


 コンツェルトの惨劇の黒幕、エルビスの計画は成就寸前であった。

 エルビスが抱いた夢は、解放軍、ビズキットファミリー、そしてコンツェルトの住民を合わせた数多の命の上にしか達成しえないほど、長い道のりだったのである。

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