第19話 アリッサの気持ち

重大なことに気付きました。


自分の心境を延々と書き綴ってきましたが、アリッサの気持ちにはまったく触れてなかった。カミングアウトの前、カミングアウトの直後、アリッサは何を考え、何を思っていたのか。


思い返せば、いつもそうだったのかも。付き合い始めた頃からずっと、”Me, me, me”って自分の意見ばかり主張して、あの人の気持ちに耳を傾けてあげなかった。


ごめんなさい。アリッサ。



ということで、「FB憤激事件」は次回にして、今日は「アリッサのあの頃の気持ち」について書きます。



カミングアウトの前

トランスジェンダー専門のセラピスト、ケイシーのオフィスに通い、カウンセリングを受けていた頃。アリッサの心は混乱、不安、迷いで溢れてた。



自分は本当にトランスジェンダーで女性になりたいのか。それとも女装が好きなだけのクロスドレッサーなのか。



そのことをケイシーに相談すると、「あなたがもし毎日『女性になりたい』と切実に願っているなら、あなたはトランスジェンンダー。『女装をしたい』とたまに願うだけならクロスドレッサー」と言われ、自分が間違った体で生まれてきた女性であり、トランスジェンダーであることを確信する。毎日願ってたから。女になりたいって。


当時は自分の悩みを誰にも相談できず、1人もがき苦しんでいたので、セラピストのケイシーとのセッションだけが、自分が自分らしくいられる息抜きの時間だった。




カミングアウトに関して

ケイシーから「子供に伝えるタイミングは年齢が低ければ低いほどよい」、「子供は大人が思うよりずっと順応性がある」と何度も説明を受けていたので、娘たちに打ち明けることはなんのためらいもなかった。


娘たちとの絆が強く、よい関係を保っていたので、「何があってもだいじょうぶ」という自信があった。



友人へのカミングアウトもあまり心配していなかった。友人を信頼してたので、彼らが受け入れてくれることに自信があった。




両親に対しては、厳格な父親は反対し、優しく穏やかな母親は受け入れてサポートしてくれるだろうと思っていた(実際は逆でした)。



一番怖かったのは妻であるわたしに告白すること。「理解してくれるのか」、「離婚を切り出されるかもしれない」、「怒り狂うのではないか」という不安と恐怖。クレジットカード借金返済でつらい思いをさせたので、さらなるショックを与えることへの罪悪感も強かった。



トランスジェンダーに関するたくさんの本や資料に目を通し、「カミングアウト後に家族、友人、仕事、住む場所を失う人が多く、鬱になったり、自殺する人も多い」という事実を知っていたので、不安はあったが、もう騙し続けることができなくなっていた。




カミングアウト直後


娘たちは父親がなりたかった本来の自分になれることを素直に喜んでくれた。


友人や同僚は温かい言葉で祝福してくれた。


妻は予想通り、怒って悲しんだけれど、「このまま一緒に子供を育てよう」と

言ってくれた。時期が来たら受け入れて、応援してくれるという希望があった。


トランジションが平和に進み、自分はとても幸せだと感謝する。



これからは、堂々と自分らしく振る舞えるという事実に心が浮き立った。



後悔することがひとつだけあり、それは妻より先に娘たちに事実を知らせたこと。



ある日曜日の朝、トランスジェンダーについてわかりやすく説明した"I AM Jazz"という絵本を娘たちに読み聞かせた。


Jessica Herthel著 "I AM Jazz"



理由は「世の中にはいろんな人がいて、人と違うことは悪いこと、恥ずべきことではない」ということを娘たちに話したかったから。ストーリーを読みすすめるうちに娘たちから「ダディーはトランスジェンダーなの?」と聞かれ、正直に話しをした。


そのとき、娘たちが自分のいない場所で母親に事実を伝えるとは思いもしなかった。妻のわたしには自らきちんと説明をするつもりでいた。



夫からではなく、娘たちから事実を聞かされた妻の気持ちを思うと、今でも胸が痛む。すまなかったと思う。




アリッサはちょっと涙目になりながら「こうやって、愛といろいろ話ができて幸せ」と言いました。



わたしは今まで「 話なんて聞いてやるもんか」って、意地を張ってたけど、アリッサの心の中を知ることができて幸せでした。怖かったんだね、わたしのこと。やっぱりね。正直に話してくれてありがとね。


ということで、次回は妻こと高山愛の怒り炸裂。「FB憤激事件」、怒れる妻は鬼より恐い。

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