冒険者養成学校での実戦授業の後

「無事に帰還する。それはどの班にも当てはまったし、討伐した魔物のレベルも、我々が想定していた物よりも高かった。それは称賛に値する。確かに称賛に値するんだが……」


 学校の相談室に呼び出しを食らった俺達は、教官の前に横一列に並んだ。

 特別褒賞とかもらえるんじゃねぇの? とか、そんな軽口を叩いてたヒュージ達の予想と違ってた。

 俺は、褒められることはない、と何となく予感はしてたんだけどな。


「お前達……油断しすぎだ」


 みんな、教官の言ってる意味が分からなかったみたいだ。

 まぁ、俺もそうだったけど。


「……そりゃ……エッジのアイテム選別があまりに手間取りすぎたのは油断としか言いようが」

「違う」


 ヒュージの発言はすぐに止められた。

 まぁそこんとこは、流石の俺も注意されるだろうなと思ってたけど、そうじゃないみたいだ。


「それはミスの一つだろう。お前の魔物への攻撃も計算ミスもあった。お前の露払いをしたノクトの攻撃にもミスはあった。もちろんそれをフォローする仲間の功績は大きいし、エッジは自ら自分のミスを払拭した」

「払拭? どこにそんなのがありました?」


 教官は呆れかえってる。

 マーナの指摘は的外れってことか。


「答えを言うか。……戦闘中にお前達はエッジとのやり取りで感情的な言葉を発してたな」


 言ってたな。

 アイテム早く寄こせとか。

 まぁ俺もわたたわたしてたけどさ。


「感情が力を倍増することもある。だから一概に悪いこととは言えん。だがな……」


 まぁ、感情が高ぶれば、それだけ心の中にその現状がいつまでも残ることはある。

 思い出すたびに「あぁぁ」とかもがいたりすることもあるよな、うん。


「本来の目的から、一瞬であったとしても目を逸らしている。その一瞬で命を落とす冒険者は決して多くない。感情が伴わなくても目的を達することはできる。だが自分のなすべきことに対しては集中しろ。あの男も……」

「……あの男?」

「あぁ、いや、その人物の話のことは忘れてくれ。注意事項はそれだけ。以上だ。退室してよし」


 相談室からようやく解放。

 これからやることと言えば、下校のみ。

 と思ったのだが……。


「エッジ。模擬戦やろうぜ」

「え? ヒュージ、流石にそれは良くないんじゃない?」

「あのなぁ。メンバー同士の模擬戦で、硬い素材の武器の使用は禁止されてんだよ。安全な道具を使えば何の問題もないのっ」

「柔らかければ何でもいいわけじゃないでしょ? ヒュージやノクトくらいのレベルだと、スポンジ製だって危ないわよ」

「へーきへーき。な、エッジ? それくらいの協力はしてくれよな? だって実戦じゃ、お前、荷物係がいいとこじゃねぇか」


 俺なんか、模擬戦だって何の役にも立つわけがない。

 この二人は、それを十分承知してる。

 きっと俺だけ実戦で楽してるって思ってて、その腹いせなんだろうな。


「無茶はやめなさいよ。私達のグループの貴重な戦力が教官に睨まれたら、戦力半減どころじゃないわ」

「ただのおふざけってことにすりゃいいじゃん」

「ふざけるならなおさらじゃない。真面目にやれって注意されるわよ」

「じゃあ二人の魔術の訓練に付き合うってことにすれはばいいんじゃない? 武力はとてつもなく高いけど、魔力となるとからきしだし」

「あ、それいいかも。マーナ、あったまいーぃ」


 こいつらも時々俺を魔術の標的にしたがる。

 もちろんまともに当たったら、生涯冒険者になる夢は叶えられない怪我を負う、と思う。


 正直相手にしてられない。

 実力がある奴らにおんぶに抱っこなんかしてもらったら、確かに楽だ。

 けどな。

 楽ばかりやってて、この学校で優秀な成績をとれると思うか?

 それどころか、冒険者として失格、学校落第なんて言われたら、母さんに楽させてやりたいって目標が達成できなくなっちまう。


 成績優秀で、健康第一で卒業しなきゃ、その目標を達成させるなんてできないんだよ。


「やれやれ。みんな、まだ子供ねぇ……」

「おい、フォールス。今なんつった?」

「自分の成績の好評と、彼へのちょっかいによる下落、どっちがいいの?」


 みんなが黙った。

 そりゃそうだ。

 今のところ、教官たちからの評判もいい。

 しかし俺達のグループが抱えるストレスは、すべて俺が原因なんだそうだ。

 けど、この二つを天秤にかけてどっちを選ぶって言われたら、そりゃもう言うまでもないことだ。


 こっちはもうなんかさ、いろいろと疲れた。


 けどさ。

 父さんが作ったおにぎりってたくさんの人に喜ばれてたらしいけど、俺のは……食うのも面倒、みたいな扱いだったな。

 弁当のおにぎりが余って、実戦での臨時の栄養補給みたいにするようになってから、ずっとそんな感じに思われてる。


 ※

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