#075:不敵な(あるいは、ワンforオールマン)

 <先手:29,035pt × 後手:122pt>


 諸々あったが、準決勝は「後手に28,913ボルティックブースト」で終局したかに思えた。が、しかし!!


「請け負うっ!! 桂馬ぁ!! レーゼっ、後は任すぜぇぁ!!」


 忠村寺がそう、雄叫ぶ。「請負ボタン」。仲間の分まで電撃を自分に集めることが出来ると先ほど説明されていたものの、誰もが忘れていた存在。


「……」


 その謎機能が、忠村寺の手で今まさに発動していることが、中央の大型ディスプレイに映し出されている。


 <忠村寺:9,656pt―桂馬:9,656pt―レーゼ:9,656pt>


 と、始めはそう三等分になっていたボルティックが、


 <忠村寺:21,656pt―桂馬:3,656pt―レーゼ:3,656pt>


 今やここまで忠村寺に集中していた。


「ぶ、ブーストまで残り5秒っ!! ナンバー29、耐ショック姿勢を取ってください!!」


 実況少女リアちゃんの警告。


「やめろ達磨!! 20,000なんてどうなるか判らんぞっ!!」


 桂馬も狼狽するほどのショックレベルが、このままでは忠村寺に行ってしまうわけで。10,000でも凄まじかったよ!? 冗談抜きでやばいのでは……しかし、


「……俺の人生はダメときどき大ダメ……いいね!! いいダメ人間だよ!!」


 にやりと不敵な笑みを見せただけで、忠村寺はペダルを黙々と漕ぎ続け、ショックの瞬間を待っている。か、覚悟を決めた男の顔だ。そしてついに、


「ブーストっ!!」


 リアちゃんの緊迫した声と共に、電撃が向こうチーム3名を襲う。


「ぐうっ!!」


「く、はぁっ!!」


 桂馬、レーゼさんにも3,000以上のボルティックは行っているはず。それでも二人はほんの少し声を漏らしただけで、漕ぐスピードを落としていない。何て精神力。さらに、


「あっ、いぎぃぃぃぃぃ、尻があぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!」


 とてつもない絶叫が辺りに響き渡る。20,000超級ボルティックを食らった忠村寺、しかしその脚は止まっていない!? 全身をぶるぶると震わせ、その回転はじりじりと這うようなスピードだけど、止まっていない!! ペダルはまだ止まってはいないぞ!!


「着手続行っ!! お互い先ほど5秒を超えたのでそれぞれ『13km』『17km』にペースアップ!!」


 そうか、さっき僕もオーバーしてた。こっちのチームは体力が限界っぽい。今の漕ぎスピードは8kmしかないよ。こ、このまま向こうに粘られたらこっちの脚が止まってしまう。どうする? 先手? 後手? どっちかに賭けるしかないっ!! 


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