#092:猛禽な(あるいは、バルチュアはハゲタカ)
「あれー、噂をすればじゃんー」
居酒屋ボイヤス外苑前駅店で今、溜王戦の延長戦みたいなことが始まろうとしているわけで。
店の奥の半個室。20畳はあるんじゃないかくらいの天井の高いスペースに、黒い長テーブルがどんと二つ。それぞれ10人くらいは座れそうだ。
その片方のテーブル席に、今しがた、僕を指差してきた黄色のセイナちゃんを始め、歴代(?)の実況少女たちが銘々、完全に酒入ってます感でいた。うわあ。
「……猫田がオトそうとしていたところに間一髪通りかかって事なきを得た」
「ぐ、偶然トイレですれ違っただけなんですぅ……」
桜田さんに首根っこを掴まれながら、猫田さんは先ほどまでの艷やかさはどこへやら、すっかり萎縮した様子でそう訴えるが、
「その後、戻ってくるや急用があるだの、明日に備えるだの、上っ面の言葉を残して? 荷物持って別のカウンター席で何してた?」
桜田さんのドス声での詰問に、あうう、と、ますます縮こまる猫田さん。嗚呼。
「そ、その辺で。せっかくご一緒出来たんですし、楽しくいきましょうよ」
僕が取りなす形となってしまった。
「ま、そだな。ゲストの言うことには従わねえと」
桜田さんはそう言って壁側のソファにどっかと腰を下ろす。僕はその正面の椅子に座らされたけど。
「ムロトミサキ〜、今日はかっこよかったぞ〜」
僕の左隣。人に箸を向けてきながら、真っ赤な顔でセイナちゃんが言ってくるけど、キミ未成年じゃないよね? おかっぱ頭で童顔なので、ついいらぬ心配をしてしまうけど。
「どこが……準決なんてギリギリだったじゃないっ」
と、吐き捨てるような感じの声が、僕の左斜め前から響く。紫の永佐久ちゃんだ。僕が席に着いた時からずっとそっぽを向いて頬杖をついたままだけど、そこまでツンツンされても。
「そんなことないでしょ、私、実況しながらこみ上げてくるもの……ありましたもん」
僕の右隣には正統派黒髪ストレート、非の打ち所のないほどの普通美少女、池田リアちゃん(黄緑)がいて、そんな嬉しいことを言ってくれる。ああ、これが夢でないなんて信じられないよ……。
「確かに。あの対局はベストバウトよね」
そして僕の正面には、ん? 誰だ? 落ち着いた感じの深い茶色のショートボブ。身につけたオフホワイトのカットソーの大きく開いた襟元からは、きれいな鎖骨がのぞいている。
「……あれ、お前だれ? って顔ね」
僕の怪訝そうな顔を見られたらしい。その眉のきりっとしたこれまた美しい女性が微笑みながらそう言ってくる。う、美しい……と少し見とれていると、
「っダメ人間にぃぃ、なりたいかてめえらぁっ!!」
いきなりキャラ入った大声。え!! まさか!!
「ダイ・バルチュアだ、少年」
で、電飾実況少女!! ピンクの髪に同色のすごい睫毛が無いから完全にわからなかったよ。でも驚きはそれだけじゃなかった。
「……またの名を『
せ、せ、セカンドインパ……じゃなく!! せ、せ、世界のハルナカやああぁぁぁっ!! カワミナミさんー、ここにいましたよぉぉぉぉぉぉっ!! えーとでも、溜王に出るって、このことだったのぉぉぉぉぉっ!?
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