シェイラの心配:母親の昔話

 王女、とは名ばかり。

 つくづくそう思い知らされた。

 けれども、今は泣き言は言えない。

 ミラージュ王家、そしてフォーバー王国に仕える兵の前。

 そんな私ができることと言えば、お母様にそのことを報告することだけ。

 情けないけど、それが今の私の精一杯。


 屋根裏部屋からここに来る前のダンジョンの一区画に出て影の者に伝え、しばらくしてお母様がやってきた。

 部屋の状況と、ノートを見て知った事情を伝えた。

 すると一緒に屋根裏部屋に入り兵の二人を帰還させた。

 再びお母様が部屋に戻り、コウジに呼ばれて指輪の部屋に入った。


「コウジ、礼を申そ……」

「礼はいらねぇ。こいつと話があるんだろ? 周りに繋がりがあると思われたくねぇんならここで寝てる。話が終わったら起こせ」


 寝付くの、早っ!

 ……おにぎりを作る毎日。

 それでもこんなに疲れるんだろうか。


「さて、シェイラ」

「は、はいっ!」


 叱られたりするんだろうか、と身構えた。


「本当はコウジにも聞いてもらいたい話だったのだが……」


 と始めたお母様の話の中身は、私の予想外のことだった。


 ※※※※※ ※※※※※


「城の近くの洞窟があるのは知ってるでしょう?」


 城壁の外、城の後方の崖。

 崖崩れが起きても城壁までは届かない高さ。

 歴史的に一番古い洞窟。

 その奥から魔物が湧き出す場所。

 その原因は突き止めることができないまま今に至る。


 地下に続くその洞窟は、奥に辿り着くまでの距離はとても長く、時間もかかる。

 だから出現する魔物の力の差は、奥と入り口付近ではかなりの差がある。

 入り口付近では、子供らでも退治できる程度しか力がない魔物ばかりが現れる。


 けど、どこから危険な魔物が現れるか分からない。

 封印する意味で、私達王家が住むための城をそこに立てた、という話は聞いた。


「シェイラ。あなたは度々親の目を盗んでそこに行ったりしたことがあったでしょう?」


 お母様は私を問い詰めるようなことを言うけど、思ったよりその表情は優しかった。

 口調も女王としてではなく母親としてのものに変わってた。


「お母様も同じようなことを何度もしたから、シェイラ、あなたのことも大体想像はつきますよ」


 ひょっとしてバレてた?


「お母様も、あなたより小さい頃からあの洞窟に何度も入ってたから」


 お母様は、私はあまり見たことがない、まるでいたずらした子供みたいな笑顔してた。

 冒険者が受ける依頼の冒険のようなことではなく、大人なら誰でも知ってて子供だけが知らない場所の探検ごっこのようなお遊びをよくしてたらしい。

 まぁ……私もそういうことはしたことはあるけど、監視が厳しくてお母様程出かけたことはないかな。


「まぁ遊び場みたいなところね。けど魔物はそれなりの物は現れてた。石を投げる程度でやっつけられる程度だったけどね」


 それでも危険な目に遭ったらしい。

 お母様が最初にこの部屋に来たのはその時が最初。

 九才か十才の頃、と言っていた。


「あの時はコウジじゃなくて……。まさか孫でもなく曾孫とは思わなかったな……」

「……お母様、最初にここに来たのって……今から何年ま……あ……」


 笑ってる顔は変わらないのに、急に空気が重くなった。

 これ、聞いちゃダメなやつだ。


 でも私は、お母様の昔話を聞きたいんじゃなくて、その……戦争になるとか何とかってことの……。


「お、お母様、私は……」

「大丈夫。あなたの案じてることにも繋がる話だから……。ふふ、随分昔の話になっちゃったわね……」


 お母様は昔を懐かしみながらコウジの方を見た。

 コウジは米袋に寄り掛かって、すっかり熟睡してた。

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