My Love Your Love. 4

 閉店後、唯は店の二階に恵の両親と恵を連れて上がっていった。

 晶達は気になって後をついていこうとしたが、店内の片付けをしなさいと怒られてしまった。

 渋々手分けして片付けに取りかかるも、やっぱり気になる。


「久しぶりの親子の対面ね」

「何か大切な話でもあるんでしょう」


 聖美と知見は冷静な判断をし、皿を棚にしまう。

 その後ろで洗い物をする光は彼女達の話を聞き、胸に不安が過ぎった。

   

「あの子も……辞めちゃうのかな」

「おみっちゃん、今なんて言ったの? 辞めちゃうって言ったの? う、嘘だよね。チーちゃんが辞めるなんてやだよー」


 英美はぐずついた顔を愛の胸に擦り付けるように泣きついた。


「え、英美さん。だ、大丈夫…………………だと思うけど」

「せっかく気が置けない、大切な友達になれたのにやだよー」


 泣きじゃくっている彼女を前に、愛は何も言えなかった。

 言えない変わりに強く抱きしめてあげた。

 晶は適当に机を吹き終えると、音を立てないように階段を上り始めた。

 何を話しているのか、見るなと言われて見たくなる。

 聞くなと言われて聞きたがるのは人の常というものだ。

 そっと、頭だけだし、様子を……。

 と思ったが机や椅子の脚ばかりしか見あたらない。

 もう少し頭を出して視界を広げると、部屋の一番隅のテーブルに恵達を見つけた。



              *



「──本当にうちの恵がお世話になり、ありがとうございます。私達、仕事仕事に明け暮れてこの子の話し相手にも慣れなくて辛い思いさせてきたと思ってたんです」

「そうなんですか」

「申し遅れました。私、恵の父親の竹林七賢といいます。R・U・Rというネット関連の会社でソフトウェアの開発などをしています」

「私は恵の母親の竹林 冀です。七賢と同じ会社で働いてます」


 二人はそっろって唯の前に名刺を差し出した。

 受け取ると、唯は左手の傍に名刺を並べ置いた。


「私は美浜 唯といいまして、『PEACH BROWNIE』でパティシエールをしています」

「あなたがケーキをお作りになってるんですか?」

「うちの直人……夫と一緒に作ってます」


 いつもの覇気のある唯ではなかった。

 相手が自分よりも年上ということを意識しているのかもしれない。



              *



「なに話してるんだろ、唯さんは」

「気になるわね」

「へ? み、みん、ン、ング!」


 晶は隣にいるみんなに驚き、声を上げそうになった。

 愛に口を押さえらもがく晶をよそに、光達は一番奥のテーブルに座る唯の背中を見つめた。


「チクリンのお母さんって綺麗よね」

「本当です。結構若く見えるけどいくつぐらいでしょう」


 聖美、知見は呟き、光を見た。

 光にわかるわけがなく、首を振る。

 そんな三人の隣で英美は必至と見つめていた。



               *



 唯は小さく深呼吸をし、本題へと踏み切った。


「お二人がお見えになったのはどういった御用件でしょう?」

「今日まで恵がお世話になったお礼を言いに来たんです。ありがとうございました。うちのふがいない娘がご迷惑をお掛けいたし、いろいろとお世話になりました」

「いえ、こちらこそ。それだけでしたなら、恵のためにも一緒にいる時間をもう少しお持ちになったらいかがですか。余計なことだと思いますが、家族みんなで過ごす時間を楽しむことが家族の絆、家庭のシアワセっていうと思うのです」

「あなたが今日まで娘と接してきたんです。そうおっしゃる気持ちはわかります。ですがこの子はもう十六です。社会的能力において、一人前とは言えませんけれど、もう立派な大人です」


 七賢は恵を見た。

 冀も娘を見た。

 恵は何も言わず、ずっと俯いている。

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