第61話 王女と最強の騎士の話
ある日、国の王女は一人の青年に恋をした。
白いまつ毛に優しい印象を与える黄緑の瞳、清潔に整えられた白い髪の毛、肌は美しく光り輝いていた。
誰もが見惚れる、美青年。
彼の名前はエッダ=バルド、平民だ。
母は既に向こう側に行ってしまい、父と一緒に暮らしていた。
周りの評判は良く皆に頼りにされていて、性格も優しく、賢明、だけど少し優柔不断の所もあった。
彼の父の仕事は木こり師、木を切って薪にする仕事している。
バルドは忙しい時期になると、父のお仕事をお手伝いをしていた。
その仕事をしている様子と城の高い所から眺めていた。
仕事している時の彼の姿は笑っている。
その笑った姿に心を奪われた。
何時までも見ていたい、その気持ちが優先される。
ああ、愛おしい、美しい、そして狂おしいほどに罪。
その笑顔を自分の物にしたいと、欲が膨れ上がる。
彼女を顔は完全に恋する乙女、そのものだった。
もし、彼と恋仲になれるなら、なりたい・・・と。
しかし、運命は残酷なものだ。
王女として生まれた者は、自分たちの意思で結婚することが出来ず、王たち勝手に結婚相手を決めるのだ。
そして相手は平民、自分は王族。
身分の差が邪魔をする。そして憎い。
そんなある日、一冊の本を見つけた。
それは雹狼の山に伝わる愛の物語。
身分差に悩まされる貴族と平民との愛の物語だった。
内容は至って単純だった。
雹狼山にある、ある鉱石を手に入れて、山の王に捧げる事で願いを叶えるという物語だ。
それは鉱石の名前は【氷愛石】、主人公の貴族の女は最愛の男の為に探しに行く物語だ。
道中、苦難と悲劇が待ち受けるが、それを乗り越えて、女は氷愛石を手に入れた。
そして、山の王に捧げ、願いが叶えられて、二人は幸せに暮らしました。ありきたりな話だった。
王女は思った。
もしかして、氷愛石を手に入れたら・・・。
もし、物語のように願いを叶えられるとしたら?。
そう思った時には既に足を動かしていた、王女の部屋から隠し通路を使って、外に出る。
目の前には、禁忌の雪山【雹狼山】が見えた。
王女は兵士たちの目を盗んで、山に踏み入れる。
見上げれば、何か見える。
頂上には黒い雲が渦巻いていて、山の上に【山】が乗っていたのだ。
きっと、あそこに氷愛石がある。
あるかどうかも分からない物を信じ登った。
顔とまつ毛に霜が、風の音が狼の鳴き声のようにすさまじく、一面の白景色が襲う。
繰り返し、何度も探し、城に戻っては隠れて探し続けた。
ある日の事、祠を見つける。
祠の中に入るとそこには、台座があった。
台座の上には不思議に冷気を纏った水色の宝石がはめ込まれていた。
そして、見てて暖かくなる。
王女は本で書いてあった、氷愛石と同じ特徴なのを気づく。
本当にあった、伝説は本当だったんだと。
心が躍り、台座にはめ込まれていた、氷愛石を抜き取り外に出る。
手に取った時、冷たいのに暖かいという矛盾した物を感じた。
矛盾しているのに、心地が良い、おかしなことだ。
本の通りに伝説であれば・・・次は頂上を目指した。
本来は頂上に続く門が閉まってる筈のものが、開いていた。
ここからは神域、緊張が迸る。
神域に入ると更に吹雪が強くなる。
上に行けば行くほど、遠吠えが大きくなっていく。
だけど、王女は止まらなかった。
願い・・・一つの願いを叶える為に、冷たくなっていく一方の足を踏みしめて登る。
何時間経っただろうか、どれくらい歩いただろうか、意識が朦朧していると影が見えてくる。
その先にあったのは・・・。
"山"だ。
山は氷の結晶で身に守るように覆われた。
その"山"は彼女を見つめ、話しかける。
「ここは我、"神"の領域だ」
その声はに大気を震わせる程の圧が掛かる。
しかし王女はそれを気にすることもせず、神を名乗る者に話しかけた。
「神よ、聞いてください。私はこの残酷の運命を変えたい、抗い続けるこの運命を変えたいだ」
氷愛石を見えるように掲げると、"山"に同調するように雪のように白く輝く。
同時に王女は強い吹雪で深く被っていたフードが脱げる。
"山"は王女の顔を見る。
そこにはいたのは、この白景色に似合わない、紅い宝石のような瞳に、高貴な雰囲気を漂わせるような濃い紫の髪、その一つ一つのパーツを輝かせるような白い肌は、"山"でも見惚れてしまう程の絶世の美女だった。
その姿を見て、先ほど威厳のある声が優しくなる。
「おお、麗しき美女よ、願いはなんだ」
"山"は王女に願いを言えと言う。
その声は何処か下心があるようにも思えた。
しかし、王女は紅い眼は氷のように冷たく、"山"に興味はなく、自分のは願いを言う。
「私は最愛の人と結ばれたいのだ。貴族と平民というだけで、結ばれない、その悲しい現実なんとかしたいのだ」
その願いは実に我がままだった、でも我がままでも良いと伝えると、山は黙り込む。
"山"は麗しき美女の願いを叶える代わりに条件を言う。
「ならば、死後、私に魂を譲り私の一部となれ、それなら力を貸そう」
それは自分の魂との条件だった。
死後・・・つまり、魂は開放されずに山の一部となれという事。
王女は彼と結ばれるならと思い、その条件を受け入れた。
「では、誓約成立だ・・・麗しき美女よ、汝に力を与えよう」
そう言って"山"の眼がホオズキのように赤く光り出す。
その瞬間、自分の心臓が鷲掴みされる感覚に陥る。
捕まれた状態で、尖ったもので刻まれ感じが、身体中に激痛が走る。
その激痛を和らげようとして、大声で叫ぶ、叫び声が次第に遠吠えになっていく。
吹雪も同調するように鳴く。
数分立ったところで、痛みはピタリと無くなると同時に身体の奥底から力が漲ってくる。
そして、"山"は言う。
「さあ、その力を使って・・・自分の願いを叶えよ」
山の声が優しく甘く囁かれ、王女は・・・。
堕ちた。
─────【オ・カマ宿】
「皆さん、大丈夫でしょうか・・・」
バルドは窓の外を見つめ、黒杉達の帰りを待っていた。
外は何だか騒がしい、何かが起きたんじゃないかと心配する。
しばらくして、カーテンを閉める。
「父さん・・・これからどう過ごしたらいいのでしょうか」
胸にぶら下げた、ロケットペンダントを開いて見つめる。
そこにあったのは、父がバルドを肩車している写真だった。
その写真を見ていると、視界が揺らいでくる。
「まだ、父さんと一緒に過ごしたかったよ・・・」
一人呟きながら、腕の服の布で目を擦った。
その時、ドアがノックされる。
きっと、クロスギさんたちが帰ってきたんだと思い、ドアの方に向かい開ける。
しかし、そこにいたのは、黒杉ではなく・・・高貴を感じさせる紫のドレスを身に纏った、スカラ女王だった。
「スカラ女王・・・!?」
「やっと・・・君に会えた」
そう言って、妖しく目が光る。
バルドの意識はそこで無くなる。
─────【スノーガーデン・街中】
「ヨウイチ・・・これ」
「こりゃあ、ひどいな」
「フム・・・思ってた以上に深刻だな」
ニルヴァフ王子に助けられ、案内されるがままに城の外に出ると、そこには無残な光景が広がっていた。
町の中が積もっていた、雪が所々に血が染み込み鮮血に染まっていた。
そして、身体の部位だと思われる肉片が食いちぎられたように散らばっていた。
悲鳴は聞こえず、人の気配はなく辺りはシーンと不気味に静かになっていた。
「アイリス、人の気配はするか?」
「・・・ううん」
そう言って、アイリスは悲しそうな顔で横に首を振る
【魔力感知】と魔眼を使っても周りには人がいないようだ。
たった、数時間の間この一帯は化け物によって食い尽くされたようだ。
そんな、ニルヴァフ王子は隣で静かに笑う。
「たしかに、人はやられてしまったが、全員がやられたわけじゃないぞ。オレの連れてきた騎士団がひなさせてくれている」
「でも、流石にあの化け物相手だと・・・」
「案ずるな、"あのぐらい"ならオレの精鋭部隊『獅雄騎士団』には問題ないさ」
ニルヴァフは自信満々に親指を立てる。
黒杉たちでも苦戦していた、敵なのに問題ないと言い切った。
「さて、そろそろ向かいに来ると思うんだが・・・っお?来たな」
「あれは・・・」
ニルヴァフは上を見上げると、何か空から飛んでくる。
そのまま、こちらに向かって勢いよく、ドスンッ!と音が鳴りと地面が少し揺れ、一人の人物が現る
「ニルヴァフ王子、向かいに来ました」
「ニルヴァフの旦那!向かいに来たよー!」
「こら、ナナイ!王子に失礼だろう、ちゃんと敬語を使いなさい」
「えー・・・」
白い毛並みに黒い模様、顔は虎、しかし、二足歩行で立っていた。
身体は2mぐらいあって、筋肉がかなり発達している。
左目には縦に真っすぐ一本の傷跡がついていて、パット見て武人だと分かる。
それは初めて見る獣人だった。
そして、その肩からひょっこりと少女が頭をだす。
ピンクの短髪で所何処にくせ毛があり、クリっとした丸い目、見た目が大体8歳ぐらいで、そのぐらい幼さを感じさせた。
頭には三角帽子、黒いローブを纏っていた。
「こらこら、喧嘩するな。まあ、何時もの事だからいいんだけどよ」
「ニルヴァフ王子申し訳ございません。ナナイが失礼いたしました」
そう言って、白い虎の男は一礼して謝る。
しかし、少女は知らんぷりをして、一向に謝らず、再び男に怒られていた。
ニルヴァフ王子はこっちを向いて、二人の自己紹介を始める。
「紹介しよう、獅雄騎士団の団長のビャクヤとナナイくんだ」
「お初にお目にかかります。ニルヴァフ王子に紹介された通りにビャクヤ=シュードリアと申します」
「はいはーい!私がナナイ=リィンだよ!よろしくね!」
ビャクヤは手を差し出す。
黒杉は差し出された手を握り、握手を交わした。
「クロスギだ。よろしく頼む、隣にいるのはアイリスだ。」
「よろしく・・・」
そういって、お互いに挨拶し終わったところで、ナナイが喋り始める。
「へー!君たちってあの化け物たち大群の中で生きていたんだね!それにとくにそこの女の子、魔力量が尋常じゃないね、何者なの?」
ナナイは初対面のアイリスに興味が沸いたようで、近づいて周りぐるぐる観察するように見てくる。
そういうのが苦手なのか、アイリスは黒杉の後ろに隠れる。
すると、ビャクヤはナナイの頭をゴツンと鈍い音を立てながら、拳で叩いた。
「痛ったー!?何すんのよ!トラゴリラ!!!」
「馬鹿者、二人が困っているだろ、クロスギ殿申し訳ない。ナナイにはキツく叱っておきますので」
「ムキャー!私は悪くないもん!」
そう言って、二人は再び喧嘩を始める。
「あ、あのー・・・」
「ああ、何時もの事だから気にしないでくれ」
ニルヴァフ王子は愉快そうに笑う。
喧嘩してばかりだけど、大丈夫だろうか・・・。
心配していると、ケタケタと笑い声が聞こえる。
後ろからだ。
黒杉たちを追ってきたのか、数匹の化け物が出てくる。
すると、途端にさっきまで喧嘩していた。
二人がの目つきが変わり、ビャクヤはナナイを肩に乗せ、前にでる。
「ニルヴァフ王子、後ろへ・・・」
「ああ、後は頼むよ」
数匹から徐々に敵の数が増えていく。
このままでは、またあの時のように囲まれてしまう。
すると、ニルヴァフ王子が愉快そうな声で話はじめる。
「ハハハ、大丈夫だ。あの二人の実力が気になるだろう?まあ、見てなって」
そう言って、腕を組み仁王立ちをして静かに見守る。
黒杉とアイリスもニルヴァフ王子に並ぶように見守った。
「さあ!トラゴリラいくよ!!」
「ビャクヤだ!馬鹿者!」
そう言って、ナナイは静かに呪文を唱え、肩に触れる。
すると、ビャクヤの身体から青く揺らめくようなオーラが出てくる。
毛は逆立ち、身体中の筋肉がパンパンになるまで大きくなる。
そして、ビャクヤは構える。
「ハァアアアアア・・・・」
静かに精神を研ぎ澄まし、目を閉じる。
徐々に周りに、白い粒子がビャクヤの身体に集まっていく。
ビャクヤの身体から、身体中の魔素が集まっていくのが分かる。
そして、開眼して、そのまま・・・。
"正拳突き"をした。
ズガガガガガガッ!!
その勢いで放った、正拳突きは凄まじい風圧を生み出し、目の前にいた化け物が月々と粉々になっていく。
そして、目の前には敵はいなく、そこにはポッカリが開いた、拳の形した穴だけだった。
ニルヴァフは言う。
「あいつは二つ名は"百獣王"、我が国の最強の守護者だ」
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