あの夏の蝉はもう泣かない
土野絋
第1話 あの日と変わらぬあの場所で
君が川の向こう側に立っている
君は向こうからまっすぐ僕だけを見ていて
たまに君は僕を見て笑う
僕は君の大切な人の為に君のふりをする
それを見て君はまた笑う
君の大切な人は同時に僕の大切な人でもあって
僕は君と大切な人が楽しそうにしているのを
ただ指をくわえて見ているしかなかった
大切な人の為に僕は君のふりをする
それは大切な人の為?
それとも僕の為?
タタン、タタン……。
電車の中はクーラーが効き過ぎていて軽くお腹が痛い。
タタン、タタン……。
等間隔な線路の繋ぎ目が一定のリズムを繰り出し、独特な心地よさを生み出している。
タタン、タタン……。
でも、そんな心地よささえ掻き消す程、僕の気持ちは沈んでいた。
タタン、タタン……。
あれから五年。
相変わらずあの日から蝉は鳴き止まない。
タタン、タタン……。
効きすぎるクーラーが膝の上の花を悪くしないかと心配になる。
タタン、タタン……。
そのとき、目に見覚えのある景色が流れる。
外を見るとあの川が見えた。
タタン、タタン……。
もう、着いたのか……。
車内アナウンスが流れる。
[次は
プシューというガス音と共に電車は駅に停車し、僕はその駅で降りた。
河川敷の独特な泥臭さと草の匂いが鼻を通り頭の中を充満させた。
そして呼び起こされたように頭の中の蝉は鳴き始める。あの時と変わらない蝉の音。僕はあの日から蝉の音があの事に関係することがあると鳴り始める。
両手に荷物をまとめて狭い改札を通り、中なのか外で鳴いているのか分からない蝉の音と一緒に僕は親戚の家に向かった。
頭の中で蝉がけたたましく鳴く。
蒸し暑い砂利道を通ると、地面から反射する熱で足首が焼かれていくのが分かる。
あぁ、ヤバいかな。ぼーっとしてきた。
歩く感触がぐにゃりとしたものに変わっていく。
5年前。
うだるような暑さの中、二人の中学生が川で遊んでいた。それを笑いながら僕は見ていた。
「
「そうだよ!冷たくて気持ちいぞ!!」
「いいよ、僕はここでひなたぼっこしてるから。
すると、佑輝がムッとした顔をして、
「るっせえな!そういうこと言うんじゃねぇよ!!」と怒鳴る。
でも、そんなことを言いながら口元は緩み嬉しそうだ。
「日向がひなたぼっこすんの?何?新ギャグ?ダサいって~。」
アハハと笑いながらバチャンと川に笑い転げた。
「人の名前で遊ぶなよ!」
河川敷の芝生で寝転がってた僕も立ち上がり川に走った。
僕は元々ここの出身じゃない。
父さんの会社の都合でここに越して来た小学3年の春。都会の方に住んでいた僕にはここはかなりの田舎に感じた。近くに山と川、田んぼ。自然が多く、知らない人も多いこの場所で、不安しかない僕に一番最初に友達になってくれたのが佑輝と楓だ。
二人は幼馴染みで僕と同級生だった。 そして僕の親友になってくれた。
僕が佑輝を殺すまでは……。
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