俺はただ、売値を上げる方法を考えていただけだ 

 コルトが作ってくれた防具をネットのオークションに出してみた。

 画像ばかりでは説明に手間がかかる。

 そこで、動画を利用して装備の仕方や形、大きさの説明や披露をしたのだが……。


「一万五千円くらいから始めたんだよ。そしたら……五倍くらいまで競り上がった」

「と言われても全くピンときませんけど」

「そっちの相場で、いくらくらいが妥当な値段になるんだ?」

「何か自分の作った物の評価って照れますけど……三百モルくらいですか」


 モル……そっちの通貨の単位かな?


「こっちじゃ一万バールといったところか」


 弓戦士が横から口を挟んできた。

 つか、貨幣の価値の違いを持ち込んでくるな。

 ややこしくなる。


「その五倍の値段まで上がっちまった。もちろん売ったけどさ」

「「なっ!」」


 コルトと弓戦士が同時に驚いて絶句。


「なかなかのぼったくりじゃない」


 脇で聞いていた女魔術師が厭味ったらしい笑みを浮かんでいる。

 人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇっての。


「俺が決めた値段じゃねぇよ。買い手が、その値段でなら買うっつって、こっちとの合意での上で売ったんだ。ぼったくりでも暴利でもねぇよ」

「にしても五倍はいくらなんでも」


 理由はある。

 その動画の内容だ。


 例えば防具の装着の仕方を解説するには、やはり装着する人物が不可欠なわけで。

 動画の撮影は当然俺。

 じゃあ誰が装着したかというと、コルト。

 エルフである。

 しかも、どちらかと言えば女の子である。女性というには幼さが目立つ。


 そして跳ね上がったのは値段ばかりではない。

 再生回数とコメント数も半端なかった。


「その女の子、特殊メイクだろ」

「名前はなんて言うんですか?」

「オフやりませんか?」

「出品者との関係は?」

「どうやって知り合ったんですか?」


 コルトへの問い合わせのコメント数が圧倒的だった。


「防具の説明いらないから」

「説明はこの娘にしてほしい」

「水着の上から装着してください」


 不純な動機のコメントも、そりゃもう数え切れない。

 っていうか、せっかく時間をかけて説明文考えたってのに、何この報われない俺の仕事。


「私は別に気にしませんけどね。ここから出られる場所はあの迷宮しかありませんし」

「何というか……武装で他人の目を惹くって発想自体ヒいてしまうかな」


 何となく俺の評価が下がったような気がする。

 救世主と影で呼ばれなくなるなら、その方がいいけども。

 だがしかし。


「俺に何の収入もなくなったら、握り飯すら出なくなるから。儲けが増えればいろんな具や、おかずまで出るかもなー」

「いいぞもっとやれ」

「ちょっと! 私がいいように使われるんですけど?!」

「ここで働きたいって言ってたよな? この儲けはお前の功績なんだが」

「何かこう……私でなくてもいいような気がするんですが」

「ここにいる連中で、ここで働きたいって言った奴はお前以外にいないんだが」

「わ、分かりましたよぅ……」


 働きたい、という言葉は、自分にしかできない仕事をしたいという意味だったんだろう。

 不本意そうな顔で承諾を貰うのも、何か心苦しい。

 けどこれほどの儲けになるとも思ってなかった。

 幸いコメントの中に、次はこんな鎧や装備品を作ってほしい、というリクエストもあった。

 それに同意する人達もいる。

 次に製作する指針になりそうな分、こっちで頭をひねる手間が省けていい。


「で、これが次に作ってもらう装備品のリストな。素材が不足するなら店の商品になるような道具を作ってくれ。それも出来なさそうなら、完璧に近い装備品を。なんでもいいから」

「はーい。……これなら二組作れそうですね。あの防具の女性用です」


 ……つくづく、欲しいって人の使用目的が……。

 いや、何も言うまい。

 ただ粛々と、こちらは制作作業に入ってもらうまでだ。


「コルト」

「なんでしょう」

「今度のうどんの時は、月見うどんにしてやる」

「……はいっ! がんばりますっ!」


 うどんの時はいろんな種類を出してみたが、月見うどんが一番のお気に入りの様だった。

 死んだような目がいきなり輝きだすところが、現金な奴だなぁと思ったり、ちょっとだけ可愛いと思ったり。


「私もモデル、やってあげてもいいわよ?」


 女魔術師もエルフ族だったか。

 けどこれって明らかに……。


「うどん狙いか?」

「……休息も、時間が経ちすぎると退屈になるものなのよ。そうなると楽しみって言うと食べることくらいよね。お酒とかは出ないだろうし」


 まったく……。

 でもここから出たら、状況が改善されることはほとんどないんだろう。

 だから何度もここに来る者もいる。


 攻撃や防御の特訓場所とか作ることができたらいいだろうが、俺の世界の人間に怪しまれるよな。

 大きな建物作って、そこで一体何やってるのかってな。

 こいつらのいる場所すべて立ち入り禁止にしなきゃなんないしよ。

 でも情をかけるようなことを言えば、危険な状況をひっくり返せるくらいに力を伸ばせる場所を作ってやりゃあ、こいつらの一番の願いを叶えてやれることもできるし、ここで暗い顔を見る回数も減らせるんだろうけどな。


 それにしても、後で納税のことについて聞きに行かなきゃなんないかなぁ。

 収入が一気に増えそうだし。

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