AIRIS

フューク

第1話 起動

2084年 11月24日

「えー2055年に起きた人工知能と人間の戦争。所謂AI反逆戦争によってそれまでのロボットに任せた生活が終わりを告げました。今では信じられないかもしれませんがその頃は機械が自分で考えて動いていたのです。それから人工知能排除運動が起き、それらの技術は使われなくなりました。そしてすぐに法律でも禁止されました。このまま技術は衰退していくだけと思われましたが、しかし2059年榊原雄二によって魔法の基礎概論が発表されたのです。これは実に革新的なことで、皆さんも使う魔法のもととなるものでした。」

 すると授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。それを聞いて僕は大きく伸びをした。

「チャイムが鳴りましたね。じゃあ今日はここで終わりにしましょう。では来週の授業までに榊原博士についてまとめてきてください」

 先生はそれだけ告げると足早に教室から去っていった。

 教室は授業が終わった解放感からかざわめき始めた。僕はそんな喧騒を無視してただ帰り支度を始める。

 一瞬ちらりと時計を確認する。

3:30

 まあついさっき終わったんだからそうだよな。あそこが開くのが4時だから移動するうちにそれくらいの時間は経過しているだろう。

 そして荷物を片付けたバックを手にもって、さっきの先生のように教室から出て行った。


4:05

 僕は少しの徒歩とバスで目的の店まで到着した。薄暗い路地裏にあるせいで何度も通ったことがあるものの少し迷ってしまいそうになった。

 看板には「朝比奈電機」と書いてある。僕はその下にある前時代的なデザインの自動ドアを潜り抜けた。

「初ノ瀬くん。いらっしゃい」

「どうも、朝比奈さん」

 明るい笑顔で迎えてくれた彼女は朝比奈エル。この「朝比奈電機」のオーナーだ。なのに歳はおそらく25歳くらい。前に僕と5つくらいしか違わないと言っていたから。

 店が4時に開くのはそれまで別の仕事をしているかららしい。まあ僕は特段その点に困ったことはない。むしろちょうどといった頃合いだ。

 すると彼女が話しかけてきた。

「今日は何を買いに来たの」

「えっと。メモリーですね。できるだけ軽くて大容量なものを」

「それならとっておきのがあるよ。ちょっとまってて」

 彼女は店の奥に引っ込んでいった。

 そのご5分くらい待っていると、帰ってきた。手に何か持っている。

「これは企業の情報を一括管理してもなおおつりがくるほどの大容量! かつ重さは驚きの100グラムとなっています」

 なんとも魅力的な商品だ。でも

「ちなみにそれはいくらです?」

「まあ性能がいいからそれなりの値段はするけど、こんなのあっても時代柄買い手もつかないんだよね。そんな大企業様なんてのはうちに買いに来たりしないし。私が持ってても無用の長物だし。ということで大特価! 1万円!」

「ほんとにいいんですか?」

「うん。なんたってお得意様だからね」

「ありがとうございます! 買います!」

 左手のチップをスキャンして支払いを済ませると、何度も頭を下げた。

「いいんだよ。その代わりまた来てね」

 ありがとうございますともう一度言うと僕は走って家まで帰った。


5:30

 あたりも暗くなっていた。家についてから思ったことだが精密機器を手に持ったまま走ったのは愚策だったと思う。今度から気を付けよう。

 僕は玄関を開けるとパソコンに飛びついた。そして先ほどのものを接続し別のメモリーからデータを移し替えた。

 そしてそれを人間の体のような機械の後頭部に差し込んだ。

 おそらくこれで準備は完了したはずだ。

 体の熱を感じた僕は大きく深呼吸をした。

 そんなんで興奮は冷めないけど。服の心臓の上あたりをくしゃりと握った。

 そして、小さく、でもはっきりとした声で、言った。

「おはよう、アイリス」

 すると、その首は僕のほうを向いて笑顔で返した。

「おはようございます。マスター」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る