EVALUATE LADY. 4
「芦田さん、私はいらない人間じゃない」
恵は立ち上がると彼女を見上げて言い返した。
「私はあなたのように手際はよくないかもしれない。知識も情報も持っていないかもしれない。けど、私は誰かを素敵にして上げよう、幸せにさせて上げるという押し売りみたいな考えで仕事をしていない。そんなんで紅茶出されても相手が迷惑に思うだけじゃないの!」
「看板に偽りありとはよく言ったものね。じゃ、ここに来てる人はただの紅茶飲んで、ただのケーキを食べて勝手に素敵になったって思いこんでる場所なの?」
にらみ合う二人。
その時、奥から唯の顔を出す。
「芦田さん、と言ったわね。あなたはさっきの一時間、何を考えて作ってたの? ただ単に恵よりも早く、手際よく作ろうと考えていただけじゃないの? そんなんで人は素敵にはなれないのと違うかしら。もう少しはっきり言うと、あなたは目の前にあるハードルを人よりも早く、誰よりも早く飛び越えてるだけじゃないの。等身大の自分より、大きく自分を見せてるだけじゃないのかな」
唯はそういいながら、二つのティーポットを二人に差し出した。
「これは貴方達が作った紅茶。ストレートティーね。自分の作ったのと恵が作ったの、飲み比べてみなさい」
カップに注がれて差し出された。
未和は躊躇わず一つを口にした。
「少し冷めてるけど美味しいわね」
そしてもう一つの方を飲む。
「……ちょっと渋い」
「渋いだけじゃないわね。冷たいでしょ。あなたは最初にポットを暖めなかったからよ。それに茶葉もね。確かに一人スプン一杯入れればいいけど、大きい茶葉はかさばるから山盛り、小さい茶葉中盛りか小盛り。同じ一杯ではダメなの。OPタイプ、BOPタイプ、BOPEタイプ、ティーバッグ、蒸らす時間は違うわ。そして、あなたは湯を沸かす時に湯だつほど沸かした。そんなお湯を入れられては茶葉がダメになるわ。あなたは確かに手際がいいし、知識もあるかもしれない。でもそれは本に書いてあることの暗記に過ぎない。うちでは飲んでくれる相手に対して時間を惜しまず時間をかけて作るの。美味しい紅茶を飲んで息抜きしてもらえればそれでいい。それを幸せに感じるか、素敵に想うかはその人その人まちまちよ。強要はしてないの」
唯は、恵が作った方をカップに入れて一口飲んだ。
未和はエプロンを脱ぎ、荷物を持って、逃げるように店を出ていった。
「唯さん、ちょっと言い過ぎたんじゃないの?」
亜矢はテーブルを吹きながら声をかける。
そんな亜矢の言葉に鼻で笑い、唯はもう一口飲む。
「こもりがちな人間は頭が固くてね。閉鎖的なくせして、なんでもわかってる気になってるのよ。情報あって経験なし。困ったものね」
笑う唯の顔を見たとき、寂しそうに恵にはみえた。
「唯さん……」
「チクリンは経験いっぱい積んできたね。あなたはもっといろんな事を独占欲的に経験していきなさい。そしてそれを扱うための知識も……」
「わかりました」
よしよし、と恵の頭を撫でて、奥の部屋に入っていった。
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