まだまだ泣かせる

 女を泣かせる悪い奴。


 そんな噂が流れても、俺の世界に流れるわけもなく。

 つまりどれだけ酷い仕打ちをしても、手痛いしっぺ返しは来ることはない。

 そして、俺の作業の負担も軽くなるならそれに越したことはない。


 翌朝、プレハブに行くと、ショーアが泣きそうな目で見つめながら話しかけてきた。


「つ、次はいつご馳走してくれるんですか……?」


 おいこらお前。

 ここに何しに来たんだ。

 ホントに聖女の二つ名を捨てる気か。

 まあそれは、俺には笑える話だが。


 で、俺の負担が軽くなる、とはなんなのかってぇと、ショーアの分だけだが、コンビニで買った握り飯を食わす。それだけ。

 たった二個分の労力が省かれたからといって、俺の助けになるわけじゃない。

 けど、やっぱり少しでも楽したい気持ちもある。


「こんびに?」

「まぁいいから食ってみな」


 ショーアはかなり不満そうな顔で、パッケージにプリントされている番号通りの手順で握り飯を取り出した。

 そりゃそうか。

 その返事をうやむやにしたままだからな。


 そして一口パクッと食べる。

 コンビニの握り飯、食べるとパリパリ音が鳴る海苔が好きなんだよな。

 手作りだと、まず海苔を炙らなきゃ出ない。

 一々やってられない。

 ま、海苔一枚一枚にそこまで手間もかけられないし、それに拘ってるわけでもないからいいとしても。


 で、ショーアは一個食べきったのだが……。

 肩をひくつかせてまで泣いている。

 美味しさの感動のあまりってわけじゃなさそうだ。


「おい、コウジ。昨夜といい今朝といい、女を続けざまに泣かすのは、ちょっと黙ってられないな」


 だから避難者が口を挟むなよ。





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