弓戦士、ノートに書く:コルト砲の目撃者 2

 声を聞いて、物理的に耳にダメージが来たのは生まれて初めてだった。


「あの人はねえ! 魔法どころか、力仕事一つ出来ないんですよ! この部屋だって誰かに頼まなきゃ作れなかったんですから!」


 甲高い声の主はコルトだった。


「出来ることといえば、おにぎりとうどんを作ることくらいなんですよ! でもコウジさんの仕事は別にあるんです!」


 コルトが一番酷いことを言ってる気がするんだが気のせいか?


「ろくな品物がない雑貨屋さんなんですよ?! 儲けも少ないからおにぎりの具が乏しいって言ってたくらいなんですから!」


 いや、お前、流石にそれは。


「それでもここに来る人達を大事にしてるんですよ!」


 そうだ。その通りだ。


「一番危ないのはコウジさんのお店とコウジさんの趣味なのに!」


 お前は何を言っているんだ?

 って言うか、店のことを言うのはもうやめてあげて!


「何を言うか! 俺達の世話の方が大事だろうが!」

「そんなわけないでしょ! この部屋もコウジさんが住む世界の一部なの! だから私達はこの部屋から先に進めないし、コウジさんは私達の世界に行けないの! だから自分の生活が大事に決まってるでしょう?! なのにコウジさんってば、自分の店のことはほったらかしにして、別の目的のために防具作りを私に頼んで生活費を工面してるの! おじさんは、冒険者の仕事以外に、コウジさんみたいに他の仕事できるの?!」


 コルトちゃんに何をやらせてるんだ、あの大将は……。


「他に仕事をする必要はない! だがあいつはそうじゃないんだろうが!」

「あの人にだって、生活するためにお金必要なの! けど私達が持ってる物をお金に換えられないの!」


 なんかコウジが、すごく低能に思えてくるんだが?

 気のせいか?

 気のせいでいいんだよな?


「出来ないことが一杯あるのに、それでもこうしてたくさんの人を助けてくれてるの! 人助けが仕事じゃないのに!」


 なぜだろう。

 コウジを庇ってるのは分かるんだが、毒を吐いているようにしか聞こえない。

 だがコウジがいないこの場なら、俺からも一言言わせてもらっても問題ないだろ。

 コルトちゃんみたいに毒は吐く気ないしな。


「ちょっといいか?」

「あぁ?」

「そもそもここに来るってことは、魔物相手にドジ踏んだってことはわかるよな?」

「あぁ? 俺がヘマしたってのか?!」


 男相手だと威勢がいいな。


「あんただろうが仲間だろうが、死にかけたことは間違いない。違うか?」


 ここに来ることを前提に死にかける奴もいるらしいが。

 ある意味強者だよな。


「それはミスがあったから。だろ? どこにあるかはこの際問題じゃない。……だが準備不足であることは確かだ。いろんな意味でな」


 こういう奴には、プライドを傷つけないように誘導すりゃうまくいく。はずだ。


「その準備不足の原因はこっちの方にある。だがコウジが原因じゃない。そしてその修正はこっちがする必要があり、コウジは関係ない話だ」

「だから!」

「だから、コウジがしてくれるのは、その手伝いだ。俺達の食事の世話を仕事にするのは、酒場や宿屋で、あいつじゃない。寝具もないし食事のメニューもない。だからあいつには何の責任もない。責任がないのに、こうして俺達はそれなりに英気を養える。ここにいる俺達の目的はそれぞれの場所に生還することだ。……合ってるよな?」


 と、いきなりワイズに確認する。

 ワイズってのは俺のツレの槍使いだ。

 オチに俺を使うなよ、と気の抜けそうな笑い顔をこっちに向けた。


「コルトちゃんも落ち着きな」


 コウジにクレームをつけてきた男もそれなりに落ち着いたようだ。


 書かずにいられなかったことの顛末はこんなところだ。


 しかし、コルトちゃんにも意外な一面があるんだな。


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