第47話 アリッサに直撃に直撃インタビュー6

わたくしこと、高山愛は根が真面目です。知り合ったばかりの人との会話が家族の話題になったとき。”My husband” とか” He”といった言葉を使うのに躊躇してしまう。だって、アリッサはもう夫じゃないし、”He”でもない。


うそをつくことの罪悪感に苛まれて、ついつい、「実は、わたしのパートナーはトランスジェンダーなんです。2年前にカミングアウトしたんです」と、いらない説明をしてしまう。バカ正直に、事実を言わなくてもいいのにね。きっと相手も戸惑うはず。


トランスジェンダーのパートナーを持ち、はじめて感じました。「英語で頻繁に使う代名詞、”she”とか “he”ってやっかいだな」って。



さてさて、アリッサへの直撃インタビューシリーズ5弾。

「アリッサさん、どんなふうに紹介してほしい?」


新しく出会った人には「わたしのパートナーのアリッサです」と紹介してほしい。代名詞としては”she”ですね、もちろん。


愛は会話の相手に「このふたりはレズビアンカップルだ」と思われるのがイヤかもしれない。わたしとしてはトランスジェンダーであることをわざわざ触れる必要はないと思うし、できる限り口にしないでほしい。


ここ数年、アメリカでは男女を区別しない代名詞として、”she” “he”のかわりに”they”や”ze”を使う人がLGBTコミュニティー内や大学で増えています。例えば、”Alyssa likes chocolate”のかわりに”They (Ze) likes chocolate”と言った感じに。男でも女でもない三人称が”they”や”ze”。


それだけ、トランスジェンダ−の人たちや、自分の性が定かでない人が増えているということでしょうか。書類上の名前もすべて変更し、自分を女性だと思っているので、”they”という三人称でよばれたくない。


ただ、大学で書類を提出するとき、性別を記載する欄に”She, He, They”の選択肢ができたのは素晴らしいことだと思う。トランジションの途中の若い人たちに希望を与える歓迎すべき変化だと思います。


トランスジェンダーの人たちは三人称の代名詞に対し、とても敏感です。去年、バージニア州で、トランスジェンダーの生徒に対して、生徒が希望する三人称(この場合、生徒は女性から男性にトランスしたので、”He”)を使うことを拒否したため、高校教師が解雇されるという事件がありました。この高校教師は敬虔なキリスト教信者で、拒否したのは宗教上の理由でした。


教師として、みなから尊敬され愛されていたため、解雇を知った生徒たちが、学校で大々的な抗議をし、メディアでも大きく扱われました。


みなこの高校教師に同情するかもしれない。わたしは、この一件後の、トランスジェンダーの生徒のことが心配。「周囲から叩かれ、いじめられて、彼こそ、居場所を失ってしまったのではないか?」と。



アリッサはもともとシャイで社交的ではない。例えば、娘たちのサッカーの新しいシーズンがはじまり、新しいチームが結成されて、親同士が初めて挨拶を交わすとき。まず、わたしが他の親たちと仲良くなり、それから、夫(であったアリッサ)を紹介するのが常だった。


カミングアウトの後、わたしたちのことを知らない人たちにアリッサをどう紹介してよいのか、わかりませんでした。レズビアンカップルと思われるのもイヤだったし、娘たちの父親(であったアリッサ)がトランスジェンダーだと知られるのもイヤでした。だから、アリッサのことを紹介するのをあきらめていました。きっとサッカーママ(とパパ)たちはアリッサの存在を訝しがっていたと思う。

今となってはもうだいじょうぶ。アリッサの希望通り、「この人の名前はアリッサで、わたしのパートナーです」と堂々と胸張って、紹介できると思う。今シーズン(サッカー)は終わっちゃったから、今年の9月からね。


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