カレーの魔力はつくづく異世界でも通用するんだな、と改めて
カレー。
美味い料理の一つ。
しかも庶民的。
具はありあわせの物でも問題ない。
アレルギーを持ってる人には申し訳ないが。
で、冒険者達が寝静まった時間に、お代わりの分も入れた二人分のカレーうどんを個室に運び込んだ。
その匂いを嗅いだショーアは戸惑いを見せた。
「ま、よくやってるよ、という慰労と歓迎……じゃないな。これから頑張れよっていう励ましの意味だな。晩飯の時間遅くしてすまんな。さ、食おうぜ」
汁が飛びやすいから気をつけろよ。
そんなことを言いながら一口啜る。
それを見たショーアも恐る恐る手を付けた。
食事になんでそこまで用心深くなるのか。
まさか毒入りを警戒してるんじゃあるまいな?
何で俺がそんなことしなきゃならんのだ。
そんなことを思いながら普通に食べてる間、ショーアは一口食べた。
その瞬間彼女は固まった。
「……どうした? 口にあわなかったなら謝る。別の物を用意す……」
「わ……私は……」
「ん?」
ぽろぽろと涙を流し始めた。
そこまで感動するものなのか?
それとも嫌いな味だったか?
「私は……聖女と呼ばれるに相応しくありません……」
「……はい?」
ショーアはいきなり猛烈な速さで食べ始めた。
しかし俺の忠告通り、汁はどこにも飛び散らさず、だ。
今度は俺が固まった。
人が感動するときって、こんな反応もあるんだなぁ。
食いっぷり、見てて気持ちがいい。
それにしても口の中、よく火傷しないもんだ。
面倒くさいことになりそうな、食う前の一言は気になるが。
「あ、あの……」
「お代わりの分ならそこにあるじゃねぇか。遠慮すんな。食うのも健康維持の手段の一つだぞ?」
「あ、ありがとうございます……」
遠慮がちに替え玉を乗せた皿に手を伸ばすんだが、丼に入れてからの動きが速い。
なんだそのギャップは。
見惚れてるうちに二杯目も食べ終わった。
「……俺のもまだ手つかずだが、食っていいぞ」
「あ、ありがとう、ございます。イタダキマス……」
ショーアは顔を赤くしながら俺の分にも手を伸ばす。
緑色の髪で一部隠れた額から汗が出てるのが分かる。
前にも思ったことだが、餌をあげたら一心不乱に食べるペットの仕草が可愛いと思うのとおんなじ感覚だと思う。
が、俺が見惚れる理由はそれだけじゃないな。
何かにつけ、こいつは誰かのために一生懸命仕事してた。
自分のしたいことに集中するこいつの姿を見たのは初めてじゃないか?
そのまま見てたら、丼を持ち上げてカレーのスープまで飲み干した。
ということは。
「……ごちそうさまでした……」
「おう」
ショーアが丼を置いたのを見て、初めて俺はまだ自分の分を食べていないことに気が付いた。
「……まだ食えそうだよな。俺の分も」
「い、いえ。……とても……美味しかったです……」
俯きがちに汗をぬぐった後もショーアの顔は赤いまま。
熱さのせいばかりではないようだ。
「……まぁ、なんだ。聖女のまんまでいいんじゃねぇの?」
「……はい?」
ズルズルと音を立てながら啜りつつ、声をかけてみた。
「良いと感じたものを、同じように思ってもらいたい、感じてほしいってことなんだろ? だったら、誰かに与える前に、これはいいものだ、と判断する必要はあるよな」
「は……はぁ」
いきなり話し出したわけだから、何のことか理解できないまま反応するのは当たり前だな。
「独り占めしようってわけじゃないんだし、まずは自分が体験しなきゃ分かんねぇよな。もっともこいつはここに来る連中に配る気はない」
「え? こんなに美味しくて栄養もありそうなのに?」
「食費と手間暇、後片付けに時間がかかりすぎなんだよ。あいつらには握り飯と水だけ。俺に手伝いに来る奴らは、ここでの生活する必要があるから、時々こんなのを出してるんだよ」
「そ……そうですか……」
ここは避難場所であって宿泊場所じゃない。
こんな説明を何度しただろうな。
そう言うとショーアは納得してくれたようだったが。
「……独り占めしたいって思う気はありませんけど」
「うん」
「また、食べたい、と思える食べ物でした」
「……食べさせてあげたい、と思える働きぶりをしてくれるなら、また食えるだろうよ」
「……はいっ! 頑張ります!」
そこでトドメの一言をぶちかます。
「炊飯器のようなことがなきゃ問題ないと思うがな」
「も、もうあんなことしませんっ! ……いつまで引きずるんですか、それぇ……」
恥ずかしさから解放されて綺麗な笑顔を見せてくれたが、また赤面に戻った。
しつこい自覚はあるけどさ。
いやー、からかい甲斐があるなー。
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