第34話 You'd be so nice to come home.
それはわたしの執着なのだろう。
あのひとはもういないのだから。
あのひとがなくなってしまって、わたしたち二人の人生を振り返った時、あのひとの何気ない事もこんなに覚えていたなんて。庭にある名前の分からない樹の枝が、色づいた葉を秋風にさわさわと散らすのを、あのひとは毎年ぼーっと見ていた。今年はわたしが一人ぼーっと見ている。冷たい秋の終わりに降ってくる一つ一つの葉っぱのすべてには、何故かあのひとの面影が映っている様に思えた。笑顔だけがわたしのあなたじゃなかった。
ああ、あの表情。顔つき。仕草。あたし覚えてるんだ。あの時の、あの頃の。楽しかったし寂しかったし悲しかったけど、二人だったな、二人だった。満ち足りていたな。
あなたのフォトグラフを前で今Beatlesのレコードをかけているの。聞こえているかな。
あなたの口遊むStrawberry Fields Foreverは歌詞が間違ってたよ。酔っ払うと夜中に弾き語るレノンのStand By Meはヒドくて、わたしの鼓膜の奥を苦しめたけどね。好きだよ。そばにいてほしい。
色んな曲をたくさん聴いた。Jazzも Rockもシューマンも。ねぇ、この部屋でよく聴いたね。
You'd be so nice to come home.
You'd be so nice to come home.
You’d be all that I could desire.
ねぇ、ねぇ。よく聴いて。幽霊でも構わないよ。
何も喋らなくてもいいの。そばにいると思わせていてね。秋の終わりは淋しいから。わたしの瞳が潤んでひかるのを「バカだなぁ」って微笑んでいて。
ねぇ、ねぇ。あなたが紅茶でわたしが珈琲だった。
あなたが作るジャンバラヤ、もう一度食べたい。
あの一匹も釣れない釣り堀にもう一度行きたい。
無くしたエアコンのビスを探してほしい。
そっと、そっと隣で眠っていてほしい。
While the breeze on high sang a lullaby.
今でもそばにいてほしいよ。
でもあなたはわたしを置いていってしまった。
left alone.
Where's the love that's made to fill my heart?
Where's the one from whom I'll never part?
マルもエリックも今夜は寂しすぎるから、あなたのStand By Meが聴きたい。あなたのそばで。
いつでもそばにいてよ。冬のはじめは寂しいのだから。
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