第13話 Love Phantom
ああ、愛しい愛しい新三郎さま。
貴方さまをお慕い申し上げてからもはや二百余年になりました。
貴方さまには何処でお過ごしなさっておられるやら…… 。
わたくしの掛かる想い、貴方さまにお届け申し上げたく存じます。
亡魂の身なれど、面影を頼りに貴方さまをお探し続けて、露は幾人もの殿方を渉り歩きました。されど貴方さまには巡り逢うこと叶わず今生にござります。
現つ世はかくも華やかなれど喧びしく胸の奥を傷めるばかりでございます。
此岸はどの様に交わりおうても交わらぬ、行く末もよんどころない刻と狭間でござりましょう。虚しゅうございます。
せめてひと時、胸の痛みを和らげようと、殿方の慰めにすがる夜を重ねてまいりました。
貴方さまの面差しに焦がれて求めた現つ世の殿方との逢瀬。幾夜も通い幾夜も褥に肌を合わせ、柔き秘め苑を開いては熱きほとばしりをこの身の奥に受けて、快楽に身を反らせて哀しみを忘却しておりました。
ああ、愛しい新三郎さま。
ああ、愛しい新三郎さま。
露は歓びも哀しみも貴方さまとともにありたいと願うております。
わたくしと同衾して、わたくしの内に精を漏らす殿方は、いずれ現つ世を離れ花びらの様に散りまいります。集いし精を御神祇さまに奉りのち、貴方さまをお戻し願いわたくしの執着を成就させたく思うております。
新三郎さまといづれ婚う身には、企みのうちにただただまぐわうても虚しく、双眸は空虚に貴方さまの幻を映えさせて偲んでおります。
現つ世の御仁のそのすべてが虚しゅうございます。そもそも世が末の化城にござります。
ああ、新三郎さま。
お逢いしとうございます。
露は貴方さまの益荒男振りが愛しゅうございます。ああ、新三郎さま、ああ、新三郎さま。露はあなた様に貫かれとうございます。
恋焦がれるこの身を冷ます為に今宵も露は秘めてこの肌を濡らすのでございます。
わたくしを独りになさらないでくださいまし。お一人で彼岸へと回向なさらずに、わたくしをお迎えなさいまし。
また一つ、
今宵も現し魂を幽く世へと……
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