シェイラの手記:錬金術師見習いの子供への愚痴

 なんか変な奴に絡まれちゃった。

 最初はコウジにおにぎりのことで絡んでたけど、おまえがそいつに付き添ってやれって。

 文句は言ったけど……。


「握り飯をロクに作れねぇ上に、お前のすることは術と後片付けだけなんだから文句言うな!」


 って怒鳴られた。

 なるべく言うなって言われてるけど、一国の王女よ? 私はっ!

 何でこんな変な奴の相手しなきゃなんないのよっ!


「何だよ。同属嫌悪か?」


 同属ぅ~?!

 あんなのと一緒にしないでよっ!


 ……って、どうして私とあんなのと同属って思うのかしら?

 失礼にも程があるでしょ!


「いいからこっちに来させるな! 米袋の移動と術さえやってくれりゃあとは一人で何とでもなる!」


 た……確かに私の出番っていったら、お米やおにぎりに術をかけることくらいしかないけども。

 制限を解除されたから、その力の入れ具合や種類の調節の訓練もしたいところだけど……。


「お願いしますっ! 僕、デュードル公国で錬金術導師のエーケイ導師の元で修業させてもらっているアールと言います!」


 ……無駄に元気すぎる。

 大体、自分の名前以外の名前を出されても、誰も知らないのに。


「え、えっと、お姉さんは……」


 お、お姉さん?


 お姉さん……って……初めて言われた気がする……。

 う、うれしいかもしれないけど、だからと言ってこいつが可愛くなったわけでも可愛く見えるわけでもないんだしっ!


「……シェイラよ。コウジの……」


 ここで助手って言ったら、この子、多分自分もなりたいって言って押しかけるかもしれない。

 身内……はすぐバレるわよね。

 ど……どう言おうか。

 コウジから何か言ってくれないかしら……。

 ……こっち、見てくれない……。

 ……一つ思いついたけど……言ったら負けのような気がする。


「コウジってここの管理者ですよね? 見た目人間のようですが、人間じゃないことは分かります!」


 いや、人間なんだけど……。

 人間でなかったとしても、魔力のある者の振る舞いはしてないよね。

 この子何と言うか……元気を全部使って、空回りに命かけてる感じがする。


「……そう思うんなら別に私に聞かなくてもいいでしょ? おにぎりの秘密だってそっちで決め付けて、その結果をおうちに持ち帰って研究進めたらいいじゃない」


 しょうがないよね。

 聞く耳持たないんだもん。


「あ……。それもそうですね。教えてください!」


 知っていることを一通り教えた。

 コウジは人間であること。

 たくさんの世界があって、コウジの世界を含めた誰もが、自分の世界とは異なる世界へは行けないこと。

 この部屋だけが共有できること。


 そして、おにぎりはなるべくここで食べてほしいことも。


「じゃあ……、じゃあおにぎりを持ち帰って研究するってのは……」

「研究材料じゃなくて、ここに来る人達の体力回復を目的にして作ってるからね」


 喜怒哀楽が激しいのは、たぶん子供だからだと思う。

 私だってここまで激しくなかったよ。


「それではいけません! まるで回復薬を独り占めしてるようなものじゃないですか!」


 はぁ……。

 何でそう思うのかな、この子は……。


 ※※※※※ ※※※※※


「ということがありました」

「まるでお前じゃねぇか」


 みんなが寝静まった頃、自称錬金術師見習いのあの子とのやり取りをコウジに報告。

 そしたらすぐにそう言われた。


「何で私そっくりなのよっ」

「お前だって似たようなこと言ってたじゃねぇか」


 言ってないわよ。

 大体おにぎりを崩して米粒数えるようなことなんか、誰一人としてしないでしょうよ!


「動作や行動の話じゃねぇよ。思考の話だ」

「思考?」

「お前、握り飯あまり美味しくないみたいなこと言ってたよな」


 そりゃ、食事としては粗末なもんじゃない?

 水があるだけまだましだけど。


「回復を第一に考えるだろ、普通は。難を逃れてようやくたどり着いたって奴がほとんどだ」

「そりゃ……そうだけど……」

「話を聞けば、確かにあいつはバラバラにした握り飯を、最後は食べたけど、握り飯の目的の優先順位が、体力回復よりも研究の方が上回った。お前は体力回復よりも味や食べ物の種類の追求が上回った」


 うぐっ……。


「優先順位を体力回復よりも上回るものがあった。そして常にそれが一番上にあるここにいる連中と、その目的が別のものとしているってことでは、お前とあいつは同じなんだよ」


 言い返したいっ!

 でも、言い返せないっ!


「見たこともねぇけど、こうして続いていることだし、その人との縁があるってことで曾爺さんに免じて、お前の母ちゃんから、一応頼まれた社会勉強の一つとしてこうやって教えてやったけどよ」


 私だって役に立てるんだからっ!

 それをお母様に認めてもらいたいっ!


 そればっかり思ってたけど、やっぱりお母様の言うことも間違ってなかった。


「あいつがここにいる限り、その面倒見るのはお前が担当な」


 えぇ……。

 面倒くさい奴だけど……そう言われたらやるしかないじゃない……ねぇ。

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