第8話:早期退職し、熱海に住む

 石津は、これを機会に、この仕事を辞める決心をした。翌週、退院して

良いといわれ、外来で担当の先生から、今後、最低1年は、療養に専念

しないと、悲惨なことになりかねませんと言われ、仕事を辞めて、療養に

努めるように指示されて、了解しましたと答え、東京の斎藤貢支店長に、

先生言われたことと、自分の退職の意思を伝えると、わかったと答えて

石津所長の後任は、長野市担当の山根悟にして、松本営業所の山根所長

を松本の信州大学病院に送り込むことを約束してくれた。


 5日後、1992年3月7日、松本営業所で、緊急会議をひらき、東京の

斎藤貢支店長に聞いたことを話すと、山根君が、僕には、石津所長の後任は

つとまらないと言ったが、「大丈夫、自分の思った様に、思いっきり仕事を

すれば、結果は必ずついてくる」と肩を叩いた。その後、観念したかの様に、

6人の営業所員がご苦労様でした、「お陰様で、給料も増えて、社内での個人

評価も上がり、本当にありがとうございます。今後、療養に励んで、お元気に

なって下さい」と言われ、石津は、あたかも、もうやり残したことはないと

言う、清々しい、笑顔を見せて、松本営業所を後にした。


 その後、東京の斎藤貢支店長からの電話で、退職金2千万円と、愛宕製薬の

愛宕宗一会長から、石津君の多年にわたる、我が社に対する貢献を考えて、

退職金と同額の慰労金を出すように言われて、慰労金2千万円で合計4千万円

を送ると言われ、送金先を聞いてきたので、お知らせして、今までの預貯金

6千万円と合計して1億円となった。


 つくば市の家に帰って、どこに住もうかと考えて、暖かくて、温泉があって

、東京も近く、医療機関が近くにある場所を探してみると、湯河原、熱海、

小田原が候補になり、熱海の賃貸マンションはどうかと言うことになり、

熱海の不動産屋を当たると、数件あると言われ、賃料が10万円で広めの

2DKがあると言われ、3日後の1992年3月13日、出かけ、熱海

駅前の不動産屋へ行くと、不動産屋の車に乗って、5件を見せてくれて、

古けれど、源泉を引き入れてる所が、良さそうなので、検討してみますと

答えた。熱海から、一番近い大型病院はと聞くと隣町に、湯河原厚生年金

病院、車で15分、その他、小田原市立病院が車で30分の所にあると

教えてくれた。熱海のKM温泉ホテルに3泊して、源泉の温泉を引いてる

マンションの2DKを1992年3月17日に月・10万円でマンション

を借りる契約を結んで、住むようになった。ただ、家賃の他に諸費用が

5万円かかり、合計、月に15万円の家賃とわかり、ここに決めた。


 そのマンションの賃貸契約を不動産屋と交わした。やがて、4月を迎えて、

春めいて暖かくなり、毎日、朝と夕方の2回、温泉につかり、美味しいもの

を食べて、石津健之助が、だんだん顔色も良くなってきて、散歩する意欲も

出て来た。5月の連休があけた1992年5月7日に、石津は、奥さんと、

東海道線で橫浜へ行き、中華街で昼食をとって、山下公園を散歩した。


 熱海から橫浜まで約1時間10分、小田原駅まで21分、東京駅まで1時間

35分、新宿まで2時間であった。その熱海のマンションは、訳ありで住んで

いる住人も多かった。というのは、石津夫妻が入居したときに自治会で歓迎会

をしてくれ、自己紹介をすると、以前、芸能界にいたとか、若くして、投資家

として住んでいる人、また、作曲家、歌手、小説家も多く、一般サラリーマンは

、ほとんどいない状態であり、もっと大きな、熱海芙蓉会という組織もあり、

良かったら入会しないかと誘われた。


 その時、自称投資家という30歳代、後半の男性が、石津真之介の所へ

やってきて、あなたも、まだ、お若かそうだが、今の資産を増やして

みませんかと話しかけて来た。彼の名前が、石本聡39歳と言い、大学

を出てから、投資で、数億円の金をつくり、悠々自適な生活をしていて、

人に縛られるのが嫌いで、いまだに独身だと、他の人に教えてもらった。

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