出逢い… 6
阪急を大宮で降り地上に出て交差点を渡って、京福電鉄の四条大宮の改札を抜ける。
小さな終端駅のプラットホームで列車を待つ間、宏枝は良樹とのやり取りに少しだけ胸をどきどきさせる。
口を開く前には、目線を軽く伏せるんだ……。
何か訊かれると、よく左の上の方に視線を泳がす。
笑うときは、ちょっとはにかむような感じ……。照れてるの?
たまに思い出したように、真っ直ぐな目線をくれるんだよね。
まじめなんだ。
柔らかく笑いかけてくれるけど、うわすべりしたところの見つからない、そういう目元──。
あ、ちょっと美緒に似てるかも……。
それから入線してきたクラシカルな趣の路面電車に乗った。
二人で座席に腰を下ろし、乗り換えの帷子ノ辻まで、宏枝はいろんなコトを話し続ける。
少しでも、何か記憶に残って欲しかったから……。
そんなふうな宏枝のテンポに、笑顔で応えてくれる彼。彼といるこの時間──
「宮崎くんって──、やさしいですよね……」
帷子ノ辻で北野線のホームへと地下道を歩きながら、宏枝は良樹に言ってみた。
「……?」 軽い疑問符の浮かぶ顔をして、それからちょっと照れたような表情の良樹が言う。「あー。……だから言ったろ、乗り掛かった船みたいなもんだって──」
宏枝は小さく首を振ってみせた。
「ああ……」 それで良樹は合点がいったふうに、それから困ったふうな表情になった。「バスの──?」
「あのおばあさん、バスに乗れてよかったです」
彼女自身のことのように嬉しそうにそう言ってしまってから、宏枝は良樹の表情の変化に戸惑う。
「うん──。まあ……」
何とも居心地の悪そうな顔の良樹が、視線を避けるように伏し目勝ちになる。
「ああいうのは……、やさしいってのとは、ちょっと違うと思うんだ」 呟くように良樹は言った。
「……?」
予想外の良樹の反応に、宏枝は戸惑いの表情で見上げた。
そんな彼女の不安げな表情に気付いて、良樹は口を開く。
「あ……、この話はまた今度。……機会があったらするよ」
歯切れの悪さを自覚した顔で、無理に笑ってみせる。「──ごめん……」
宏枝は、戻した視線の先、階段を上がった先のホームに電車が停まっているのを見て、小走りに駆けだした。
──あやまらなくていいのに。
何でだろう。ちょっと寂しく思った。
彼の手を握り、引く……。
一拍遅れて、彼の歩調が速まるのが伝わる。
ホームに上がった宏枝は、片手を引いてトントンとステップを刻み、そのまま勢いをつけて振り返ると、もう片方の手を添えて彼の手をしっかりと引っ張り上げる。
ちょっと戸惑うふうのその彼の顔に、今日一番の笑顔を浮かべて見せる。
いまこの数瞬の間の彼の顔は、きっと忘れない。
それから、照れてしまう前に、手を放して電車のドアに逃げ込んだ。
良樹は、この振り回され感を心地よく感じながら、車内の彼女に追い付いた。
──いったいなんだよ、いきなり……。
視線が合うと、ちょっとの間をおいて、はにかむ彼女が言った。
「今日は、いい思い出だけ、いっぱい作ろう」
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